中川政七さんと編集長・指出が語る、日本のまちで「元気と幸せな関係」を生み出す方法
2019.04.05 UP

中川政七さんと編集長・指出が語る、日本のまちで「元気と幸せな関係」を生み出す方法

SASHIDE’S EYE

『中川政七商店』を大きく成長させた代表取締役会長であり、現在はサッカークラブ『奈良クラブ』の代表取締役社長も務める中川政七さん。その手腕や視点は、工芸やビジネス、そしてスポーツジャンルで大きな注目を集めています。
その中川さんが、月刊『ソトコト』編集長・指出一正とトークセッションを行いました。コーディネーターは、奈良県・東吉野村で『オフィスキャンプ東吉野』を運営する坂本大祐さん。トークは、「そもそも地域は変わる必要があるのか?」という坂本さんの問いから始まりました。

シャッター商店街が困っていないなら、変わらなくていい

SASHIDE'S EYE 日本を元気にする方法
坂本さんが用意したトークテーマ。奈良・東吉野村というローカルに住む坂本さんならではの視点が光っていた。

坂本大祐さん(以下、坂本):まず、「そもそも地域は変わる必要があるのか?」ということからお聞きしたいです。奥大和が今よりももっと"振興"していく必要があるのか、原点から考えてみたいんです。中川さん、いかがですか?

中川政七さん(以下、中川):僕は地域創生の目線で仕事に入ることはないんですが、外からそれを見ていて、「当事者たちが本当に変わりたいと思っているのかどうか」は大切なんじゃないかなと思っています。その辺ってどうですか?

指出一正(以下、指出):今、中川さんがおっしゃったことに、僕も同意です。シャッター商店街は困っていない、というのがあるんですよね。むしろ「余計なことはしないでくれ」と。静かにそこに暮らしていること自体が幸せなのに、「まちのにぎわいをつくりたい」などと勝手に言う人たちが多すぎる。

この論理は長野県塩尻市の職員の山田崇さんというスーパー公務員もおっしゃっています。自分でその商店街にスペースをつくって、シャッター商店街のお店の方々にヒアリングをしたところ「なんだ、誰も困ってなかったんだ」と分かったそうなんです(笑)。だから、変わらなくていいんじゃないですかね(笑)。

中川:そうですよね。みんなそれぞれ価値観があるから、それを大前提に杓子定規に型にはめていくのはちょっと違うんじゃないかなって気がします。ただし、「それしか知らないからこれでいい」と思っている人もいるんじゃないかなと思います。

指出:それもありますね。やっぱり複眼的な思考は大事です。「自分のまちにはこれがあるから」と先人がつくったブランディングに乗っかりすぎている地域が多いじゃないですか。でもそれは昔の人が一生懸命つくってここまで構築したものだから、次を見てそれを継承するものも育てないといけないですよね。

自分の足元にあるものを見て集め「地域の解像度を上げる」

坂本:それは学びに繋がっていきますよね。つまり、新しいことを知らないといけない。

中川:これだけ情報インフラがあっても、やはり情報格差ってめっちゃありますよね。

坂本:大きいです。

指出:僕は釣りが好きで、小さなポケット水槽をよく持ち歩いているんですね。みなさんがご存知の「ガリガリ君」というアイスと同じ大きさです。僕は10年ほど前に、そのポケット水槽くらいの大きさでしか社会を見ないようにしようと決めたんです。

ポケット水槽の中には、琵琶湖、滋賀県の湖北で僕が釣ったヤリタナゴっていう5センチぐらいの魚が入っています。田んぼの用水路を逃げるように泳いでいるただのちっちゃな雑魚なんですが、ポケット水槽に入れてじっと見てみると、コバルトグリーンやメタリックオレンジの輝きを放つことがよく見てとれるんです。

これは地域でも同じことが言えて「地域の解像度を上げる」と呼んでいます。少子高齢化、人口減、中山間地域の衰退とかって新聞を賑わせていますけど、これはすでに一次情報じゃないわけですよね。自分の足元にあるものをもうちょっと自分のものとして見て、集めることが大事だと思っています。ちっちゃな視点で自分のまちを見ていくことが、大きな学びにつながるんじゃないかな。

SASHIDE'S EYE ヤリタナゴ ガリガリ君の解像度
指出が「大好きだ」と話す、田んぼの魚・タナゴ。「小さな視点で見ると、新たな発見があります」と、指出。

中川:大切なのは自分で選ぶことだと思うんです。自分でいろんなものを知った上で「これがいい」と思ったら、それが正解だと。外野がとやかく言うことではないと思うんですよね。

指出:一ついい例をお話させてください。三重県の大台町、宮川で、中山間地域での新しいプロジェクトを、小田明さんという50代の男性が最近始めました。このまちにトヨタさんが2007年から管理している、東京ドーム360個分ぐらいの杉林があるんですね。林業では儲からないので新しい使い方をしてくれる人を募集したところ、小田さんが現れたんです。

彼は島根県で開催した「しまコト」の卒業生で、森に関わりたい気持ちが強く、とにかくいろいろなプランを出されていたんですよ。でも最後にたどり着いたのは、自分が犬が大好きだからと発案したプラン。犬が自由に走ったり遊んだりできるドッグランを杉の林野に、ドッグパークを宮川の林につくったんです。もう大人気です。伊勢に行く人が寄れたりするから、ビジネスの可能性がある。

最初から犬のことを考えて出したプランではなくて、周辺もすべて知った上で「やっぱり自分はこれだな」と思ったわけですから、ブレないんです。

中川:まさにそういうことですよね。そうやっていろんな選択肢を見て、どれを選ぶか。人間は新しいことにチャレンジするのは抵抗があるし、ハードルが高いわけですよね。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo

2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール

キーワード

中川政七

なかがわ・まさしち
株式会社中川政七商店 代表取締役会長、株式会社奈良クラブ代表取締役社長。1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に13代社長に就任、2018年より会長を務める。「遊 中川」「中川政七商店」「日本市」など、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に約50店舗を展開している。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。また、自社ブランドで培ったブランドマネジメント力と生活雑貨業界に特化した販路を最大限に活かした業界特化型のコンサルティングで「産地の一番星」を数多く生み出し、日本の工芸を元気にするべく奮闘している。

坂本大祐

さかもと・だいすけ
合同会社オフィスキャンプ 代表。1975年大阪府生まれ。和歌山県でデザイナーとして活動をスタート。体を壊したのを機に、2006年、山村留学で中学生の頃に暮らした奈良県・東吉野村へと拠点を移す。移住後は県外の仕事を受けながら、今までの働き方や生活を見直し、自分にとって居心地のいい新たなライフスタイルを模索。ある出会いをきっかけに、奈良県内の仕事が増え、商品やプロジェクトなどの企画立案からディレクションまで手がける商業デザイナーとしてさまざまな案件に携わる。現在は、自らも企画からデザインまで関わった、2015年3月にオープンした「オフィスキャンプ東吉野」を運営している。

指出一正

さしで・かずまさ
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。島根県「しまコトアカデミー」、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」、奈良県「奥大和アカデミー」、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」、高知県津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」など、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」、「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

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