マイクロツーリズム=心の距離が近くなる旅。宿を営む移住者 福澤知香さんが考える観光のかたち
2020.09.26 UP

マイクロツーリズム=心の距離が近くなる旅。宿を営む移住者 福澤知香さんが考える観光のかたち

PEOPLE

片道1時間程度で行ける近場の地域をゆっくり楽しむ観光、マイクロツーリズム。いま、最も注目されている新しい価値観の一つです。でも、その魅力がまだイメージしづらいという現状も。
5年前に鹿児島県南九州市の頴娃町に移住し、「暮らすように旅する」をコンセプトにした宿”暮らしの宿 福のや、”を営む福澤知香さんにお話を伺いました。

観光業界で10年。頴娃町へたどり着いた福澤知香さんのこれまで

知香さん写真
鹿児島県南九州市頴娃町に移住し、「暮らしの宿 福のや、」を営む福澤知香さん(写真右)

鹿児島県内で”古民家の宿”・”移住開業”といえばこの人!と話題に上がることも多い福澤知香さん。
まちの一員として大きな役割を果たしている福澤さんは、5年前に頴娃町へ移住してこられたそうです。

福澤さん:「出身は頴娃町がある薩摩半島の向かい側、大隅半島の鹿屋市です。小学生の時に鹿児島市に引っ越して、高校卒業後は大阪の学校で観光について学びました。実は、頴娃町は母の出身地。子供の頃、お盆やお正月などによく帰っていた”おばあちゃん家があるところ”というのが私と頴娃町とのつながりです」

子どもの頃から街中よりも田舎のほうが好きだったという福澤さんは、大阪の学校を卒業後に旅行代理店へ入社。接客から旅行の手配、プラン企画など、旅行に関わる一通りの業務をこなしながら、次第に旅行を受け入れる地域側の仕事に関心を持ったそう。

福澤さん:「旅行代理店で働いていると、有名観光地やテーマパークなどにいくお客様が本当に多くて。もっと地域の良いところを伝えられたり、まちの人たちの顔が見えたりするような観光を作れないかなと思うようになったんです。
そんな時にちょうど高知県安芸市の観光協会が職員募集をしていたんですよね。安芸市は当時、いわゆる”観光地”としては認知されていない地域で、そこの観光を0から作っていきたいと思って転職を決めました。」

安芸市 野良時計とひまわり
安芸市のシンボルとも言われる”野良時計”。遠くからも大きく見える時計は周辺農家さんや多くの地域の方に親しまれている。

”観光地”として作られたものではなく、ありのままの地域の良さを発信したい。無理のない、持続可能な観光のあり方とはどんな姿なのだろう?
そういったことを考えながら、安芸市だからこそ体験できることや、伝えられる魅力の発信に力を入れていきました。

観光だからって特別なことはしない。だから地域の良さが見えてくる

夕日
海のまち頴娃町の夕日。水平線の向こうに夕日が沈む風景はまさに”頴娃町ならでは”

安芸市観光協会での経験を通して、”その地域ならでは”の自然体の魅力を伝える観光のあり方に手応えを感じた福澤さん。
出身地である鹿児島で観光の仕事を本格的にやっていきたいと考え、鹿児島県串木野市の観光協会勤務を経て、頴娃町への移住と「暮らしの宿 福のや、」の開業にたどり着きました。

福澤さん:「”暮らすように旅する”というコンセプトは、自分自身が頴娃町で感じたことから生まれました。頴娃町は有名観光スポットがあるようないわゆる”観光地”とは真逆の場所だけど、いればいるほど好きになるところだなと移住してきた時に思ったんですよね。
頴娃町を訪れる方々にも、まちの日常の風景や地域の暮らしを感じながらゆっくりと滞在してほしいと思っています」

福のや、
「暮らしの宿 福のや、」外観。昔ながらの集落の中に建つ古民家を改修し、一棟貸切の宿として運営している。

「暮らしの宿 福のや、」がある場所は、絶景が広がる海の目の前でもなければ、人が集まる観光スポットの近くでもありません。昔から地域の方々が暮らしてきた集落のど真ん中、ご近所さんが挨拶を交わす声が聞こえてきそうなほどの日常風景の中に溶け込んでいます。
まちをたくさん歩いて地域の人たちと顔を合わせてほしいという想いから食事の提供は行なわず、入浴も近所の温泉まで入りに行くことをおすすめしているそう。
そんな「福のや、」には、近場から何度も泊まりに訪れるリピーターのお客様も多いとのこと。

福のや、内観
「暮らしの宿 福のや、」内装。地域の方々と協力しながら古民家改修を行い開業した。

福澤さん:「近況報告もかねて何度も顔を見にきてくださるお客様が多いです。ゆっくりと頴娃に滞在して穏やかな時間を過ごすことで、まちや人の魅力が伝わっているんだなということを感じます。
観光だからといつもしないことをしたり、過度なサービスをしたりするのは長い目で見ると本質的ではないと思うんですよね。だから福のや、では”わざわざ何かを企画する”ということはしないようにしています。そのほうが頴娃町の魅力は伝わるんじゃないかなと思うんです」

心の距離が近くなるのがマイクロツーリズムならではの特徴

茶や、外観
福澤さんが2軒目の宿としてオープンを目指している茶畑に囲まれる宿”茶や、”

福澤さんは現在、茶畑の真ん中に建つ古民家を改修し、2軒目の宿「茶や、」のオープンを目指している。

福澤さん:「朝起きて、パッと目を開けた瞬間に茶畑が360度広がってるってすごい風景。贅沢だな〜といつも思うんです。純粋に、この景色の中でゆっくりとした時間を過ごしてもらいたいと思っています。
頴娃町はお茶が有名なまち。単にお茶を飲んだり売り買いするだけではなくて、ここに泊まってお茶農家さんたちの日常を体感してもらいながら、お互いに顔が見える関係性でお茶を楽しんでもらえるようになるといいなと思っています。

マイクロツーリズムって物理的に距離の近いところに行くっていう特徴があると思うんですけど、もう一つ、”心の距離が近くなる”という特徴もあると思うんです。
何度も行き来できるのは近場だからこそできること。最近はだんだんと”観光スポット”が目的の旅ではなく、”あの人に会いに行く”という感覚で旅する方向に世の中がシフトしているなと感じます」

何度も行き来して地域に顔見知りが増えたり、思い立ったらすぐに会いたい人の顔を見に行けるマイクロツーリズムだからこそ、”心の距離が近くなる”という体験ができるのかもしれない。

参考情報

暮らしの宿 福のや、

福のや、web

文章:白水梨恵
写真:暮らしの宿 福のや、