世界の縮図としての洞窟式庭園
2020.08.19 UP

連載 | SUSTAINABLE DESIGN 世界の縮図としての洞窟式庭園

SUSTAINABILITY

岩壁を穿った洞窟式庭園。この庭を作ったのは、鎌倉時代の高僧・夢想疎石である。夢窓は、各地に優れた庭園を作った作庭家としても名高く、7人の天皇や上皇から国師の号を与えられた大人物だ。京都・南禅寺などの官寺の職に強く請われ、仕方なく着任するもその度すぐに退いている。退いて何をするのかというと、山奥に居を構え、庭を作るのだ。なぜ仏僧が作庭をしきりに行うのかというと、寺の伽藍は、世界の縮図、世界の原理を理解する装置のようなものとして考えられていたからだろう。つまり、作庭をする僧たちは思想家であるのと同時に世界の在り様を示すビジョンリーダーでもあったのだ。

夢窓疎石の庭の中で、最も謎めいている庭が鎌倉の山奥にある瑞泉寺庭園である。この庭園の一番のクライマックスは、なんといっても洞窟庭園とその洞窟を抱く岩壁であろう。大きく穿たれた洞窟は、一体何の目的で作られたものなのだろうか。有力なのは、禅宗の始祖・達磨大師が岩壁に面し座禅を組んでいた面壁の姿の再現という説で、実際に夢窓が洞窟の中で座禅を組んでいたのかもしれない。しかし一方で、禅宗では、庭を観ながら座禅を組み、庭の中に自己の身体が在ることを想像する修行もあるというから、洞窟の中に入らずして、洞窟の中に自らの身体があることを想像することによって、悟りを得ていたのかもしれない。

コロナ禍の数か月で、おそらく誰もが痛切に感じていたのは、たとえ小さくとも、身近に自然が在ることの重要性だと思う。庭には植物があり、虫や鳥がいる。庭に身を置くことで、大げさに言えば、命の手触りを実感することができる。瑞泉寺庭園のすごさは、命の手触りを強く感じるのと同時に、それを超越する自然への畏怖のような感覚を伝えてくれるところにある。大地に我々の世界は乗っかっていて、誰しもがいつかは大地に還るのだ、という当たり前のことを岩壁にぽっかり開いた穴を眺めていて気づかされる。

 

「瑞泉寺庭園」
住所:神奈川県鎌倉市二階堂710
作庭年: およそ1328年ごろ(1969年に発掘復元されている)

©Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi

キーワード

藤原徹平

ふじわら・てっぺい
建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。