コラボ型ローカルイノベーターが続々と誕生する、和歌山県田辺市へ!
2019.06.21 UP

コラボ型ローカルイノベーターが続々と誕生する、和歌山県田辺市へ!

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1人より2人、2人より3人、4人といったように、個人や仕事の枠組みを超えたコラボ型のビジネスやプロジェクトが、次々と誕生している地域があります。それが、和歌山県田辺市。ローカルイノベーターたちが次々と生まれ、協力して課題解決に取り組むことで、地域に大きな力を生み出しています。

うなぎ×梅干し、養鶏×発酵、虫食い×デザイン。

食べ合わせが「悪い」とされてきた、うなぎと梅干しがコラボする「鰻と梅の仲直りプロジェクト」が、梅の一大産地、和歌山県田辺市で誕生した。第1弾として販売される「紀州南高梅ひつまぶし」は、かつお梅味のうなぎ丼、うなぎの骨からとっただしでお茶漬け、さらにしそ漬け梅、昆布梅のトッピングと4種の味わいが楽しめる。

うなぎ×梅干し
左/『紀州南高梅ひつまぶし』(3240円)を開発した太田有哉さん(右)と小向秀樹さん。右2点/味わい方の説明冊子や箱は、『たなべ未来創造塾』1期生の竹林陽子さんがデザイン。

企画・製造は、田辺市で創業約80年の老舗うなぎ専門店『太田商店』の4代目・太田有哉さんで、梅の加工は梅農家の小向秀樹さんに依頼。ふたりは共に、ローカルイノベーターを育てる『たなべ未来創造塾』の3期生でもある。

うなぎの価格高騰、客数の減少などの課題を抱えながら『たなべ未来創造塾』に昨年7月から参加していた太田さんが、同期の仲間と話しているときに、規格外とされる「つぶれ梅」の存在や梅の価格が安定しないことなど、梅農家の課題を知ったことがプロジェクトのきっかけだ。

「『鰻と梅の仲直り』は、梅産地のうなぎ屋にしかできないこと。食べ合わせについては俗信で、栄養学的には問題がありません。どちらもご飯に合うため、『食べ過ぎ』をいさめるための言い伝えなのかもしれません。和歌山県は日本一の梅産地です。その付加価値をつけることでうなぎの価格高騰にも左右されにくくなるし、規格外の梅も買い取れるので、うなぎと梅の課題を一緒に解決できる。自社の課題を、梅産地としての地域課題と組み合わせたからこそ、見えてきたプロジェクトです」と太田さんは語る。

1店頭に立つ太田さん。2小向さんとチームを組む若手梅農家。左から松葉和樹さん、小向さん、西野博満さん。34廃棄するうなぎの骨を梅の肥料にしたり、剪定した梅の枝のチップで燻製するうなぎも開発中。
上段左/小向さんとチームを組む若手梅農家。左から松葉和樹さん、小向さん、西野博満さん。上段右/店頭に立つ太田さん。下段/廃棄するうなぎの骨を梅の肥料にしたり、剪定した梅の枝のチップで燻製するうなぎも開発中。

小向さんも、梅農家として独自プロジェクトを別に立ち上げた。20代を中心とした5人の若手梅農家とともに次世代の梅農家のあり方として、「効率的で楽しく、稼げる農業」を実践。梅産地を守るため、耕作放棄地の活用、自社工場での加工・出荷、新規就農者・若手農家の育成と収穫した梅の全量買い取りなど、「梅でつなぐ未来のコミュニティ」づくりを目指している。

 「農家って孤独な作業が多く、一人でやっていると情報も入りにくい。仲間と協力すれば作業効率も上がって稼げるし、学びもできる。そして楽しいんです。このあたりは南高梅というブランドがある地域。一人ではなく、みんなで前に進んでいきます」と小向さんは豊富を語る。

