35歳で福岡に移住し人脈ゼロからの独立。特殊造形・特殊メイクアップアーティスト、末次健二さん
2020.09.13 UP

35歳で福岡に移住し人脈ゼロからの独立。特殊造形・特殊メイクアップアーティスト、末次健二さん

WORK

人を楽しませ、街の魅力を発信する仕事に関われる喜び

これまで携わった仕事はどれも印象深いが、中でも自身が移住に選んだ街・福岡と、出身地・佐賀で携わったプロジェクトは心に残っているという。
「動物園で子ども達が選挙を体験するイベントがあって、その投票箱につける動物の尻尾を制作しました。子ども達が尻尾を楽しそうに触ったりしているのを見て、すごく嬉しかった」。特殊造形・特殊メイクの仕事は、なかなかエンドユーザーの反応を直接知る機会がなく、子ども達が素直に楽しむ姿を目の当たりにし、これまで感じたことのない喜びがこみ上げてきたそうだ。

どうぶつそうせんきょ投票箱
「どうぶつのえんちょうせんきょ」投票箱(2014・福岡市動物園のイベントで使用)(c)Kenji Suetsugu


また、佐賀県内で撮影された短編映画「The Walking Fish」の撮影では、特殊メイクスタッフとして参加。
「肥前さが幕末維新博覧会でのオランダとの交流事業の一環で、監督も撮影クルーも全員オランダ人でした。日本人スタッフは自分と手伝いにきてくれたヘアメイクさんだけ。撮影を通してもそうだし完成した映像を見ても、自分の知っている佐賀とは違っていて。海外の人が日本を見るとこんな風に見えるんだと驚いた」と末次さん。
さらにこの短編映画は、カンヌで開催された「Young Director Award 2019」で、最優秀短編映画賞と特別審査員賞を受賞。アカデミー賞の短編映画部門にもオランダ代表作品として出品された。「まずテッサ・マイヤー監督が自分のホームページで作品を見て声をかけてくれたっていうのが光栄だし、その期待に応える仕事を提供できたこと、結果として世界中の多くの人に映画を届けるお手伝いができたことは嬉しかったですね」。

居心地がいい街で暮らすことで、いい仕事を生み出せる

周囲が就職して経験を積む中、修業に10年以上を費やし、30代で福岡への移住とゼロからの独立。平坦ではなかった道のりを振り返り、ようやく今「自分は幸せなんじゃないかな」と思えているという。一番の理由は、やはり好きな街で好きな仕事ができていることだ。福岡を舞台にした「映画 めんたいぴりり」に特殊メイクで参加した際、ふと思ったという。
「この映画は福岡の百道にあるテレビ局系列の制作会社が制作しているんですが、実は学生時代に同じ局でアルバイトをしていたことがあって。打ち合わせで百道に出向いた時、あの頃ぼんやり憧れてた世界で働けているんだなーとしみじみ感じました」。
福岡市は仕事をする上ではもちろん、生活する上では東京に比べて物価も安いし、子育ての環境としてもすごくいいと末次さんは言う。「休みの時は近くの海まで子どもと散歩してます。仕事の現場ともアクセスしやすくて、歩いて海に行けるなんて最高ですよ」。仕事以外でストレスフリーに過ごせるからこそ、制作への感性を研ぎ澄ますことができ、いい仕事が生まれる。

福岡タワー
学生時代、アルバイトに通った福岡市・百道。十数年後に、夢だった特殊造形・特殊メイクの仕事で、同じ場所に通うことになる。写真提供:九州観光推進機構

コミュニケーション力と技術のアップデートを

「これからも変わらず、必死にやるだけです」。今後の目標を尋ねると、そう答えてくれた末次さん。しかし、ただ現状をキープするだけでは未来はないとも話す。
「コロナ以降はSNSなどオンラインでの打ち合わせも増えてきています。ただでさえ形のないものを生み出す仕事なので、今まで以上に意思の疎通には心を砕いていかないと」。また業界的にも制作の効率化が進み制作費は削減される一方で、特に特殊造形・特殊メイクの役割はCGが担うことも多い。
「仕事の絶対量は減っているから、そういう中でどうやっていくか。いつでも新しいものを生み出せるように、技術もアップデートしていきます」。
福岡で生まれた末次さんの作品に、いつか世界の人々が「これがツクリモノ!?」と驚く日が来るかもしれない。
 

末次 健二(すえつぐ けんじ) 

福岡市西区にある特殊造形・特殊メイク工房「ツクリモノ」代表。
1978年、佐賀県生まれ。福岡での学生時代、美術サークルで立体の制作に興味を持ち、創作活動を開始。卒業後、東京の特殊メイク工房が運営するスクールに参加。その後、同工房のアシスタントとして、映像作品や各種イベント展示などの特殊メイク・特殊造形制作に携わる。
2014年より福岡でフリーランスの特殊造形・特殊メイクアップアーティストとして活動を開始。現在に至る。人の肌をリアルに再現した作品を得意とし、個人のアート活動としての作品制作や、展示会への参加も積極的に行う。躍動する現代作家展2017 躍動する現代作家賞受賞。
ツクリモノ

Photographs by Kenji Suetsugu, YUICHI UMEHARA
text by Noriko Nishi

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