祖父と父が作り続けた「サイコロ印」手袋を守る。大宮裕美さんに訊く、繊維リサイクルの今。
2020.08.31 UP

祖父と父が作り続けた「サイコロ印」手袋を守る。大宮裕美さんに訊く、繊維リサイクルの今。

SUSTAINABILITY

「サイコロ印」を、もっと多くの人へ。

特紡工場見学

 各地の反毛工場や特紡工場を見学しながら、捨てられるはずのものを再び価値あるものへ生まれ変わらせる熟練の技に、大宮さんは心を惹かれていた。そして、この地域が育んできた繊維リサイクルの技術と、石川メリヤスのルーツとも言える「サイコロ印」シリーズの存続のために動き出すことを決意する。

大宮さん「そもそも、私の祖父の時代から作っていたオリジナル商品が『サイコロ印』の手袋だったので、これをもっと世の中に出していかないと、と思っていました。そうじゃないと私が社長をやっている意味がなくなるというか、もう失敗してもいいので、何か打開策になる試みをやってみたいという気持ちが強くなったんです」

 これまで主に軍手やモップなどに使われてきた特紡糸だが、近年では海外製の安価な糸製品の流入により需要が減っているという背景もある。その特紡糸から作られる「サイコロ印」の手袋が一般の人びとにも広まれば、地域の反毛工場や特紡工場への安定した需要が生まれる。そうすれば、創業以来のオリジナルブランドとして長年愛されてきた「サイコロ印」も作り続けることができる。こうした考えのもと、これまでプロ向けに販売してきた「サイコロ印」の作業用手袋を、一般向けに発売することを決めた。

サイコロ印_プロ向け
これまでプロ向けに販売されていた「サイコロ印」の手袋。鉄工所の職人や漁師など、多くの人に愛されてきた。

 しかし、これまでプロが使ってきた、普通よりも高価な作業用手袋、いわゆる軍手が、一般家庭に需要があるのか? 先代の父・君夫さんを含め、最初は懐疑的な声もあったのだとか。

大宮さん「父に話をしたところ、最初は『そんなものは絶対に売れない』と言われました。その後、社内の各部署のリーダーに集まってもらってこの考えを話した時は、良い反応もあれば、やっぱりあまりピンと来ていない感じもありました。でも、話すうちに『ブランドものの軍手ってないよね』とか『うちの軍手って、本当に丈夫でモノが良いよね』という意見もあり、“石川メリヤスの高級軍手”として世間に知れ渡ったらおもしろいんじゃないか、という声も聞かれるようになったんです。それで、売り方を工夫すれば売れるんじゃないかという気持ちが湧いてきて、正式に一般向けの発売を決めました」

現在では貴重な、特紡糸の軍手。

サイコロ印_No.1
一般向けに発売された「サイコロ印」シリーズの中で最厚手のNo.1。ハードな作業に向いており、バーベキューやキャンプでも活躍しそう。

 「サイコロ印」の手袋は、特紡糸ならではのふっくらとした独特な風合いが特徴だ。使い捨てのイメージがある一般的な軍手とは異なり、何度洗っても型崩れすることなく、しっかりとしたフィット感がキープされる。大量生産の安価な糸で作られる軍手が主流の今では、特紡糸で作られる軍手が貴重になりつつあるのを感じているという。

大宮さん「我々のような軍手工場の業界にしても、戦後200件くらいあったのが、今もう30〜40件ほどになっています。仲間内でもほぼ廃業して、名前は残ってるけど実際はほとんどやってない、というようなことも聞きます。だから今では、特紡糸の軍手というのは貴重になってきていると思いますね」

 その丈夫で柔らかな着け心地が多くの職人に愛されてきたからこそ、「サイコロ印」は変わらず、地場の特紡糸を使って作り続けられている。

家庭の中で、長く愛される商品を目指して。

サイコロ印_全種類

 そして、ぜひ使い捨てではなく、一組を長く大切に使ってほしい、と大宮さんは話す。

大宮さん「基本的に作業用の手袋って、12組のダース売りですよね。たぶん『使い捨てだからそれでいいよね』という考え方なのだと思いますが、私達は一組を大事に使ってほしいと考えています。そして、軍手って一口にいってもいろいろあるんですよね。少し厚めのものだったり、素材が摩擦に強いものだったり。でも、何を買っていいかわからない方も多いと思うので、それぞれ用途別に、使用シーンを設定しました。日常でどんな軍手を使ったらいいのかなって想像してもらえるように、パッケージにもそのイラストを描いてもらっています」

 そう話す通り、これまではプロ向けにダースで販売していたものを、一般向けに一組ずつ購入できるようにした。さらに、日常生活のさまざまなシーンで使われることを想定し、用途別に厚みや耐性の異なる7種類が用意され、ひと目でその種類がわかるよう、手首のかがり縫いや手袋自体の色を変えている。7種類を並べて見ても楽しい、カラフルな見た目にもこだわった。

石川メリヤス_かがり縫い
手首のオーバーロック(かがり縫い)を行う、先代社長の石川君夫さん。これまでの豊富な経験を活かし、今も現役で活躍している。

 7種類の軍手それぞれを試したお客さんからは、「今まで気にしたことがなかったけど、こんなに違うんだ」という驚きの声もある。“軍手”と聞くと、多くの人はホームセンターなどで販売されている格安の手袋を想像するのが普通だろうし、その使用シーンもかなり限られたものかもしれない。しかし、手の安全を守り、スムーズな手作業を助けてくれるのが“軍手”だ。その日常の中での使用シーンは、普段我々が考えているよりも、もっと幅広いはずなのだ。

 今年7月に発売されてからは、自宅でのDIYやキャンプ用だけでなく、製品としての質の高さや個包装の特別感で、ギフト用として購入するお客さんもいるのだそう。これまで軍手をプレゼントしたことがあるという人は少ないかもしれないが、DIYやキャンプ、家庭菜園などの自宅作業に人気が高まっている中で、これからはギフトとしての軍手を喜ぶ人も多くなりそうだ。

サイコロ印_タブ
手首に取り付けられたブランドネームタグは、フックに引っ掛けられるようになっており、保管しやすいのも嬉しい。

「サイコロ印」を守り続けていくために。

 一般へ向けた「サイコロ印」シリーズの販売スタートからはまだ間もないが、大宮さんは「これまで多くの職人に愛されてきた歴史と同様、家庭の中でも長く愛される商品になってほしい」と話してくれた。

 石川メリヤス社としての歴史だけでなく、愛知県西三河地方の繊維リサイクル産業の歴史を紡ぐ、「サイコロ印」の作業用手袋。単なる“高級軍手”という枠を越えて、製品の背景にある地域の繊維リサイクル産業の歴史と、資源を無駄にしないリサイクル製品としての価値をさらに多くの人へ届けるべく、大宮さんの挑戦はまだまだ続いていく。

石川メリヤス_大宮さん

Miho Aizaki

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