触れると和紙が光る!? 外国人デザイナー×石州和紙職人の共同開発「電導性和紙」
2020.09.30 UP

触れると和紙が光る!? 外国人デザイナー×石州和紙職人の共同開発「電導性和紙」

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 “日本一丈夫な和紙”と言われる島根県の石州半紙(ばんし)は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている島根県の伝統的工芸品だ。文化財修復のために、海外の有名美術館からも注文が入るという手漉き和紙だが、現在その工房は4軒しか残っていない。
 そんな石州和紙(半紙)の特徴を活かした“光る和紙(正式名称:電導性和紙)”の試作品が先日完成し、一般公開が始まっている。初めて見た人は誰もが驚くこの作品の特徴と、開発に携わった外国人デザイナーと石州和紙職人たちに完成までの道のりを取材した。

島根県浜田市三隅町
石州和紙の産地である島根県三隅町には日本海を望む展望台もあり、観光客や鉄道ファンも訪れる。

触れるたびに色が変わる和紙

 今回開発された電導性和紙は、その和紙に手で触れることで通電し、和紙自体が光るという不思議な作品だ。使っているのは独自に開発した装置と、カーボンファイバー(炭素繊維)を漉き込んだ特殊な和紙。和紙が光るだけでも驚かされるが、さらには触れるたびに光の色が変わるため、初めて作品を見た人は「和紙が光ること」と「その光の色の変化」に二度驚かされるだろう。

電導性和紙

 また作品を間近で見てみると、和紙の漉き方にもさまざまな工夫が見られる。例えば、カーボンファイバーが黒い糸のように散りばめられている和紙もあれば、水滴を落とす技法を用いた水玉模様の和紙、さらにはカーボンファイバーの存在に気付かないほど、細かく漉き込まれている和紙もあった。
 どの和紙も、見え方は違ってもどれもが光るように設計されている。「こんなにも和紙の漉き方には幅があるのか」と思わずにはいられなかった。

「和紙を使うことで、生活に柔らかさを感じてほしい」

石州和紙

 石州和紙は、“日本一丈夫な和紙”とも言われるほど強靭な和紙だ。その理由はいくつかあり、一つは他の産地では捨ててしまう楮(原料)の甘皮を残すことで繊維がよく絡まり、破れにくい和紙が出来上がるのだという。また漉き方にも特徴があり、一定方向にのみ漉くという伝統的な技法によって、横から裂こうとしても裂けにくい和紙になるのだそう。
 「電導性和紙」は石州和紙(半紙)が本来もっている特徴を活かした作品でもあるので、手で触れることで和紙が破れる心配もほとんどない。

※「石州和紙」と「石州半紙」の違い
石州和紙は厳密には「石州半紙」と「石州和紙」の2種類に分けられており、一つは地元でとれた楮のみを原料とし、完成までの工程にも細かい規定がある「石州半紙」、そしてもう一つは楮・三椏・雁皮を原料に作られた和紙または加工品をまとめて「石州和紙」と分けられている。 

 そしてこの作品の発案者は、オランダを拠点にしているデザイナーのヨナス・アルトハウスさん。アーティスト・イン・レジデンスという国内外のアーティストを支援するプログラムで選出され、約2ヶ月間島根県に滞在し、石州和紙の技法や知識を学びながら、自らのアイディアである「触れると和紙が光る作品」の実現に取り組んだ。

電導性和紙 ヨナスさん
プロダクトデザイナーでもありインターフェース(媒介装置)デザイナーでもあるヨナスさんは、現在デザイナーでもありながら、自身の会社経営やデザインアカデミーでの教師など、複数の顔も持つ。(photo by Marie Rime)

 彼は大学ではプロダクトデザインを、そして大学院ではテクノロジーや電気・媒介装置などについて学んだ過去を持つ。和紙のことは大学時代に読んだ本で知っていたこともあり、今回の滞在以前に「カーボンファイバーを漉き込んだ和紙を使い、和紙と光を融合した作品を作りたい」と計画していた。

 しかしそもそもなぜ和紙を使った作品を考えたのか、彼に聞いてみた。

ヨナスさん 和紙と光がマッチすることは前から知っていたし、以前日本に滞在した時にもそういった作品は見ていました。でも和紙を見たことはあっても、実際に触ったことがある人は少ないだろうと思ったんです。だから私が得意な電気系の作風と和紙を融合し、偶然ではなく意図的に和紙を触ってもらえる作品を作りたかったんです。
 最近はプラスチックのような硬くて冷たい印象を持つ製品が日常にも溢れているけれど、和紙をタッチセンサーに使うことで、この作品を日常に取り入れた時に、生活に柔らかさを感じてもらえたらとも思っていました。

カーボンファイバーとの戦い

電導性和紙 ヨナスさん

 取材中ヨナスさんに「開発過程で最も苦労したことは?」と聞くと、「カーボンファイバーを和紙に混ぜ込むこと」と答えた。「当初は髪の毛の束のようなカーボンファイバーが、ただ和紙の上に乗っかっているようだった」とも話し、お世辞にも芸術とは言えないところからのスタートだったようだ。

 彼が滞在した2ヶ月間は、石州和紙職人や石州和紙会館、行政など多くの人が彼のアイディア実現に関わっている。事前に彼のアイディアを聞き、滞在中もサポートを行った石州和紙職人の久保田総さんは「アイディアを聞いたときは、面白いことを考えるなと思いました。でもそれが最終的にどんな形になるのかは全く予想がつかなかった」と話す。誰もが苦労したというカーボンファイバーとの戦いは、どのようにして着地したのだろうか。

電導性和紙 久保田さん
石州和紙職人の久保田総(そう)さんは、透かし和紙や日本画用の大判和紙を得意とする「石州和紙 久保田」の工房の職人さん。

 和紙に草花や色紙を挟んで漉くことはあっても、電導性の素材を漉き込んだ和紙が本当に通電するのかどうかは、職人さんたちも不安だったという。

久保田さん: 彼にはまず、自分が思ったものを作ってみてもらうところから始めてもらいました。紙漉きの工程は、三隅町内にある二つの工房を行き来しながら1~2週間で教え、そこからは彼一人でも小さな和紙を漉けるようになったので、分からないことがあれば手伝うという形で、手取り足取り全てを教えたわけではないんです。
 でもカーボンファイバーを漉き込む過程は、一緒に試行錯誤を重ねました。そしていろいろと試した結果、最終的にはカーボンファイバーは原料の中に細かく混ぜてしまえば、導電性も保ったまま、きれいな和紙が漉けることがわかったんです。

ヨナスさん 電導性和紙

久保田さん: ただ原料とほぼ同化するぐらいにまでカーボンファイバーを混ぜ込む作業がとても大変でした。水だけでは絡まってしまい、きれいに細かくできなかったので、試しに和紙のつなぎでも使うトロロアオイの粘液を入れてみたところ、きれいに分散されたんです。偶然の産物って感じでした。

text by Naoko Yamakawa

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