東京の片隅でつくられる、唯一無二の「伊良コーラ」。 ー和漢方職人だった祖父の思いを受け継いで。
2019.06.18 UP

東京の片隅でつくられる、唯一無二の「伊良コーラ」。 ー和漢方職人だった祖父の思いを受け継いで。

FOOD

シュワッとしてじんわり染み入る──。世界初のクラフトコーラです。
毎週末開催される東京・港区青山のFarmer's Market @ UNUで大人気なのが、飲んだ人を笑顔にさせる、魔法のようなクラフトコーラ。「伊良コーラ」を知れば知るほど、コーラってこんなにもおいしくて、可能性に満ちた飲み物だったのかと、世界の見方が少しだけ変わってきます。

みんなを笑顔にする、ピースな飲み物。

気持ちよく晴れた週末。青山の国連大学前で開催されるFarmer's Market at UNUで、フードトラック「カワセミ号」が営業を開始するとたちまち長蛇の列がつくられた。みんなのお目当ては、東京発のクラフトコーラ「伊良コーラ」。10〜15種類のスパイスとレモン、ライムを原料につくられたその液体はパンチがあるのに、すべてのスパイスが調和してまろやか、柑橘の爽やかさとともにシュワシュワ、ジュワーッと体の中へ染み入っていく。あのコーラがこれほどまでに体にやさしく、おいしい飲み物になるなんて。口にしたとたん、驚きと喜びでみんなの顔が輝いていくのがよくわかる。

コーラだって手づくりできる。常識や既成概念を超えて挑戦をし続ける「伊良コーラ」は、飲んだ人を笑顔にさせる。
コーラだって手づくりできる。常識や既成概念を超えて挑戦をし続ける「伊良コーラ」は、飲んだ人を笑顔にさせる。

こうした様子を眺めながら「コーラって、ものすごくピースな飲み物だと思うんです」と微笑むのはメーカーである『伊良コーラ』代表・コーラ小林さん。その名前からもわかるとおり、かなりのコーラ・マニアだ。

そんな小林さんが、どのような経緯で「世界初のクラフトコーラ」をつくることになり、人気を博すようになったか。そこに至るまでの過程と思いを聞いてみると、コーラという飲み物が、これほどまでに「可能性」を秘めた存在だったのかと気づかされるほどにおもしろい。

「カワセミ号」でコーラを提供する小林さん。水兵の帽子がトレードマーク。
「カワセミ号」でコーラを提供する小林さん。水兵の帽子がトレードマーク。

持ち前の探求心と祖父との思い出が導いたもの。

「伊良」という名前は、小林さんの祖父・伊東良太郎さんが営んでいた和漢方工房『伊良葯工』から受け継いだ。和漢方職人だった良太郎さんの工房は、西武線・下落合駅近く、小林さん一家と同居していた自宅の隣。漢方を煎じたり刻んだり、祖父が作業している様子を見るのが大好きだった小林少年は、工房に通っては眺めたり、手伝ったりしていたという。

コーラに興味を持ち始めたのは北海道大学農学部に通っていた学生時代。さまざまな実験を繰り返す毎日を過ごすなか、偏頭痛持ちだった小林さんは、その辛さを紛らわせるためにコーラを飲むようになった。「どうして黒くて、なんだかわからない液体が世界中で愛されて、飲まれているのだろう?」と思いながらも、コーラの魅力にのめりこみ、大学を休学して旅した世界の国々で、いろいろな種類のコーラを飲み歩いた。

左上/たっぷり入ったシロップの瓶。左下/「コーラ小林」のネームタグもばっちり。 右/ガーナから直輸入している「コーラの実」。
左上/たっぷり入ったシロップの瓶。左下/「コーラ小林」のネームタグもばっちり。
右/ガーナから直輸入している「コーラの実」。

小さい頃から、いろいろなことに「なんでだろう?」「どうしてなんだろう?」と疑問をもち、アイデアを形にすることが得意だった小林さんは、卒業後は東京の広告代理店へ。がぜんコーラへの興味が湧いたのは、当時、インターネットでコーラのオリジナル・レシピと出合い、文化的背景を調べたことがきっかけだった。

コーラが開発されたのは1886年のアメリカ。薬剤師のジョン・ペンバートンによってつくられた。いくつものスパイスを組み合わせたもので、偏頭痛予防やリフレッシュ、また滋養強壮効果を目的とした薬用的な飲料だったといわれている。それ以前、ジョン・ペンバートンは南北戦争での負傷を機に患ったモルヒネ中毒を治療するため、コカの成分を抽出してワインと混ぜた「フレンチ・ワイン・コカ」なるものを発明していたが、禁酒法により売れなくなってしまった。その代わりとして生まれたのが「コーラ」だったのだ。

左上/営業中はずっと長い行列ができるほど大人気。 左下/モチーフのカワセミ。水の中に飛び込んで魚を捕らえるカワセミのように、既成概念にとらわれず挑戦していきたいという思いがこめられている。 右/シロップと自家製炭酸水の割合は1対3。
左上/営業中はずっと長い行列ができるほど大人気。
左下/モチーフのカワセミ。水の中に飛び込んで魚を捕らえるカワセミのように、既成概念にとらわれず挑戦していきたいという思いがこめられている。
右/シロップと自家製炭酸水の割合は1対3。

「コーラにはこうした文化的、歴史的背景が隠されていたということを知って驚きましたが、いろいろなことが腑に落ちたんです」。同時に人工的につくられているとばかり思っていたコーラが、実はスパイスなど自然のものからできていることもわかった。「原材料一覧を見ると、シナモンやコリアンダー、ナツメグなど見覚えのある素材ばかり。これはすごい、自分でつくれるかもしれないと思い、その後すぐ、会社帰りに素材を買って帰りました(笑)」。

