『Okazaki Micro Hotel ANGLE』は、まちと人を見つめる新拠点。
2020.09.15 UP

『Okazaki Micro Hotel ANGLE』は、まちと人を見つめる新拠点。

LOCAL

自分たちの暮らす愛知県・岡崎のまちが好きでしかたない。そんな人たちが関わる、まちと暮らしの入口が誕生しました。外からの人、地元の人の視点が混ざり合うことで、さらによりよい流れが醸されています。

「好き」を感じながら、まちと関わる。

 まちで最初にできたカメラ屋さんだった建物を利用した『Okazaki Micro Hotel ANGLE』(以下、『ANGLE』)は、多くの人が行き交う交差点にある。地域の人たちによるまちづくりが、じわじわと形になり始めている愛知県岡崎市のメインストリート・伝馬通り沿いに今年6月、2年半の構想を経てグランドオープンをしたこのホテルは、通り過ぎる人、信号待ちをする人たちが、「なんだろうこの場所は?」と、覗かずにはいられない佇まいを発している。そう、このホテルには、まちや人とつながるための「フック」がいくつもつくられている。

飯田圭さん/ 『Okazaki Micro Hotel ANGLE』オーナー。山梨県出身で地方銀行勤務の後、4年前に岡崎市へ移住。コワーキングスペース『Camping Office osoto』の立ち上げ・運営も担当。
飯田圭さん/ 『Okazaki Micro Hotel ANGLE』オーナー。山梨県出身で地方銀行勤務の後、4年前に岡崎市へ移住。コワーキングスペース『Camping Office osoto』の立ち上げ・運営も担当。

 まずは「アングル」という名称とロゴマーク。「元・カメラ屋さんというストーリー性を大切にしたい」というオーナー・飯田圭さんの思いから採用された「アングル」という言葉は「角度や視点」の意味をもつ写真用語だ。「写真って撮る人の視点や世界観が表れる。それはまちにも言えることで、それぞれの感じ方や視点で岡崎をおもしろがってもらいたい。僕たちはそのきっかけをつくっていきたいんです」という考えから、ロゴマークは、「ハイアングル(外から来た人の客観的な目線)」と、「ローアングル(地元の人ならではのディープな目線)」を掛け合わすことをイメージして制作。コンセプトを「ぼくらのアングルをきっかけに、岡崎のまちを捉えるマイクロホテル」とした。

『ANGLE』は、まちの人が思い思いに憩う籠田公園のすぐ近くにある。元・カメラ屋さん。
『ANGLE』は、まちの人が思い思いに憩う籠田公園のすぐ近くにある。元・カメラ店ということもあって、自分たちのまちを再発見して発信するプロジェクト『岡崎カメラ』のみなさんの拠点にもなりつつある。

まちの「物語」が感じられるインテリアで、空間を満たす。

 ホテルの内装やインテリアにも、たくさんの「まちと関わるフック」が落とし込まれている。1階に入ってすぐの広々とした共用部に加えて、2〜3階の客室には、壁や天井、机の木材、スツール、ランプ、オブジェ、植物、マットレスといった「地元のもの」がそこかしこに使われている。こうした要素を盛り込みながら、飯田さんと一緒に空間をつくり込んでいった建築家集団『studio36』のひとり、足立拓哉さんは「ストーリー・インテリア」と呼ぶ。「建築用語ではなく完全に造語ですけどね(笑)。ホテルのなかに物語をつくりたいう飯田くんの思いを細部にまでちりばめています。そのひとつが天井や壁に使われている杉材。昨年、この通りで社会実験をしたときに使った木材を復活させました。すべての人ではないけれど、それに関わった人には思い出深いもの。ストーリーって、そうした主観でいいと思うんです」。

インテリアショップ『FILT.』で取り扱う『飛松灯器』のランプをフロント上で使用。
インテリアショップ『FILT.』で取り扱う『飛松灯器』のランプをフロント上で使用。
テーブル上のランプは愛知県豊田市在住の、椅子は奥三河在住の木工作家のもの。
テーブル上のランプは愛知県豊田市在住の、椅子は奥三河在住の木工作家のもの。

 改めて1階共用部を眺めてみると、こうしたインテリアは声高に主張してはいないけれど、心地よい存在感で場を支えているのがわかる。そして、誰かの「好き」があふれているからこそ、居心地のよい空間であることに気づかされる。

 岡崎のまち自体にもいろいろな人の「好き」という気持ちがあふれている。飯田さんの奥さんで、生まれも育ちも岡崎、実家が不動産業を営む飯田倫子さんは言う。「岡崎の人はこのまちが好き。自分たちのまちを卑下することなく、『岡崎はいいところだ』と商売している人が多いんです」。

