地球の未来を考え、学ぶ『HOTEL WHY』。
2020.09.01 UP

地球の未来を考え、学ぶ『HOTEL WHY』。

SUSTAINABILITY

人口1500人ほどの山間の町に、今年5月にオープンした『HOTEL WHY』。
循環型社会やゴミについて学び、体感できるおしゃれでユニークな宿泊体験施設です。

ゴミ箱の先を想像する、ゼロ・ウェイストなホテル。

 徳島県・上勝町は45分別という徹底的なゴミの分別で全国に知られている町だ。2003年に日本の自治体として初めて、ゴミをゼロにする「上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)宣言」を掲げて以来、町民は自分たちの手でゴミをゴミステーションに持ち込み、分別。生ゴミは各家庭のコンポストで堆肥化するなどゴミの再利用や再資源化に取り組み、今年20年までに焼却や埋め立て処分を減らすよう努力を続けてきた。

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自然豊かな環境に囲まれた『WHY』。右下のクエスチョンマークの丸い部分が『HOTEL WHY』。
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『HOTEL WHY』の外壁には弁柄と柿渋が塗られている。ロゴには廃材を利用し、「H」にはアルミサッシの枠、「E」は工事現場の管。

 そんな町のシンボルとも言えるゴミステーションが建て替えられることになり、敷地内に小さなホテルが1棟、5月30日(ゴミゼロ)にオープンした。名前は、ゼロ・ウェイストアクション・ホテル『HOTEL WHY』。建物全体は、上から見ると色のクエスチョンマークのように見える『上勝ゼロ・ウェイストセンター「WHY」』(以下『WHY』)という町の公共施設で、建物内に、ゴミ分別所の『ゴミステーション』、リユース施設『くるくるショップ』、『ラーニングセンター&交流ホール』、『コラボレーティブラボラトリー』、そして、『HOTEL WHY』があるという構成だ。CEO(チーフ・エンバイロメンタル・オフィサー)の大塚桃奈さんは、「『HOTEL WHY』に宿泊し、上勝のゼロ・ウェイストへの取り組みを知ることで、ゴミ箱の先を想像してほしい。日常生活にゼロ・ウェイストのマインドを落とし込むためのアクションを宿泊体験のなかにちりばめています」と話す。

マウンテンビュー
朝、心地よい光が差し込むマウンテンビューの部屋。ウッドデッキで朝食を摂れば最高の気分。とりどりの窓枠は、すべて町民が寄付してくれたもの。

 アクションとは、多くの宿泊施設で提供される使い捨てのアメニティが『HOTEL WHY』にはないということ。寝間着も持参してもらうようウェブサイトで呼びかけている。石鹸も持参を勧めているが、忘れた宿泊客はチェックインの際に必要な分量だけ塊から切り取って部屋に持ち込むことができる。歯ブラシを持っていない場合は受付で購入。ウェルカムドリンクとして振る舞われるコーヒーも、必要な分の豆をミルで挽いて部屋へ。コーヒーが苦手な宿泊客には上勝晩茶が用意されている。

 独特の体験が、ゴミの分別だ。泊まる部屋にはカゴに入ったダストボックスが置かれ、自分が出したゴミを紙、プラスチック、瓶・缶、ペットボトル、生ゴミ、その他の6種類に分別する。希望者は朝10時から、ゴミステーションでさらに細かく分別しながら捨てるのだが、体験してみると45分別の徹底ぶりに驚かされる。そんなふうに、『HOTEL WHY』に宿泊し、アクションを体験すると、普段何げなく捨てているゴミ箱の先を想像しないではいられなくなる。「ゴミの分別を通して、自分の生活そのものを見つめ直すきっかけになれば」と大塚さんは言う。

ゴミステーション
ゴミを分別する『ゴミステーション』。

 『くるくるショップ』でもユニークな体験ができる。町民が不用になったものを持ち込んでリユースする施設で、「ショップ」と呼ばれているが、すべて無料で持ち帰ることができる。もちろん、宿泊客もOK。食器や衣類、生活雑貨が多いが、「なかには大八車といった珍しいものも持ち込まれます」とスタッフの田村浩樹さんが見せてくれる。上勝町になる前の時代のもので、古い鑑札が打ち付けられている。「町のお年寄りが『ナンバーがついてるからヌケ(非合法)やない』と教えてくれたり」と田村さん。『くるくるショップ』は、そんな町の歴史や町民の暮らしぶりが垣間見える品々をくるくると循環させ、受け継ぐ場。上勝町のお土産として、気に入ったものを持ち帰るのも楽しそうだ。

くるくるショップ
リユース品が並ぶ『くるくるショップ』。

残り20パーセントの課題解決のために。

 『HOTEL WHY』の名前には、「なぜ?」という問いかけが込められている。「なぜそれを捨てるのか?」と消費者に、「なぜそれを作るのか?」と生産者に向けた問いかけ。「一人ひとりが『なぜ?』を持って上勝に遊びに来てほしいです。あるいは、上勝に来たことで、『なぜ?』が心に湧いてくる人もいるでしょう。問いかけることが『HOTEL WHY』のテーマです」と、『WHY』をプロデュースした『トランジットジェネラルオフィス』の岡田光さんは話す。『WHY』開設に携わった『RISE & WIN』社長の田中達也さんはこう言う。「正直、45分別は手間がかかります。だから、なるべくゴミを出したくなくなります。それが45分別の狙いの一つ。大事なのは分別ではなく、そもそもゴミを出さないことなのです」。

 ゴミを減らすゼロ・ウェイストの取り組みは今年、目標年を迎えたが、達成できたゴミのリサイクル率は約80パーセントだった。「リサイクルできない約20パーセントのゴミは、使い捨てカイロや使用済みのおむつ(上勝町は高齢者用が多い)など、どうしても燃やさなければならないものと、どうしても埋めなければならないものです」と大塚さん。「17年かけて取り組んできましたが、100パーセントは無理でした。でも、残りの20パーセントの存在を明らかにできたことがゼロ・ウェイストの成果だと思っています」。

 ゴミステーションに持ち込まれたソファは、町の作業員が布、金具、スポンジなどマグロの解体ショーのように分解してリサイクルしている。「リサイクルにはとても面倒な作業が伴います。メーカーはリサイクルしやすい設計の商品を開発し、消費者はそういう商品を進んで買うという社会を築くこと。その推進が、上勝町のチャレンジになります」と、大塚さんは強い口調で話した。「そのためにも、併設する『コラボレーティブラボラトリー』でメーカーや研究機関、デザイナーが一緒になり、リサイクルのアイデアや仕組みづくりを考えていける環境をつくっていきたいです」と、『WHY』共同代表の小林篤司さんも言う。「平和教育は広島、長崎。環境教育は上勝というように、ゴミについて学ぶ代表的な場になって、ゴミや環境問題に興味のない人にこそ来て、気づき、学んでほしいです」と、岡田さんは若い世代に期待を込める。田中さんは、「上勝町のユニークさを知った若い人たちが町を気に入り、移住も視野に入れて遊びに来てくれるようになったら、なおうれしいです。いくらゼロ・ウェイストに取り組んでも、人が住んでいなければ意味はないので」と、人口減少という大きな課題も口にした。

 興味を持ったら、ぜひ上勝町に遊びに来て、ゼロ・ウェイストを体験してほしい。ゴミ箱の先が、地球の未来が、見えてくるはず。

 

HOTEL WHY
住所:徳島県勝浦郡上勝町福原下日浦7-2
www.why-kamikatsu.jp

 

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui