憂国呆談 season 2 volume 108
2019.06.05 UP

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談 season 2 憂国呆談 season 2 volume 108

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【今月の憂いゴト】
統一地方選挙と
OSAKAの行方から、
暴走車両死亡事故、
ボーイング737と
F-35戦闘機の墜落、
来年の台湾総統選挙まで。

東京・武蔵野市にある無人古本屋『BOOK ROAD』。田中・浅田両氏は、商店街に面する建物の1階にある店舗を訪ね、並べられた古本の背表紙を眺め、手に取りながら、田中氏は本の代金を精算するガチャガチャを回して気に入った本を購入。店長の中西功さんが並べてくれた簡易な椅子に腰を下ろして、平成から令和に移りゆく日本の現在と未来を語り合った。

大阪は都構想を目指すも、
ヴィジョンが希薄?

浅田  今日は武蔵野市の無人古本屋『BOOK ROAD』に来てる。JR中央線の三鷹駅からそんなに遠くない商店街にあって、いつでも勝手に入れるのがいいね。

田中  ここを紹介するルポルタージュをネット上で読んで、僕も興味を抱いていた。今年『楽天』を退職した店長の中西功さんが2013年から始めたそうだけど、2坪ほどの小さな店の棚にアトランダムに本が並んでいて、意外にも雰囲気を醸し出している。ジャン=ポール・サルトルとメルロ=ポンティの往復書簡の隣に、倉本聰が手がけて話題を呼んだ芸能界の終活TVドラマ『やすらぎの郷』が置いてあったり。

浅田  きっちり分類されてると興味のない棚は見ないもんだけど、無造作に並べられてるとつい背表紙に目を通しちゃうから、こんな本もあるのかと気づかされるね。

田中  小平市の武蔵野美術大学の学生も利用しているらしく、読み終えた建築や美術の本を置いていってくれるって。

浅田  昔は大学が、退任した教員の本を引き取ったりしてたんだけど、今はほとんど引き取らない。中には貴重な本もあるのに、司書にそれを選別する余裕がないから。むしろ、この店みたいなシステムもいいかもしれないね。

田中  500円と300円のガチャガチャ(カプセルトイ)が置かれていて、本の値段に合わせてダイヤルを回す。カプセルの中のビニール袋に本を入れて「万引はしていません、ちゃんと買いましたよ」と持ち帰る仕組み。

浅田  ところで、この店の2階の空き室は統一地方選挙の選挙事務所に使われてたそうだけど、4月7日の選挙の結果はひどいものだったね。北海道では、東京都から財政再建団体になった夕張市に出向し、夕張市長になった鈴木直道が、与党の推薦で知事選を制した。大阪では都構想を掲げる大阪維新の会の松井一郎と吉村洋文が市長と知事の入れ替わりダブル選挙に勝ったけど、自由民主党大阪府連はともかく、安倍政権は日本維新の会に近いって言われる。都構想には反対でも「維新の会」の改革姿勢は評価するって有権者がけっこういたけど、若手改革派のイメージだけで有権者をひきつけるってのは北海道と同じ。それにお株を奪われた野党はまともに戦えなかった。夏の参議院選挙が思いやられるな。

田中  我こそは政権交代可能な野党第一党と胸を張る立憲民主党代表の枝野幸男も幹事長の福山哲郎も、ストレスが溜まる会見は月に1度だけのサスティナブルな「スローライフ」(笑)。『ソトコト』読者もお手上げだ。いまや「組織票」にもならない連合=日本労働組合総連合会にポスター貼りで頼りながら、「立憲民主党はあなたです。」と訴えているチグハグさもすごいけど。

浅田  4月21日の衆議院大阪12区補欠選挙で日本共産党の衆議院議員だった宮本岳志が辞職して無所属で出馬したけど、野党共闘って言いながらどこも本気で応援しなかった。与党候補も勝たなかったものの、ここでも維新の藤田文武が当選。

田中  現行憲法を遵守する天皇の即位に祝意を示すのは当然、と共産党の志位和夫も公言しているわけで、ならば、20世紀最後の年から都合20年間も委員長を務める彼は党名変更へと踏み込むべきだと思う。
 獄中生活を奇しくも20年続けた思想家のアントニオ・グラムシが創設に参加したイタリア共産党は、冷戦終結後に解党して左翼民主党へと移行し、紆余曲折を経て2006年には先進国で初めて大統領に共産党出身のジョルジョ・ナポリターノが就任する。欧州議会議員として終生、共産主義同盟の会派に所属していたアルティエロ・スピネッリに至っては、欧州連合設立条約の創案者として“欧州連合の父”と記されている。本会議場はストラスブールにある欧州議会が、政策執行機関の欧州委員会と折衝するブリュッセルの建物には、彼の名前が付いているんだね。5月末が投票の欧州議会選挙も、反ユーロ・反イスラム・反難民・反官僚を掲げる「ポピュリスト勢力」は情勢調査で意外と伸び悩んでいる。しぶといねえ、欧州人は。前号でも触れたけど「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」賛同者でありながら、改憲まっしぐらな現政権から2013年に文化勲章を授与された「令和」考案者の中西進。その彼は「令には規律という意味もある。他の人にのみ命令するのではなく、自分に命令しなければならない。軍事力で戦うのは非常に愚かだ。7世紀の平和憲法が1946年の平和憲法に繋がっている」から「令和」が誕生したと韓国の『中央日報』で語り、ポケットチーフを合わせたスーツ姿で「しい平和を築こうという合言葉が令和。輝いているじゃないですか9条は」と『日本経済新聞』では、「日本は明治の途中から自らが大国だと誤解した。(中江兆民、石橋湛山に倣って)もう一度、小国主義(小日本主義)の議論をしたいものです」と語っている。他方で『産経新聞』、『読売新聞』の紙面やホームページには“とっくりセーター”姿で登場している“お茶目”な人物(爆笑)。
 歴代の知事と市長が犬猿の仲だった大阪に話を戻すと、以前から橋下徹、松井一郎の両氏にも申し上げているけど橋下・松井コンビ、現在の松井・吉村コンビは早い話がウラジミール・プーチン、ドミトリー・メドベージェフのペアと同じでしょ。経験を踏まえて申し上げれば、森羅万象すべて担当していると胸を張る議院内閣制の首相よりも首長のほうがはるかに多くの権限を有していて、数多くの政策が執行可能。縄張り意識が強い鉄道会社も東京ではメトロ、私鉄、JRが合併せずとも相互乗り入れしている。負けじと大阪でも阪神と近鉄が「いつやるか? いまでしょ!」と神戸から奈良まですでに10年前から直通運転している。「かたち」でなく「あり方」「なかみ」が大事なんだ。なのに日本の政治は小選挙区制だの郵政民営化だのと「かたち」ばかりを追い求めて、「結果」が伴わない。

浅田  ところが大阪都構想は住民投票でいったん否決されたはずが、いまや府民の6割が支持。大阪都構想法定協議会で公明党に裏切られたって言って、維新が公明を主要敵にしたという事情もあるけど、公明党支持者は知事も市長も8割ぐらいは自民党が担いだ候補に投票したのに、自民党支持者の過半数は松井と吉村に投票した。そもそも安倍政権がまだ改憲を目指すなら連立パートナーの公明を維新と取り換えたほうがいい。与党の敗北っていうけど、政権にとっては敗北でも何でもないよ。まともに野党共闘に敗れたのは、基地問題を抱える沖縄だけなんだから。一方で大阪は「夢よもう一度」と万博でインフラ整備を進め、あわよくばカジノを核とするIRを。カネがすべてで、ヴィジョンも何もない。

田中  都構想、万博、カジノの3点セットで東京一極集中を打破するゾッて発想がそもそも間違い。住友商事も丸紅もアサヒビールも三井住友銀行も本社・本店は東京でしょ。永田町・霞が関というワシントンと、丸の内・大手町というニューヨークが合体しているんだよ、日本では。周回遅れな「リトル東京」を目指さずに、年貢米が集まる大坂に世界最初の先物取引市場として堂島米会所が享保15年の1730年に開設された原点に戻り、「世界屈指の商品先物と金融先物のシカゴ・マーカンタイル取引所をOSAKAは目指す」とハッタリをかましたほうが、カネの亡者な世界中のディリバティヴ野郎から注目されるよ。マイクロソフト、アマゾン、スターバックスが誕生したシアトルの向こうを張ってOSAKAの復権を掲げるとか、大胆不敵にKYOTOと飛び地合併してボストンとデンバーの融合を図るとか、前代未聞なバクチを打つビッグマウスぶりを期待したいぜ。
 なあんて考えていたら、「金を払って“やる”ところだ。150軒に女性400人」と7年前に報じた香ばしい記事が『産経新聞』ホームページにいまもアップされている大阪市西成区の日本最大級の元・遊郭の飛田で、橋下が顧問弁護士だった飛田新地料理組合に加盟する「料亭」159軒が6月下旬のG20開催中は全店休業と一般紙、スポーツ紙が一斉に報じて爆笑したよ。北朝鮮工作員「スリーパーセル」が潜んでいる街と三浦瑠麗が真顔で語った大阪は、実に奥が深いなぁ。

豊島区、大津市の交通事故の、
報道のされ方に疑問噴出。

浅田  去る4月19日に東京・豊島区で87歳の男が運転する車が暴走して3歳の女の子と31歳の母親が亡くなり、負傷者多数の凄惨な事故が起こった。加害者の飯塚幸三は旧・通商産業省(現・経済産業省)の工業技術院長。119番通報もせずに「アクセルが戻らなくて、人をいっぱいひいちゃった」と事故直後、自分の息子に電話する様子がドライブレコーダーに映っていた。

田中  ところが「事故の衝撃で胸部を強打して救急搬送された」から逮捕されず、「上級国民」という造語がSNS上で飛び交う展開に。妻と娘が犠牲になった男性が言葉を絞り出して会見を行い、あまりのやるせなさに我々が落涙する一方、親族も含めてチーム飯塚は沈黙どころか無視を決め込んでいる。会見に応じぬなら文書回答を執拗に求めるべきなのに、「誤送船団・記者クラブ」が質問状を突き付けた形跡すら見られない。最近のマスコミは「強きを助け、弱きをく」が座右の銘らしく、5月8日に大津市で信号待ちの保育園児と保育士の集団に車が突っ込んだ痛ましい事故では号泣する保育園長の会見で執拗に質問を続け、「左右両サイド」からSNSで批判が殺到した。
 他方で警察庁長官の栗生俊一が交差点でのガードレールの必要性を大発見のように述べ、道路管理者の滋賀県がクッションドラムと呼ばれるポリエチレン製の衝突衝撃緩衝具を並べると、これぞ迅速な対応と美談のように報じられる。無名の誰かが編み出した「上級国民」が一気に広がったのも、東京地方検察庁特別捜査部長から東京地検検事正、名古屋高検検事長と駆け上がった弁護士の石川達紘が2018年2月に港区白金で、銀座で働く20代の女性とゴルフに向かう際に歩行者を死亡させた事故でも、「逃走の恐れなし」と逮捕もなく1年後に在宅起訴で“一件落着”となった伏線がある。報道って何だろう、正義って何だろうと誰もが絶望している。

浅田  高齢者の運転免許返納の是非が問われてるけど、公共交通機関が衰退してる地域だと一筋縄ではいかないね。

田中  僕の両親が暮らす軽井沢でも車なしでは買物にすら出かけられない住民が、老若男女を問わず大半だ。ヨーロッパではマニュアル車が9割なのに、日本とアメリカだけ逆に9割がオートマ車。マニュアル車は左足でクラッチを使わずにペダルから足を離せばエンストして車が停まるんだから、ある程度の年齢に達した高齢者はマニュアル車限定にするのも一案だ。それとペダルの踏み間違いを防ぐために、もっとブレーキペダルを大きくしたり、踏んだ時の感覚が違うように素材を変えたり、すぐにできる改善策だってあるのに、監督官庁の経産省は動きが鈍い。自動運転の時代が来るというけど、大本のサーヴァーがハッキングされたら、ありとあらゆる車が暴走するアイザック・アシモフの原作をウィル・スミス主演で映画化した『アイ、ロボット』の世界になっちゃうぜ。

浅田  コンピューターによる自動化で思わぬ問題が起こることはボーイング737MAX8の事故を見ても明らか。

田中  ボーイング737MAX8は2018年10月にインドネシアのジャカルタ沖合に墜落し、2回目は19年3月にエチオピアのアディスアベバからケニアに向かう離陸直後に墜落した。同じ原因で同型機が相次ぎ事故を起こし、後者には複数の国連関係者が搭乗していたので世界的に問題視されたけど、ドナルド・トランプ大統領が飛行停止を緊急命令するまで米国連邦航空局FAAは、ボーイング社にミスがあるわけないと思考停止の反応だった。

浅田  737の燃費向上のためエンジンを替えたら、機首が上がりやすくなり、上がりすぎて失速するのを防ぐ自動失速防止装置をつけた。その装置が、迎角センサーのエラーで、不必要なときも機首を下げようとし、慌てて機首を上げようとするパイロットとせめぎ合って、事故が起こったらしい。センサーの異常は問題外だし、センサーの異常をチェックする装置がオプションになってて事故機に搭載されてなかったってのもひどい話だけど、システムを新しくしたらパイロットがそれに慣れるまでシミュレーターで徹底的に訓練する必要があるし、そもそもいざってとき自動装置を切れるようにしとかないと。そういう危険な飛行機を1000機のオーダーでつくってるんだから恐ろしい。4月に青森県沖で消息を絶ったステルス戦闘機F-35も実は危ないみたいだし。

田中  うん。2015年7月に運用開始されたのに実戦投入されたのは3年後の18年9月。武力のすごさと怖さを知っている米軍の現場もビビッてるんだよ。現在も、航空自衛隊の主力戦闘機であるF-15と違ってF-22、F-35の第5世代ステルス戦闘機には酸素を外気から分離し、飛行高度に応じて適切な濃度の酸素を搭乗員に供給するOBOGS(オボグス)という装置が付いているらしいんだけど、低酸素症の事例が20件以上も発生している。
 『日本経済新聞』で安全保障を担当する編集委員は署名記事で、緊急脱出の形跡も見られなかった青森沖の墜落原因ではないかと指摘している。しかも米軍はF-35もF-22もソフトウェア更新時にハッキングを外部から受けてシステムエラーの原因(シード)に感染してしまう恐れがあると密かに調査を続けている。1機100億円以上もするF-35を導入しているのは米国、イスラエル、韓国、日本の4か国のみ。低酸素症での失神とは無縁のF-15をスクラップして、危険と背中合わせのF-35を140機体制にするってどうよ。

浅田  日本も開発段階から参画してるって言うけど、主要なパーツはブラック・ボックスで、それらを組み立ててるだけ。まさに落合陽一の礼賛する「魔法」の箱を盲信してすべてを託すほかないわけよ。マックス・ウェーバーの言うとおり、ブラック・ボックスをなくす脱魔術化こそ近代化の核心だったのに。とにかく完璧な自動操縦はまだ難しいんだから、人間と自動操縦システムとのマン・マシーン・インターフェースをもっとよく考えないとね。

郭台銘が総統になれば、
台湾はおもしろくなる。

浅田  この間、滋賀県の『MIHO MUSEUM』で磯崎新に会い、熊倉功夫館長を交えて彼の詳しい後水尾天皇の話になった。豊臣秀吉の朝鮮出兵を止めようとした後陽成天皇の後を継いだ後水尾天皇は、徳川幕府の専横に耐えかねて退位し、娘が859年ぶりの女帝(明正天皇)になるんだけど、譲位後に自分が住むため京都御所の隣に、仙洞御所(「俗世を離れた仙人の洞窟」といった意味)をつくらせ、さらには修学院という地名の比叡山の山裾に修学院離宮もつくらせた。中宮の和子が徳川家から入内した家康の孫娘だったこともあって、幕府も資金援助せざるを得なかったんだね。 他方、今回は元・東宮御所を改修して上皇をそこに戻すっていうぞんざいな扱い。真の天皇制支持者は怒るべきだよ。

田中  まったくだよ。国内外の戦地を訪れる「祈りの旅」を続けた天皇・皇后は最後に韓国訪問を願っていたのにシカトしたご都合主義の「天皇機関説」には、共和制支持者ですら怒りを禁じ得ないのにね。

