標本計測
2020.10.23 UP

連載 | 標本バカ | 99 標本計測

DIVERSITY

そこで一つ提案をした。カードパックを計測してみよう。

 何かとモノを集めたがるのは父も息子も変わらず、最近は「デュエル・マスターズ」というカードの収集に熱心だ。1万種以上もカードがあるだけでなく、2〜3か月おきに新シリーズが発売され、100種以上の「新種」が加わっているという。2005年に発表された哺乳類のチェックリストによると種数は5416で、とてもデュエル・マスターズの総種数及び新種増加率にはかなわない。こんなもの、集めるのは楽しいに決まっている。中には超レアな輝くカードが含まれており、これを手にしたときには歓喜し、さらに深みにはまる。集めたカードは自由に選択して40枚のチーム(デッキと呼ばれる)を作り、対戦するカードゲームなので、兄弟対決の敗者はさらなるレアで強力なカードを入手したいと懇願し、カード集めが子ども同様に楽しい僕は、それに協力し“軍拡競争”をあおる。

 そんな具合で子どもたちと玩具店で5枚のカードが入ったパックを購入したり、ショーケースに並んだ魅力的なカードを購入していた頃に事件が起こった。下の息子が雑誌の懸賞で最新のカードパック30袋入りの箱に当選したのである。 1か月ほどしてからそれはちゃんと手許に届いた。その箱は全部で150枚のカードが入った貴重な標本群。こんな機会はめったにない。一体どんなレア度のカードがいかなる順番で出るのか。そこで一つ提案をした。カードパックを計測してみよう。

 以前「4Dパズル」という、立体パズルを収集したことがあった。運が悪いと二人の息子が同じモノを引く可能性がある。僕は、「種によって重さが違うはず」と内容物の多様性を説明し、片っ端から左右の手に取って重さが違うものを選べばよいと指導した。おかげでいかにも軽そうなプテラノドンが欲しい上の息子は、見事それを引き当てた。カードの場合もレアなカードには表面にキラキラ加工がされていたりするわけだから、それが入っているパックの重さや厚みは若干異なることが推測される。早速研究室からモグラ計測用の体重計とデジタルノギスを持ってきて、パックを開封する際には必ず計測し、中に入っているカードを上から順番に表に記録するよう指示した。

 結果は予想どおり、最もレア度が高く美しいカードが入っているパックはほかと明確に異なる高い計測値が出た。ところが開封するのが楽しくてしょうがない子どもたちは、すべてのパックについて記録を取ることを怠ってしまった。完璧なリストを作れなかったことが残念な父は、6月に迎えた下の息子の誕生日にさらに新しいカードパック1箱を贈るという暴挙に出た。今度こそはの思いで、まずすべてのパックに標本番号を与え、重量と厚さを計測させた。平均を逸脱して計測値が高いパックが3つある。それを開封するとレアカードがちゃんと含まれていた。

 ところでこの手法がレアカードの入手に応用できるかというと、お店の人がパックを箱から選んで手渡してくれるので全く無意味だ。しかし息子たちは標本を計測する意義や楽しさを着々と学んでいる様子だ。僕も久しぶりに愛用のデジタルノギスを手に取り、標本を計測してみようと思い立った。

文●川田伸一郎
題字・金澤翔子
illustration by Fumihiko Asano

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川田伸一郎

かわだ・しんいちろう
1973年、岡山県生まれ。農学博士。国立科学博物館動物研究部研究員。2019年3月から6月まで同博物館で開催される「大哺乳類展2」の企画も担当。著書に『モグラ博士のモグラの話』『モグラ-見えないものへの探求心-』など。