トカラ列島の民宿掃除でみえた”島暮らしの哲学”
2020.08.21 UP

トカラ列島の民宿掃除でみえた”島暮らしの哲学”

LOCAL

片付けの基本は「捨てること」。これまで、そう信じて疑わなかった。まずものを減らす、掃除はそこから始まると。しかし、それがどんなに視野の狭い考え方だったか……。この島には、捨てない哲学があった。島の人は、困った状況に都度対応しながら独自の哲学を築き上げながら生きている。それは「文字」ではなく、「語り」の世界である。頭でっかちの現代人の思考を恥ずかしく思った。天候ひとつでライフラインが絶たれてしまう環境の下、確実に生き抜いてきた人間が発する生の言葉は、どんなメディアを通して触れる言葉よりも重いものだった。なぜ、この島ではものを”捨てない”のだろうか?

黒潮の海に浮かぶ平らな島

平島は、鹿児島本土と奄美大島の間に位置するトカラ列島のひとつ。人口は約60人ほど、コンビニも食堂もない小さな島である。しかし、釣り人やバードウォッチャーには非常に人気のある場所で、さらに古い民俗文化が残り地質も変化に富んでいるため、全国から学者も多く訪れている。加えて、インフラ工事に入る人も多いので、このはるか遠い小さな島は想像以上ににぎやかである。
地図を見ると分かるが、トカラ列島は東アジア文化とヤマト文化、琉球文化が入り混じった地域である。口之島、中之島、諏訪之瀬島、平島、悪石島、小宝島、宝島の7島は、その位置と海流の影響により、各島独自の文化が根付いている。地質も異なり、平島は粘土質なので水が豊富。そのため古くから人が生活しており、棚田の跡が残っている。ほかにも藺草の一種、七島藺が自生するなど、非常にユニークな島なのである。

お掃除力が買われて出稼ぎに

廊下には魚拓がずらり。到着したお客さんは真っ先に自分の魚拓を紹介してくれた
廊下には魚拓がずらり。到着したお客さんは真っ先に自分の魚拓を紹介してくれた


すべては、トカラ列島を研究している知人と一緒に訪れたのがきっかけだった。知人の旧友である民宿のご主人のご好意により、無料で泊めていただいたうえ豪華な料理までご馳走になった。申し訳ないのでお礼に掃除をして帰ったところ、「手伝いに来てくれないか」と声がかかったのである。幸いフリーランスで自由が利いたので、必要としてくれるならばと2週間ほど働かせてもらうことにした。おもな仕事は掃除洗濯、調理補助と配膳である。

民宿は、本当に大変な仕事だった。ご主人は、釣り客を一度船に乗せたら絶対に手ぶらでは帰らせない。もちろん、魚を捌くのも仕事だ。料理に関しては、過去に関東の一流レストランでシェフをしていたほどの腕前である。何より感動したのは、長期滞在のお客さんのために毎日メニューを変えること。島にはコンビニも食堂もないので、3食を民宿で世話しなければならない。特に仕事で来ている人にはせめて食事だけでも楽しんでほしいと、魚が多くなりがちのメニューに、肉や麺類などを取り寄せ、飽きないように工夫している。接客、調理、掃除洗濯、アクティビティ、これら全てを器用にこなす。しかも、お店ひとつない離島で。民宿仕事たるものがこれほど多様性に富み、段取りが必要なものだとは思いもしなかった。

文・写真:青木紀子

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