コーラの原料となるスパイスがずらり。祖父・良太郎さんが使用していた道具を使用してスパイスを調合。分量をきっちりと量り、手順を踏んでいく。詳しい材料や手順は企業秘密だが、それぞれの工程の手順やタイミングが大切。
コーラの原料となるスパイスがずらり。祖父・良太郎さんが使用していた道具を使用してスパイスを調合。分量をきっちりと量り、手順を踏んでいく。詳しい材料や手順は企業秘密だが、それぞれの工程の手順やタイミングが大切。

「伊良コーラ」で使う主な素材
●レモン ●ライム ●オレンジ ●コーラの実 ●シナモン ●生姜 ●バニラビーンズ ●クローブ ●カルダモン ●ナツメグ ●コリアンダー ●ラベンダー ●カツアバ and more……!

その日から3年間、帰宅後に試作を繰り返す日々が始まった。つくってはみるものの、なかなか満足のいく仕上がりにならなかったからだ。「コーラっぽい風味にはなるけど、どうしても超えられない壁があったんです。なにかが足りない。それを超えるきっかけが祖父の調合の技術でした」。

左/工房は、良太郎さんの和漢方工房があった場所を改築して利用。薬棚やラジオなど、かつて使われていた道具が今も残る。右/「クラフトコーラ魔法のシロップ」はオンラインストアで販売。3150円(270ml)。※現在は売り切れのため、販売休止中。
左/工房は、良太郎さんの和漢方工房があった場所を改築して利用。薬棚やラジオなど、かつて使われていた道具が今も残る。右/「クラフトコーラ魔法のシロップ」はオンラインストアで販売。3150円(270ml)。※現在は売り切れのため、販売休止中。

ちょうどその頃、祖父が亡くなり、遺品を整理しながら、調合の技術や漢方の知識を勉強していた小林さん。それらをコーラづくりに取り入れたところ、これまでとは違うものができたと確信。これなら売り物になると考え、すぐにフードトラックをつくった。Farmer's Market @ UNUでの販売を始めたのが2018年7月。販売の初日から行列ができたほど、「伊良コーラ」はみんなに好意と驚きをもって迎えられた。11月にはクラウドファンディングを行い、祖父の工房を改築してコーラづくりの工房に。「自分にしかできないことをしたい」と数か月後、4年勤めた会社を辞め、コーラメーカーとして歩んでいくことを決心した。

「伊良コーラ」は、小林さんの飽くなき探究心ゆえに、つくるごとにレシピを変えて、さらなるおいしさを目指している。

お客さんに聞きました!「伊良コーラ」を 飲んでみた感想は?
お客さんに聞きました!「伊良コーラ」を 飲んでみた感想は?

これまでの自分の経験がつながって生まれた。

小林さんは「自分はコーラのようだ」と考える。「コーラって、いくつものスパイスでできているけど、その一つひとつは決して特別なものじゃなくて、それが調和したときにすごいものになる。自分もまったく同じなんです。祖父の手伝いや学生時代の実験、アイデアを形にすることなど、たまたまやってきたことが結びついて、コーラへのアウトプットへつながった。自分はこれまで疑問を持ち続けたり、アイデアを出したりすることはできても、絵を描く、スポーツをするというような特別得意なことがなくて、なにを追求すればいいかわからなかった。でも、これまでいろいろな経験をしたからこそ、『伊良コーラ』を形にすることができたと思っているんです」。

祖父・良太郎さんのマッチラベルのコレクション。これらのモダンなデザインにインスパイアされて、「伊良コーラ」のロゴやカワセミのイラストはつくられた。
祖父・良太郎さんのマッチラベルのコレクション。これらのモダンなデザインにインスパイアされて、「伊良コーラ」のロゴやカワセミのイラストはつくられた。

だからこそ、自身を「コーラ小林」と名乗り、これからもたくさんの経験を積んで、コーラのように生きていくと決めた。

最近は、柚子や山椒など、和の素材にこだわったコーラや高麗人参など漢方の素材を使った機能性に特化したコーラを構想している。さらには工房を拡大して、そこに直売所をつくりたいとも考えるようになった。「自分が育った下落合の町ってなにもなくて、これまでは特に好きというわけではなかったのですが、『伊良コーラ』をつくって少し見方が変わりました。自分が初めて打ち込めるものを見つけて、コーラで新しい価値を生み出せた。それならば、コーラを使って地元を盛り上げることができたら、下落合という場所の新しい価値も見つけられるかもしれないと思うようになりました。まだどうしていくかは考え中ですが」。

左/良太郎さんが使用していたという和漢方について書かれた本。右/若き日の良太郎さんの写真。
左/良太郎さんが使用していたという和漢方について書かれた本。右/若き日の良太郎さんの写真。

いろいろな経験を重ねていけば、いつかそれらが形になることもある。東京はそうした経験を多くできるところ。たかがコーラ、されどコーラ。いろいろな可能性に満ちている。コーラも、東京も。

工房がある下落合、神田川沿いの遊歩道にて。
工房がある下落合、神田川沿いの遊歩道にて。

DATA48 ● 伊良コーラ(Farmer's Market @ UNU出店時の場合)
東京都渋谷区神宮前5-53-70 青山・国際連合大学前広場
http://iyoshicola.com

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kaya Okada

本記事は雑誌ソトコト2019年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。