地域内循環を生む養鶏業や、熊野の山を守るプロジェクトも。

田辺市では、このように「地域の課題」と「地域の産品や資源」を組み合わせたビジネスプランを立ち上げ、実践しているイノベーターが続々と誕生している。その起爆剤となっているのが『たなべ未来創造塾』だ。人材育成を目的に2016年に田辺市が創設した同塾では、これまでの修了生が発表したビジネスプランの約7割が事業化されている。

2期生の石﨑源太郎さんが妻・亜矢子さんと一緒に、18年夏、田辺市龍神村で始めた平飼いの養鶏所『とりとんファーム』では、鶏に与える餌として地元で出る加工食品の副産物に注目。独自につくる飼料には、近隣の豆腐工場や納豆工場で廃棄となる豆腐や納豆、醤油工場の醤油の搾り滓、米農家から出る小米などを配合し、さらにその飼料を発酵させることで栄養価を高め、卵の質を上げている。また、鶏小屋内には籾殻や落ち葉とともに、しいたけ栽培施設の廃菌床を混ぜ込んで敷き、健康な鶏を育てている。

養鶏×発酵
左/『とりとんファーム』の石﨑源太郎さんと亜矢子さん。右上/地元農家にもらった白菜も餌に。右下/コクと甘みがのった卵は、20種近い原料を配合し、発酵させた飼料から生まれる味。

「畜産って循環型農業の要。食品加工で出る副産物や、畑で出荷できないものを上手に使っていく義務がある。鶏のフンは上質の有機肥料なので近所の農家さんにお分けしています。こうした循環型農業も地域のつながりがあってこそ。起業したてで資金はありませんが、知恵と経験はあります。つながりのなかでバージョンアップしながら、いろいろとチャレンジしていきたい」。そういう石﨑さんは、将来的に耕作放棄地で放牧をする養豚・養牛なども計画している。

1元気に走り回る国産種採卵鶏「もみじ」と石﨑さん夫妻。2土台となるコンクリート打ちからDIYした手造りの鶏舎。3地元の醤油工場からもらった醤油の絞り滓。4自家配合した飼料はバスタブを改良した桶で、コタツのヒーターを利用して発酵を行う。
左/自家配合した飼料はバスタブを改良した桶で、コタツのヒーターを利用して発酵を行う。右上/元気に走り回る国産種採卵鶏「もみじ」と石﨑さん夫妻。右中/土台となるコンクリート打ちからDIYした手造りの鶏舎。右下/地元の醤油工場からもらった醤油の絞り滓。

17年12月にスタートした『Boku Moku』の活動も、『たなべ未来創造塾』ならではのつながりで生まれた。家具販売業の榎本将明さん、グラフィックデザイナーの竹林陽子さん、育林業・森林コンサルタントの中川雅也さんという1期、2期の修了生とともに、製材業、木工職人、一級建築士といったメンバーが、それぞれの専門分野を活かし、「熊野の山を守り、盛り上げていく」ためのプロジェクトを行っている。

左/これから植林される山に立つ『Boku Moku』メンバー。右上/山の多様性を伝える絵本も製作。右下/田辺市の市長室にもあかね材のテーブルがある。コンクール受賞を市長に報告。
左/これから植林される山に立つ『Boku Moku』メンバー。右上/山の多様性を伝える絵本も製作。右下/田辺市の市長室にもあかね材のテーブルがある。コンクール受賞を市長に報告。

虫食い材の「あかね材」を使った家具製作や照明づくりのワークショップ、一般向けの森林体験などを行い、『間伐・間伐材利用推進ネットワーク』が主催する「-Forest Good 2018-間伐・間伐材利用コンクール」で特別賞を受賞した。あかね材は強度的な問題はないが、紀州材のブランド価値が下がるという理由などで利用が進まず、一般には知られていない木材だった。そんなあかね材を、『Boku Moku』は虫食い跡もひとつの個性として着目した。田辺市役所の市長室にもあかね材のテーブルが置かれ、『たなべ未来創造塾』塾長である真砂充敏市長が、あかね材のPRを積極的に行っている。

