今回のサスなひと:「essentia」オーナー ユキトさん
学芸大学駅から公園通りへ徒歩2分。木造りでカフェのような雰囲気に吸い寄せられるようにお客さんが入っていく小さなお店がある。この街で4年目となるお店を続ける「essentia(エッセンティア)」のオーナーが、ユキトさんだ。昨今はオンラインでの仕事もしやすくなったというオーナーに、お店とオンラインでお話を伺いながら、ご自身の「サス活」を探った。(聞き手・取材:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜)
EM 腰塚:2月末にユキトさんとエッセンティアのワインに出逢い、また取材が出来て嬉しいです。あれから5か月、どのようにお過ごしでしたか?
ユキトさん:お店の活動とプライベートな集い、いずれも半分ずつくらい、オンラインによるコミュニケーションをしていました。学芸大学まわりの中の良い飲食店さんに協力を仰いで、お店のお料理とエッセンティアからのワインを参加メンバーのご自宅にお送りして、みんな揃って同じ料理とワインを飲みながら解説するという楽しみ方にもトライしていて、これを一般の方向けにもできたらなと企んでいます。お店はオープンしてもうすぐ丸4年になります。
ユキトさん:お店の立ち上げの際から、奥の個室(ワークショップスペース)を設けていて。商品のストーリーを啓蒙するための場づくりは、物販を始める時の大きなポイントでした。販売する場所だけじゃなく、インタラクティブに交流する場所を作りたいなと思って。ここで開催してきた「ワイン会」は80回以上、のべ400~500人以上参加されていて、遠くはイタリアのミラノから愛媛への帰省のタイミングで立ち寄ってくださったり、北海道・札幌から出張時にご参加してくださったりする方もいらっしゃいました。
ユキトさん:(画面でFacebookページを見せながら)これがお店のイベント一覧です。生産者別のナチュラルワイン会とか、品種別ワイン会だとか、いろいろやってますが、人気は「オレンジワイン会」。オレンジワインってもちろん知ってますよね?
EM 小田部:オレンジワイン、旨いですよね~。なんで今までなかったんだろうというくらい。
EM 腰塚:詳しくなかったです・・・気になります。
ユキトさん:ワインって白・ロゼ・赤とある中で、通常、白ブドウの果汁を使って白ワインを造り、黒ブドウの果汁、果皮、種を使って赤ワインを造ります。オレンジワインというのは、素材は白ワインを造るときと同じ、白ブドウなんですけど、造り方は赤ワインと同じく、果皮と種も加えて造るんです。すると、果皮と種からタンニンと色素が出て、見た目の色はオレンジ色で、味わいには渋みが感じられ、一般的な白ワインよりも果実味やうまみを感じられます。
オレンジワインは、合わせられるお料理の幅が広いものが多いですね。渋みやボディが一般的な白ワインよりもあるので、シンプルな味付けのお肉などのメイン料理にも行けますし、お出汁のようなうまみを感じられるものも多いので、和食などにも合いますね。日本人の味覚にはとても相性がいいと思います。
ワインだけでなく、食全般にこだわる場づくりがしたかった
ユキトさん:「ワイン会」は食を楽しんでもらう狙いもあるので「つまみ」も尖っています。皆さんワインをきっかけにいらっしゃるんですが、ワインを造るためのブドウ栽培のいろいろな違いや醸造の仕方の詳細をご紹介し、みなさんから質問が出始めて関心が高まったタイミングで「今、召し上がっていただいているパンは・・・オリーブオイルは・・・」とお話しすると、皆さん、そこで一気に身近な食品の原材料や造り方にも興味がわく。そこから質問が止まらなくなり、毎回いつも延長です(笑)
EM 腰塚:ワインから食へ目線を広げてもらうための「ワイン会」でもあるんですね。
ユキトさん:サステナビリティに関心を持つ前は「食べる・つくる・おもてなしする」が好きだったこともあり、飲食店をやろうかなとも思いましたが、自分の興味・思考が変わってきた結果、毎日買って帰って食べるもの・使うものがいいなと思うようになりました。厳選したワインや食材を、日々の生活の中に溶け込ませたかったんです。
EM 腰塚:お店に行くとすぐに気づくのは、海産物が多いこと。生鮮の鮮魚を仕舞う保冷ケースに、乾物の煮干し・・・そして自然食品店でもあまり見かけない「無酸処理」なんて書いてある焼き海苔がさりげなく置いてあったりして、興味津々で手にしていたら、漁場の希少価値をどんどん語り始めたユキトさんに驚いてしまいました(笑)。
EM 小田部:個人的にユキトさんの魅力だなと思っている点が生産者の紹介をきちんとするところ。ワイン生産者の話まで伝えると思うんですが、その時どんな風に伝えることに気を使っていますか?
ユキトさん:販売でもセミナーでも生産者の話はよくします。伝えたいのは、生産者の想いや生産者の置かれている環境。さらに、その土地の個性、歴史を伝えるようにしています。ワイン単品からは見えませんけど。僕はイタリア20州すべて旅行で回っているので、文化の特性まで話して、聞いた人が行ってみたくなるとか「想像的に体験」できることを大事にしています。
EM 小田部:人柄や哲学がイメージできると、ワインの味にも差が出る感じ、すごくわかります。
ユキトさん:以前は、数値化された基準でわかりやすくワインを選ぶという流れもありましたが、今はその数値の影響力が以前より弱まってきていると思います。生産者の哲学やストーリーを知ることやイベントで実際に味わってみることなど「思いに触れる」「実際に体験する」ことが飲み手の心を掴み、結果としてワイン・造り手の個性でワイン選びをする人が増えているのではないでしょうか。
取材・聞き手:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