浅田  磯崎は、「京都の仙洞御所を改築し、さらには修学院離宮に代えて、沖縄本島北部の美しい岬にある奥間レスト・センターって在日米軍のリゾートに、海洋生物研究所を併設した沖縄離宮を建てたらどうか」って冗談交じりに言ってた。

田中  素晴らしい。皇居二重橋前の広場に間伐材で仮設席を設け、旧・江戸城の堀や石垣、櫓、松林を背景に東京オリンピック・パラリンピックの開会式を行えば世界中の人々に日本での五輪を深く印象づけると提言していた磯崎ならではの発想。

浅田  彼の説では、平成になってから新天皇の即位礼や大嘗祭を東京でやるようになったのがそもそも大間違い。大嘗祭で天皇が座る御座は東南を向いてて、京都だと伊勢の方角になる。ところが東京でそれをやると太平洋を向いちゃうわけよ。へたしたらアメリカの霊を導き入れちゃうんじゃないか、と(笑)。天皇制廃止論者の僕が心配することはないけど、天皇制の下で「美しい国」の伝統を守るとか言ってる連中が天皇をここまでぞんざいに扱うってのは、ひどい話には違いない。大嘗祭よりは前だけど10月末の即位礼正殿の儀の後に一般参賀を予定してた、それを強引に5月4日にやらせたのも、露骨な政治利用。

田中  6月のG20には初来日の習近平国家主席も出席する。物見遊山でゴルフと大相撲観戦と徳仁天皇への謁見に訪れるトランプと同じく国賓待遇にすべきなのに、国賓は予算上、年に1回だけとチンケな理由で渋っていた政府も、米中2大国の片方だけ優遇しては外交儀礼上、まずいだろと秋に再来日を中国に打診するドタバタぶり。すべて生煮えプラン。これも政治家と官僚の劣化の表れだね。

浅田  習近平は昔なら中国の皇帝、格から言えば国賓でしょう。ただ、昔の中国は今よりも偉大な帝国だった。多民族・多文化を包容してたからね。そもそも元は蒙古族、清は満洲族の王朝だった。ところがいまの中国は漢民族中心主義で、チベット仏教を弾圧したり、新疆ウイグル自治区で「テロとの戦い」を理由にイスラム教徒を収容所で「再教育」したり。帝国っていうなら、もっと鷹揚にやるべきだよ。

田中  「横綱相撲」のできない指導者が世界中で跳梁跋扈。その中国は「令和」の「元歌」で愛でている「梅」が国花。同じ「国花」の台湾で来年1月に実施される総統選挙に、シャープを傘下に収めたフォックスコン・テクノロジー・グループの中核会社・鴻海精密工業創設者の郭台銘董事長が国民党からの立候補を表明した。白黒テレビのチャンネルを回すプラスチック製つまみの製造工場を1974年に立ち上げ、ヒューレット・パッカードをはじめとするメーカーのOEM(受託製造)で成長し、いまやiPhone製造の大半を引き受け、世界約80万人の従業員の7割近くが中国本土で働く「チャイワン」企業。
 習近平とも親密な一方、トランプの要請を受けてウィスコンシン州で液晶パネル工場を建設している。「対中融和路線」の彼は、パラオ、ハイチなど17か国に「国交」がまる袋小路な台湾に、民主化が後退した香港の轍を踏まぬ形での「一国二制度」を中国に担保させたうえで、習・トランプの双方が引くに引けずにチキン・ゲームと化している米中貿易戦争の仲介役として、台湾の存在感を高めようと考えているんだと直感した。

浅田  中国と北朝鮮にはレア・アースなどの資源があり、フォックスコンには半導体の製造技術がある。

田中  日本のメディアは、政治と経営の両立は無理だ、トランプ以上の利益相反だ、とネガティヴにとらえているけど全然違うでしょ。の原理で2大国を操るレヴァレッジ戦略。しかも東シナ海と南シナ海を結ぶ台湾海峡は、中近東から原油とLPGを輸入する日本に不可欠なシーレーン。このダイナミズムに果たして日本はついていけるのかな。

浅田  いやはや、先が思いやられるね。

協力:BOOK ROAD www.facebook.com/bookroad.mujin

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

本記事は雑誌ソトコト2019年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。