左/『Boku Moku』メンバー。左から岩見桂道さん、山林敏巳さん、中川雅也さん、榎本将明さん、竹林徹さん、竹林陽子さん。真ん中/あかね材の虫食い跡。これをデザインに。右/中川さんは街にある耕作放棄地で木の苗を育て、それぞれの山にあった植林をすることで、林業の第三次産業化を目指す。
左/『Boku Moku』メンバー。左から岩見桂道さん、山林敏巳さん、中川雅也さん、榎本将明さん、竹林徹さん、竹林陽子さん。真ん中/あかね材の虫食い跡。これをデザインに。右/中川さんは街にある耕作放棄地で木の苗を育て、それぞれの山にあった植林をすることで、林業の第三次産業化を目指す。

「ワークショップや勉強会、絵本製作、植林活動など、多くの人にあかね材の存在を知ってもらうための活動を行ってきました。あかね材も含めて森は成り立っています。森の多様性を知ってもらい、ファンを増やしていきたいです」と竹林さん。榎本さんは「人口減少でマーケットも小さくなるなか、地域の課題に新しい価値を見出し、自らが新たな仕事を創り出していくことが求められています。こうした考え方に賛同し、東京にある会社から、オフィスにあかね材のテーブルを置きたいと、問い合わせがくるようになりました」と、可能性を感じている。

自分たちの住む地域は、自分たちで変えていこう。そうした熱い思いは、つながりのなかで広がっていき、新しい未来をつくり出している。

\私たちも続きます!/
『たなべ未来創造塾』第3期生の新規事業アイデア。

2019年2月9日、『たなべ未来創造塾』第3期生の修了式が田辺市内で行われた。自身の事業課題と地域の課題を解決し、新たなビジネスを創出しようという11人の塾生たちが、半年間かけて磨き上げたプランを発表した。

それぞれのプレゼン時間は3分。その3分に熱い思いを凝縮し、個人や会社の枠組みを超えて生まれた、地域を元気にする個性豊かなプランに称賛の声が上がった。会場には田辺市と共同主催の『富山大学地域連携推進機構』、講師として登壇した地域ビジネスの実践者、金融機関や商工会議所の人々が集まり、「産官学金」でバックアップする『たなべ未来創造塾』の密な支援体制が感じられた。

『たなべ未来創造塾』

サイクリングでツナガル人の輪─サイクリストが集う街へ
濱口 純さん (アルティエ)

土・日曜の利用が少ないビジネスホテルに、和歌山県で増えている都会からのサイクリストを呼び込む。サイクリストの休憩場所として、ホテルのデイユース・プランをPR。田辺市内を自転車で観光してもらうとともに、ホテルの喫茶コーナーを開放することで、地元の人と交流ができる場所となり、リピーターを増やしていく。

釣り人が集う酒場『なじみ』─魚の持ち込み・買い取りサービス
稲垣幸生さん (酒味道楽なじみ)

飲食店が多い田辺市で他店との差別化を図りながら、漁師の担い手不足で減少した地魚の流通量を補おうと、遊漁船と連携して、クロムツ、アコウダイなど、指定した魚の買い取りサービスを行う。ほかにも、魚の持ち込みサービスを行うことで、釣り人が集う居酒屋を目指す。

Premium Ice GORON─地域の可能性を外へ発信・生産者と消費者を「つなぐ」
森川真帆さん (モリカワ)

他業者との差別化が難しい卸売業者が、観光地なのに地元食材を使用した商品が少ないという課題解決に挑戦。和歌山県産の果物や野菜がゴロンと入ったアイスクリームを開発し、旬と素材のよさを感じてもらう。地域の食材を仕入れ、加工、販売を一貫して行うことで、地域から必要とされる、地域をつなぐ卸売業へ。

子育てママ応援コミュニティ─子育てママに寄り添うauショップ
関根真誉さん (auショップ田辺新庄)

