移住に悩んだ経験をいかして起業。海の家のコワーキング、Sea Point NIIGATA
2020.10.24 UP

移住に悩んだ経験をいかして起業。海の家のコワーキング、Sea Point NIIGATA

LOCAL

みんなの場所は、みんなで作る。

改装工事の様子

 そして、その年の海の家の営業が終了してから、DIYによる参加型の場づくりが始まる。それまで鈴木さんが作り上げてきた人脈や発信力を活かし、人手が必要な作業のときにはFacebookなどで呼びかけると、毎回多くの協力者が集結した。みんなで「どんな場所にしたいか?」という話し合いから始まり、それをもとにアイデアを出しながら設計図を作ったり、作業を進めるなかで出てきたアイデアをいきなり実行してみたり。計画にとらわれることなく、自由に考えながら手づくりの工事は進んだ。

どんな場所にしたいか?
参加者が考えた改装の設計図。グループごとに“理想の秘密基地”を考えた。

 この改装工事には、最終的に延べ300人もの人が参加し、約半年をかけて完成。日本海に面した大きな窓からは明るい光が差し込み、店内のところどころに見えるクラフト感に人の手の温もりを感じられる内装に仕上がった。作業が終了した2016年4月にリニューアルオープンを迎え、ついに鈴木さんが思い描いていた海の家のコワーキングスペースが動き出した。

Sea Point NIIGATA
Sea Point NIIGATAに集まるみなさん。性別も年齢も関係なく、多くの人に愛されている。

共同経営者、星さんの存在。

 そうしてオープンしてから今年5年目を迎えるSea Point NIIGATA。現在は東京からUターン移住した鈴木さんのほかにもうひとり、県外出身の星亜矢子さんが運営に携わっている。星さんは長野県出身。高校卒業後、新潟市の専門学校へ進学するため新潟に来てから、現在も同じ新潟市で暮らしている。転職のタイミングで長野に帰ることも思い浮かんだが、まちとしての暮らしやすさが新潟にとどまる決め手になったのだそう。

星さん「動物看護師の専門学校を卒業してから2年間働いた動物病院を退職するとき、長野に帰ることも考えました。でもすでに新潟の友人も多かったですし、新潟の人の温かさというか、人と人との距離が近いことに魅力を感じていて、とても居心地が良かったんですよね。ほかにも、ごはんがおいしいとか、長野にくらべて道路が凍らないとか、買い物もおしゃれな商業施設が揃っているし、もうちょっとここにいたいなという気持ちがつながって、今も新潟にいます」

星さん
星亜矢子さん。長野県出身。株式会社ニイガタ移住計画の共同経営者のひとり。多彩なキャリアを活かして、移住や起業イベントにも数多く登壇している。

 そんな星さんは、その後のキャリアも多彩。動物病院に勤務したあとは事務の仕事に就き、途中からは副業として少しずつフリーライターの活動もスタート。その後、WEBに興味を持ったことがきっかけで、職業訓練所に通ってWEB制作を学び、実際にシステム会社で制作経験を積んだという経歴を持つ。現在は、Sea Point NIIGATAを運営する株式会社ニイガタ移住計画の共同経営者として、鈴木さんとともに店舗業務や広報、企画などを担う傍ら、フリーでWEB制作の仕事も続けている。

 ひとつの仕事にとらわれず、柔軟に仕事や働き方を変えていく星さんは、「ただ、どうやったら生きていけるかを常に考えているだけなんですよね」となんでもないことのように話す。しかし、どんなときも新しいことを決断するのには勇気がいるもの。
 
 でもだからこそ、星さんは身のまわりで自分にできることを少しずつ始めながら、学びが必要なときには学びに行き、着実に技術や知識を得ながら進んでいるように見える。大きな決断をするとき、いきなり新しいことや初めてのことにゼロから挑戦することももちろんすばらしいが、身のまわりにある小さな決断やチャンスを掴んでいくことも、理想の暮らしを実現する近道になるのかもしれない。

Sea Point_スタッフ
Sea Point NIIGATA、スタッフのみなさん。

 そんな長野出身の星さんと、東京からのUターン経験者である鈴木さんのふたりを訪ねて、Sea Point NIIGATAまで移住や起業の相談に来る人もいるとか。それぞれ別々の経験をしているふたりだからこそ、「とりあえずSea Pointに行けばなんとかなるよ」と別のところから紹介を受けて来る人もいるのだそう。鈴木さんが移住を決めた当時、「同じように悩む人の助けになりたい」と考えて作られたこの場所は、まさに今、同じ思いを抱える人の背中を押す場所にもなっているようだ。

