茶畑の中のティーテラスで、贅沢なお茶体験を。静岡の茶畑を未来へ繋ぐ「茶事変プロジェクト」
2020.09.04 UP

茶畑の中のティーテラスで、贅沢なお茶体験を。静岡の茶畑を未来へ繋ぐ「茶事変プロジェクト」

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 静岡県のいたるところに広がる、茶畑。東海道新幹線の車窓からも時折見えるこの景色は、独自のお茶文化を持つ日本らしい風景のひとつでもある。しかし今、この茶畑が次々に失われている現状があることをご存じだろうか? 日本に根付いてきたはずのお茶文化、そして茶畑の風景を未来へ繋いでいくため、お茶の魅力を発信する新たな取り組みが、静岡で始まっている。

急速に失われつつある、茶畑の風景。

 古くから日本各地で栽培されてきた、お茶。中でも静岡県は、全国の茶園面積、収穫量の約40%を占める、言わずと知れた日本一のお茶の産地だ。そして生産だけでなく、緑茶の一世帯当たりの年間支出金額や購入数量といった消費面でも静岡市が全国1位という、国内屈指の茶どころである。

静岡_茶畑

 しかし、そんな静岡県の茶畑は今、急速に姿を消しているという。全国的に見ても、お茶の販売で生計を立てている茶農家の数は大幅に減っており、同時にお茶の栽培面積もゆるやかに減少。日本全体としても茶畑の風景が徐々に失われつつある流れの中で、日本一を誇る静岡の茶畑も厳しい状況に置かれている。

 その要因として大きいのは、茶葉の需要が減っていること。これまで各家庭の中で、急須と茶葉でお茶を淹れて飲むのが一般的だったが、15年ほど前からは、ペットボトルなどの茶飲料が茶葉の消費を上回っている。いつでも手軽に飲めるペットボトルのお茶が普及したからこそ、わざわざ急須や茶こしなどの道具を揃えてお茶を淹れるということ自体、以前よりもハードルが高くなっているようだ。

茶事変_緑茶

 一方で、ペットボトルのお茶を含む、茶飲料用に使われる茶葉の需要は増えている。しかし、こうした茶飲料に使われる茶葉は、一般的に単価が低い。生産にかかるさまざまなコストを考えると、それだけでは茶農家の経営として厳しいのが現状だ。

 こうしたお茶を取り巻く環境の変化によって、茶産業全体としても厳しい状況にある。業界全体の厳しさから新規参入する人の数は減り、廃業する茶農家が増え、高齢化や後継者不足などの深刻化も進む。すでに耕作放棄地となっている茶畑も複数あり、こうしている今も、茶畑のある風景が失われつつあるのだという。

 そうした現状を受け、これまでの“お茶”に対するイメージを超えた新たな体験を通じて、お茶の持つ可能性を広げようと静岡で立ち上がったプロジェクトがある。それが、「茶事変プロジェクト」だ。飲むだけではない、新しいお茶の体験が注目を集めているこの取り組みについて、企画を手掛ける、するが企画観光局の鈴木杏佳さんに話を訊いた。

「茶事変プロジェクト」とは?

 「茶事変プロジェクト」は、「お茶は、もっと自由で、楽しい。」というメッセージを掲げスタートした、静岡発のプロジェクト。お茶の持つ可能性をさらに広げ、新たな魅力や価値を発信するべく、さまざまな企画に取り組んでいる。

茶事変_合組
茶師が、ゲストの好みやライフスタイルに合わせてオリジナルのお茶を作る「合組」。さまざまな種類の茶葉と、ハーブやスパイスなどをブレンドして作られるお茶は、世界にひとつだけの味わい。

 現在は、広大な茶畑の中でお茶を楽しむ「茶の間」や、茶葉とハーブやスパイスをブレンドしてオリジナルのお茶を作る「合組」など、これまでのお茶のイメージにとらわれない独自の取り組みが実施されている。

絶景の中で、お茶の奥深さに驚く体験。

 中でも特に注目を集めるのは、茶畑の中のプライベートティーテラスでお茶を楽しむことができる「茶の間」。提携する6か所の茶畑で、それぞれ特徴のある絶景が広がる中、茶農家さん自らが厳選したお茶を味わう体験ができる。茶葉のセレクトはもちろん、淹れ方にもこだわってふるまわれるお茶は、普段飲んでいるものとは全く異なる味わいになるという。

茶事変_茶の間

 たとえば、一煎目はぬるく、二煎目は濃く、といったように、淹れ方による違いを見せてくれる茶農家さんもいる。そうして淹れられるお茶は、同じものとは思えないほどの違いを感じるのだという。「みなさん、茶農家さんの淹れてくれたお茶を飲んで、その違いに驚かれます。そういうお茶の体験自体にも、すごく価値があると思っています」と鈴木さんは語る。

茶事変_茶の間

 いつでも美味しく飲むことができるペットボトルのお茶が便利な一方で、お茶本来の香りや味わいの豊かさ、バリエーションを感じられるのは、やはり茶葉から淹れたお茶だ。しかもその味わいは、茶葉によって味が異なるのはもちろん、淹れ方によっても変化するというから奥が深い。

 自分ではなかなかそこまでこだわれないという人も、この「茶の間」でなら、茶農家さんのふるまい茶を通してその違いを体感することができる。そしてまずは、「茶葉でお茶を飲む」という体験こそ、緑茶をはじめとする日本茶の価値を改めて見直す一歩になるはずだ。

お茶を作るだけだった茶畑が、観光地に。

 また、これまで単なるお茶を作る現場でしかなかった茶畑に、茶の間を通じて多くの人が訪れる光景は、茶農家さんにとっても新鮮に映っているようだ。実際に「ここが観光地になるんだという新しい発見があった」という茶農家さんからの声もあり、自らの茶畑に新しい価値が生まれたことを喜ぶ声も聞こえてくる。

 「茶の間の受け入れを重ねるごとに『もっとこうしたほうがいいんじゃないか』というアイデアをいただいたり、茶農家さん自ら積極的に受け入れ体制を整えてくださっているのを感じます。この茶の間の取り組みが、茶農家さんにとっても良い刺激になっていたら嬉しいですね」と、鈴木さんは話す。

茶事変_茶の間

 茶農家自身にとっては、茶畑は単なる生産の場であり、当たり前の風景だったかもしれない。しかし、その立地によって特徴の異なる各茶畑の景色は、その土地でしか出会えない、静岡ならではの絶景ばかりだ。その価値に気づくことができたのも、するが企画観光局という外部からの視点があったからこそなのだろう。

 こうした茶の間の取り組みは、2019年のスタート以降徐々に注目を集め、今では多くの人が静岡の茶畑を訪れている。「まずは体験をきっかけにして、ここで飲んだお茶が美味しかったから、日常的にお茶も飲んでみようと思ってほしい」と鈴木さんが考えている通り、今までお茶に馴染みがなかったという若い年代の利用者も多いのだそう。

茶事変_茶の間

 茶の間を利用した人からは、お茶や景色の素晴らしさはもちろん、「実家に帰ってきたようなホッとする安心感がある」と評判になっている。ただお茶を飲んで終わりなのではなく、お茶を作る現場で茶農家さんと交流ができるのも、茶の間ならでは。ペットボトルのお茶では見えづらい、生産者や生産の風景を間近で体感することで、お茶の存在はより一層身近なものになっているようだ。

Miho Aizaki

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