携帯電話ショップが、出生率低下という地域課題を解決するため、安心して子育てできるコミュニティづくりへ。SNSやネットのフィルタリング教室などの携帯電話に関わることから、親子撮影会、料理教室、子育て相談会など、子育てママに寄り添うことで、「この地域でなら、もうひとり産んでもいいかな」と思える地域を目指す。

食で育むコミュニティ─レストランが地域にできること
林 拓郎さん (ベーカリーレストランKOKAGE)

安心・安全な地元食材を使うベーカリーレストランが、地元の生産者による食材の勉強会、季節の野菜や果実を使った料理教室などを開催し、食育に関心があるママによるコミュニティを形成する。ママたちがイキイキと輝く姿がまちにあふれる、そんな暮らしぶりを発信し、田辺での子育てに希望を感じてもらう。

Mom LABORATORY─「田辺で育てたい」を探求するプロジェクト
高橋あいかさん (ayato sound create/親子リトミック教室リトスタnico)

「ひとりじゃなくて、みんなで育てよう」という共助を育むコラボイベント「ママラボラトリー」を開催。ヨガ、リトミック、スマホ教室、読み聞かせなどを行い、ママをつなぐ。自然豊かな田辺で子育てができ、子育ても仕事も生き生きと楽しめるまちへとしていく。「田辺でいい」から「田辺がいい!」へ。

小さな拠点『はつやま横丁』─空きテナントを活用した人が集まる拠点づくり
初山 徹さん (はつやま鮮魚店)

人口減少・小売業の減少の課題に直面する上秋津地域にある自社所有の空きテナントを「小さな拠点」として活用。隣の自店から総菜などを持ち込み、ランチと居酒屋のイートイン営業をする。一人暮らしのお年寄りが気軽に立ち寄れる場所であると同時に、観光客と地元客との交流の場をつくり、にぎわいと雇用を創出する。

ぷらっとホーム─50代からの生活習慣病予防のための運動とコミュニケーションの場
尾㟢 務さん (デイサービスきたえるーむ)

これまで介護認定者しか使えなかった半日型デイサービス施設を、夕方から一般に開放。地域のために生活習慣病予防とコミュニケーションの場をつくり、企業としては介護報酬に頼らないサービスを提供、認知度アップにつなげる。介護認定を受ける前から施設を活用してもらうことで、地域を健康にする。

梅でつなぐ未来のコミュニティ─次世代の梅農家のあり方を築く
小向秀樹さん (小向農園)

梅の産地を守るため、若手梅農家が団結。耕作放棄地の再生、独自ブランドの確立、他業種とのコラボを進める一方、若手農家育成プロジェクトとして、若手農家や移住希望者への研修制度とその後の新規就農支援を通じて、次世代の農業のあり方を創造する。

鰻と梅の仲直りプロジェクト─梅産地だからこそできる、一歩踏み込んだコラボレーション
太田有哉さん (太田商店)

価格高騰や客離れ、夏の繁忙期以外をどう乗り切るかといううなぎ店の課題と、規格外やつぶれ梅、価格変動という梅農家の課題を「うなぎ×梅」というコラボで解決。第1弾の「紀州南高梅ひつまぶし」に続き、うなぎの骨を使った、梅や柑橘用肥料の開発、剪定した梅の枝をチップにして使ううなぎの燻製のプランも。

職人の架け橋─かっこいい職人を目指して
山中崇嗣さん (紀乃国工芸社)

看板広告の大手クライアントである建設業からの仕事が減少。地元の基幹産業である建設業を元気にするため、地域の魅力的な建設業経営者を集め、職人就活フェアを実施。職人はかっこよく、楽しい仕事であることを伝える。情報交換で職人同士がつながることで、仕事へのモチベーションをあげ、新しい仕事をつくる。

photographs by Katsu Nagai
text by Kaya Okada

本記事は雑誌ソトコト2019年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。