交流から生まれる、新たなプロジェクト。

Sea Point

 そんなSea Point NIIGATAは、オープン当初からこんなコンセプトを掲げている。「人と人がつながり、新潟でしかできない新しい働き方・暮らし方・人との関わり方をつくりたい」。そのコンセプト通り、オープン以来、この場所からさまざまな仕事や活動が生まれてきた。

 そのなかには、オープンして間もないころ、たまたま店内に居合わせた移住者や市の職員たちで「移住者同士が交流できる会があったほうがいいよね」と盛り上がり生まれた、『ミチシルベ』という市民団体もある。初めはSea Point NIIGATAでのイベント開催などからスタートし、今では新潟市が主導する活動になったが、今でも依頼があれば、鈴木さんや星さんが運営のお手伝いに行くこともあるのだとか。

 ほかにも、コワーキングスペースの会員同士でお互いに仕事を回し合いながら、協力してひとつのプロジェクトや案件を進める、チームランスのような働き方も生まれている。これも運営の鈴木さんや星さんが主導してできた流れではなく、会員みんなで働くなかで自然に生まれた動きなのだそう。

コワーキング
Sea Point NIIGATAのプレミアムメンバーが使える2階の作業スペース。メンバー限定の交流会や勉強会も開催される。

もっと多くの人に関わってもらいたい。

 このように、すでに多くの人が関わり合いながら、新たな活動が自然に生まれる空気があるなかで、鈴木さんも星さんも「さらに多くの人に関わってもらえるようにしたい」と口をそろえて話す。それは、Sea Point NIIGATAが単なるコワーキングスペースではなく、あくまで“交わる場所”を目指しているからだ。仕事も立場も違うさまざまな人が集まり、異なる考えや意見が交わることで、新しいものが生み出されてゆく。今のSea Point NIIGATAのコワーキングはフリーランスの利用者が多いというが、もっといろいろな業種、立場の人が集まれば、さらに新しい動きが生まれるかもしれない。ふたりが目指すところにたどり着くには、まだまだ、ということなのだろう。

Sea Point イベント
昨年開催された「カレーフェスタ」の様子。新潟市在住のふたりの主婦が運営する「理想の休日.com」が主催したイベントで、当日は多くの人で賑わった。

 そのためにこれからは、“遊び”のコンテンツやさまざまな人が関われる“余白”を作っていきたいと考えている。関係ないように見える“遊び”でも、まずはつながることが大事。まさに「仕事も遊びも一緒に」と考えるSea Point NIIGATAだからこそ、できることかもしれない。

星さん「経営者の方だと『ちょっとここでは仕事できないな』って言われちゃうんです。でも『遊びにくるのには最高だね』って言って来てくださるので。まずは遊びに来てもらってそこから接点を作れば、新しいものは自然に生まれていくかなと。そうやって、もっといろんな人が関われる余白を作りたいですね。会社の経営者もいれば、フリーランスや会社員の方、あと主婦の方もいるとか。全体的にいろんな人が関わって、もっといろんなものが生まれていったらいいなというのは、私たちがずっと目指していることです」

サイクリングスタンド
会員メンバーとともにDIYで手づくりしたサイクリングスタンド。サイクリングの合間に、海を見ながらの休憩も気持ちいい。

集まる人が、場をつくる。

 この5年間、さまざまな人の力を借りながら成長し続けてきたこの場所は、今もなお、ここに集う人によって作られている空気感がある。その人たちが変われば、今のSea Point NIIGATAの姿もまた新たなかたちへどんどん変わっていくのかもしれない。ゴールや完成形がないからこそ、関わる人の数が増えれば増えるほど可能性は広がってゆくのだ。

 そしてそれは、個人の生き方にも言えることかもしれない。ひとりで考えるよりも、みんなで考えたほうが多くのアイデアが生まれる。全部ひとりで抱えなくていい。困ったときはお互いさま。Sea Point NIIGATAは、そんなことを教えてくれる場所でもあるだろう。

文:Miho Aizaki

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