神戸市のクリエイティブディレクターという仕事。
2020.10.16 UP

神戸市のクリエイティブディレクターという仕事。

WORK

本記事は雑誌ソトコト2018年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

「行政にクリエイティブディレクターがいるって本当?」。
そうなんです、ここ神戸市には市役所の中に「クリエイティブディレクター」の肩書を持って活躍する人たちがいます。
行政×クリエイティブディレクターという、新しい連携のカタチが生み出した仕事をご紹介します。

神戸市では2015年から公募でクリエイティブディレクターを募り、現在は2代目となるさんと、3代目の平野拓也さんが勤務している。天宅さんは2017年6月、平野さんは今年の6月に、神戸市にクリエイティブディレクターとして採用された。神戸市との契約は「非常勤嘱託職員」という形態。任期は最長で3年。勤務はおよそ週3日で、それ以外の日は二人ともフリーランスのデザイナーやアートディレクターとして活動している。行政がクリエイティブディレクター職を”中“に置くことはかなり新しいと感じるし、デザイナーとしての働き方にも時代感がある。

社会課題を、デザイン視点で解決していくための先導役。

 クリエイティブディレクターとは、例えば広告業界でいうとマーケティング戦略の総監督的な立場で、制作やプロモーションに関するすべてを仕切るのだが、神戸市のそれはどうなんだろう。

 天宅さん、平野さんの日々の仕事は、市役所内にあるさまざまな課や局から寄せられる、課題や相談に対応していくことがメイン。案件は「チラシを作りたいけどどうしたらいいか」という比較的分かりやすいものから、社会課題の解決の仕方を一緒に考えていくという複雑なものまで多岐にわたる。担当を決め、一人が一日平均5件ほどをいていくそうで、その中には、1回の打ち合わせで方向性が見えてくるものもあれば、数回のミーティングやワークショップを経て成果を目指すものなど、案件によってゴールもアプローチも変わる。実務はもちろん、考え方の整理をしたり、ファシリテーター役や、相談役となったりなど、案件によって実にさまざまな役割を担う。ニーズも多く、二人とも常時フル稼働の状態だ。

天宅さん
天宅 正(てんたく・まさし)さん●兵庫県神戸市長田区生まれ。東京藝術大学デザイン科卒業。同大学院デザイン科修了、デザイン会社『ドラフト』勤務後、2016年よりフリーランス。北海道、秋田、新潟、長野、東京銀座、島根など、地域にデザインで関わる。17年より桑沢デザイン研究所非常勤教育職員としてゼミを受け持つ。
平野さん
平野拓也(ひらの・たくや)さん●茨城県出身。東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科卒。東京藝術大学修士課程視覚伝達研究室修了。『アリヤマデザインストア』勤務後、大分県の事業にてブランド開発・デザインに携わり、「山形ビエンナーレ2016」デザイナー&アシスタントキュレーターを担当。現在、フリーランスとしても活動。


職員のリテラシーを上げるために、寄り添い、導く。

神戸市がクリエイティブディレクターを採用した素地には、デザインによって街の新たな魅力を協働と参画によって創造していく都市戦略「デザイン都市・神戸」がある。天宅さん、平野さんが所属する神戸市企画調整局産学連携課創造都市担当の係長・高槻麻帆さんは、「職員のデザインに対する意識・リテラシーを向上させることや、デザイン思考を身に付けられるように導くことがこの役職の大きな役目。ただ、初代の山阪佳彦さんが採用された当初は、現在のような関わり方というより、もう少し実務としてのデザインの仕事が多かったようです。山阪さんが活動される中で、職員の意識やデザイン思考をどう引き上げていくか、という視点が重要であることが徐々に共有され、それが今の活動のベースになっていきました。職員にとって身近であり気軽に相談できる存在。専門家が上から言うのではなく、職員に近い目線でアドバイスしながら、一緒に考えていただけるのが、すごくよくて。答えを出してくれるのではなく、デザイン思考を使って導いていってくれる。それが神戸市のクリエイティブディレクターですね」と話してくれた。

神戸市のクリエイティブディレクターの仕事、行政で働く意義について。

 神戸市役所で働く外部人材としてのやりがい、本音、葛藤などについてお話しいただきました。なかなか聞けないところですが、始めていただきました。三人によるクロストーク、スタートです。

 天宅さんや平野さんと、業務内外で関わることも多いというICT業務改革専門官・砂川洋輝さん。三人に共通するのは外部人材であるということ。「行政で働く意義ですか?慎重にならざるをえないので、民間のペースで進まないことには多少ストレスも感じます。ただ、自分が持っているスキルや知識を喜んでくれる職員がいるのはうれしいし、それが間接的に市民の方の役に立っているって思うとやりがいを感じます」と砂川さん。平野さんも、「普通にしていたら、例えば里親制度の案件などにはたぶん出合えなかった。勉強にもなるし、すごくありがたい。消費じゃないサイクルの中でデザインを生かし、市民の方々を考えながら仕事ができる。いい仕事だなって思います」とうなずく。

 神戸市のクリエイティブディレクターについてはどうか。天宅さんは、「山阪さんとはよく、『この仕事って漢方薬みたいやなあ』って話していました。デザイン都市として、デザイン思考やクリエイティブな考え方の人が少しずつでも増えていくといいねって。即効性はないけれど、じわじわみたいな(笑)。だから変だなと思うことに対しては、『変ですねえ、変ですねえ』って言い続けることが大事かなって」。平野さんも続けて、「僕らは答えを持っていないので、話し相手になって、一緒に見つけていくというスタンスを忘れないようにしたい」と続ける。一方で、デザイン界の第一線で活躍している天宅さん、平野さんは共に、もどかしさも感じているとも。「コンペで上がってくるデザインに対して、『自分であればこうするのにな……』と思うこともある。市役所のクリエイティブマインドを上げることと同時に、神戸のクリエイティブレベルを高くすることもミッションなので、生意気なようですが、関係する事業者にはもっと頑張ってほしいという時もあります」と天宅さん。

砂川さん
砂川洋輝(すながわ・ひろき)さん●神戸市出身。大手電機メーカー勤務後、フィンランドのアールト大学で約2年間、サービスデザインなどを学んだという。2017年6月より現職の神戸市ICT業務改革専門官に着任。

 二人の仕事を日々近くで見ている砂川さんは、「クリエイティブディレクターの使い方をもっと工夫したほうがいい」と指摘する。「僕は技術・開発系ではありますが、クリエイティブの力、デザインの力が、画面の中やプロダクトだけではなく、体験や気持ちの部分にも影響を与えられる大きな存在だということをさまざまな場面で目の当たりにしてきました。クリエイティブディレクターの力を市役所内外の人たちがもっと活用することができたら、仕事の内容も質も格段に変わるんじゃないかなと思っています」。

 社会課題を解決する方法としてデザインの力を活用する。その伝道師として神戸市ではクリエイティブディレクターを採用している。彼らとの仕事からデザイン思考を体験し、身につけた職員が増えていけば、これまでの行政にはなかった価値観が共有され、イノベーションを起こすことができる。また、デザイナーと行政の新たな関わり方には、働き方の未来も感じる。行政×クリエイティブディレクター、かなりアリです。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yuki Inui