仕事を探す仕事
2020.08.22 UP

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか | 54 仕事を探す仕事

DIVERSITY

 ある日突然、外出が長期間制限されることになった。新型コロナウィルスの影響により、世界中の人々が想定の域を超える事態に直面している。とりわけ、仕事へ与えたインパクトは大きい。自宅でのリモートワークを強いられることになった人は多いだろうが、その実感もさまざまだ。戸惑いとストレスを抱える人もいる一方で、結果的に仕事が効率化した人もいる。もちろん業種によるし、すべての仕事がリモートで完結するわけではない。そもそも継続自体できない仕事だってある。

 これから10年、20年のうちに、ある特定の仕事だけができる「特化型人工知能(N
arrow AI)」から未知なる状況にも仮説を立てて柔軟に対応する能力を備えた「汎用人工知能(AGI : Artificial General Inte
lligence)」へと進化をするだろう。それに伴い、人工知能が担える仕事は一気に増えるというより、担えない仕事を探すほうが難しくなる。

 そんな未来へのプロセスを歩んでいる中でのコロナショック。各種作業の自動化、店舗の無人化志向はさらに強まり、それらを実現するための人工知能が求められる。いま在宅リモートで対応している多くの仕事も、きっと人工知能が代行してくれるようになる。

 人間にしかできない仕事をポジティブに見出したい僕ですら、突き詰めれば突き詰めるほど、人間にしかできない仕事をイメージすることが日に日に難しくなっている。
少なくとも50年後の世界では、「汎用人工知能」が社会のあらゆる営みの中心にいるはずだ。

 人工知能で経済指標の分析を行い、高い投資パフォーマンスをはじき出すファンドは、未来ではなく現在進行形の話だ。しかし、優秀なファンドですら、今年の2月以降の株価急落には対応できず、運用成績を悪化させた。人工知能も株価は暴落しないと判断して株式を保有し続けたものの、結果は違った。人工知能は膨大な過去のデータから未来を予測するが、機械学習で磨いたはずの運用スキームが機能しなかったのだ。コロナショックのようなアクシデントによる株価暴落は、統計学的に1600億年に1度という天文学的な発生確率だと言われ、さすがの人工知能も限界を示したように映る。

 とはいえ、人工知能が過去のデータだけに依存し、未来の予見が不可能だというわけではない。「汎用人工知能」の時代においては、人工知能が自ら仮説生成能力を持ち、少ないデータから得た知識を駆使して未知のことを予測し、予測をベースに判断と行動ができるようになる。米国の医療系企業の『メタバイオタ』では、各国の報道や人間の地域間移動などを人工知能が分析して感染拡大リスクの見通しを出し、パンデミックの予兆を事前に察知していた。これをもとに警告を発したものの、分析データが少ないことや信憑性の観点で、世間からはさほど重く受け止められなかった。ところが、結果はこのとおりである。半信半疑の未完の技術は、未来へのポテンシャルを感じさせた。

 人間にしかできない仕事を無理に探すよりも、ほとんどの仕事を人工知能に託した後に人間がなすべきことを考え、「仕事を探すことが仕事」になる未来。コロナショックは、人間をそんな世界へと加速させるのだろうか。

文●小川和也

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行いJ-WAVE『FUTURISM』で番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。また、実業と学術を往来し多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)