「好き」はじわりじわりと連鎖していく。岡崎はこうしたみんなの「好き」が集まり、今、まさにまちが変わりつつある。『ANGLE』があるエリアは、1980年代までみんながおしゃれをして遊びに来る場所だったが、4つあった百貨店が閉店したり、路面店に空き店舗が増えてしまった時期がある。そんな状能に変化の兆しが生じたのは、自分たちのまちを、暮らしている人、関わっている人の目線でよくしていきたいと、公民が連携してまちづくりが進められるようになった5年ほど前から。歴史や文化を活かしながら地域をおもしろくする活動があちこちで起こり、空き店舗に個性的な店舗の出店が増え、エリアが活気づいてきた。『ANGLE』もこうした流れの中で誕生した。

すべて個室の客室には、荷物とくつろぎ空間をわけて段差をつけた。奥には、窓に向かって足を下ろせるカウンター・デスク。寝心地にこだわったマットレスは地元の縫製会社に特注したもの。
すべて個室の客室には、荷物とくつろぎ空間をわけて段差をつけた。奥には、窓に向かって足を下ろせるカウンター・デスク。寝心地にこだわったマットレスは地元の縫製会社に特注したもの。
各客室には、東京在住フォトグラファーの小財美香子さんが撮影した岡崎の町の写真が。
各客室には、東京在住フォトグラファーの小財美香子さんが撮影した岡崎の町の写真が。
館内案内もおしゃれに制作。
館内案内もおしゃれに制作。

 山梨県出身で地元の地方銀行に努めていた飯田さんが再就職で岡崎にやってきたのは4年前。実際に暮らしてみて感じたのは「100年を超える商店や企業が残っていて、古いものと、新しいことをやっている若い人が当たり前のように交わっている。それがすごいと思いました。全然当たり前じゃないのに」という驚きだった。

 2017年から『スノーピークビジネスソリューションズ』が手掛けるコワーキングスペース『Camping Office osoto』の立ち上げ・運営を担当、場を開いて人と場所をつなぐおもしろさを経験した飯田さんは、空き家を活用して事業を起こすことを目的とした「リノベーションスクール」に参加した。『ANGLE』の始まりは、3日間のワークショップの後の公開プレゼンで「宿をつくる」と公言したことからだった。「半分勢いでしたが、友達が遊びに来たときに、泊まれる場所があるといいなと思っていたので」という飯田さん。場所選びなど紆余曲折があり、心が折れそうになったこともあったが、リノベーションスクールで出会った『studio36』のメンバーをはじめ、同じ志を持った仲間と一緒だったから乗り切れた。

打ち上げ花火ではない、まちに根を下ろした場が必要。

昨年夏にリニューアルオープンした『籠田公園』には多くの人が集まっている。
昨年夏にリニューアルオープンした『籠田公園』には多くの人が集まっている。

 宿をつくるにあたり「同時に同世代のプレイヤーや、おもしろいことをやる人を増やしたい」という考えが根幹にあった飯田さんは、入ってすぐの1階共用部を地元の人も利用できるパブリックスペースにしたいと考えた。当面はレンタルスペース、週末夜のバーとして営業する予定。「外からの人が地元の人と関わることで岡崎をおもしろいと思ってもらいたいし、外から来た人にまちの人が刺激を受けるというパターンも生まれてほしい。混ぜ合わせ、掛け合わされる場となるのが理想です」。

 その思いを形にした『studio36』の深澤創一さんは「この規模のホテルで、フロントが奥に引っ込んでいるケースってあまりない。とはいえ、外から見て”ホテル“とわかるようアピールもしたい。それらを両立させるため、共用部を半屋外に見立てて、フロントの手前でもうひとつの入口をつくりました。ホテルとしてはとても贅沢な使い方になっています」と言って笑う。

 実際に宿のオペレーションをする山崎翔子さんは、地域のおもしろさを伝えたいと、「まち歩きマップ」を飯田倫子さんと一緒に自費でつくったほどの岡崎好き。「『ANGLE』から歩いていける範囲で素敵なお店がこんなにもたくさんある。すぐ前には公園もある。新しいもの、古いものを体験してもらえると思います」。

 宿に泊まるからには、その地域の暮らしを体験してもらいたい。そのきっかけになればと、岡崎の魅力をカメラで再発見し発信する「岡崎カメラ」のメンバーとコラボレートしてまち案内をしてもらう企画もある。

 外から来た人と地元の人、古いものと新しいもの、いろいろな視点や感じ方。たくさんの「好き」とともに、さまざまなアングルが混ざり合って、この場所はまちとともにおもしろくなっていく。

 

Okazaki Micro Hotel ANGLE

住所/愛知県岡崎市籠田町21 センガイドウビル

https://okazaki-angle.com

photographs by MOTOKO
text by Kaya Okada