シャッター商店街が困っていないなら、変わらなくていい
坂本大祐さん(以下、坂本):まず、「そもそも地域は変わる必要があるのか?」ということからお聞きしたいです。奥大和が今よりももっと"振興"していく必要があるのか、原点から考えてみたいんです。中川さん、いかがですか?
中川政七さん(以下、中川):僕は地域創生の目線で仕事に入ることはないんですが、外からそれを見ていて、「当事者たちが本当に変わりたいと思っているのかどうか」は大切なんじゃないかなと思っています。その辺ってどうですか?
指出一正(以下、指出):今、中川さんがおっしゃったことに、僕も同意です。シャッター商店街は困っていない、というのがあるんですよね。むしろ「余計なことはしないでくれ」と。静かにそこに暮らしていること自体が幸せなのに、「まちのにぎわいをつくりたい」などと勝手に言う人たちが多すぎる。
この論理は長野県塩尻市の職員の山田崇さんというスーパー公務員もおっしゃっています。自分でその商店街にスペースをつくって、シャッター商店街のお店の方々にヒアリングをしたところ「なんだ、誰も困ってなかったんだ」と分かったそうなんです(笑)。だから、変わらなくていいんじゃないですかね(笑)。
中川:そうですよね。みんなそれぞれ価値観があるから、それを大前提に杓子定規に型にはめていくのはちょっと違うんじゃないかなって気がします。ただし、「それしか知らないからこれでいい」と思っている人もいるんじゃないかなと思います。
指出:それもありますね。やっぱり複眼的な思考は大事です。「自分のまちにはこれがあるから」と先人がつくったブランディングに乗っかりすぎている地域が多いじゃないですか。でもそれは昔の人が一生懸命つくってここまで構築したものだから、次を見てそれを継承するものも育てないといけないですよね。
自分の足元にあるものを見て集め「地域の解像度を上げる」
坂本:それは学びに繋がっていきますよね。つまり、新しいことを知らないといけない。
中川:これだけ情報インフラがあっても、やはり情報格差ってめっちゃありますよね。
坂本:大きいです。
指出:僕は釣りが好きで、小さなポケット水槽をよく持ち歩いているんですね。みなさんがご存知の「ガリガリ君」というアイスと同じ大きさです。僕は10年ほど前に、そのポケット水槽くらいの大きさでしか社会を見ないようにしようと決めたんです。
ポケット水槽の中には、琵琶湖、滋賀県の湖北で僕が釣ったヤリタナゴっていう5センチぐらいの魚が入っています。田んぼの用水路を逃げるように泳いでいるただのちっちゃな雑魚なんですが、ポケット水槽に入れてじっと見てみると、コバルトグリーンやメタリックオレンジの輝きを放つことがよく見てとれるんです。
これは地域でも同じことが言えて「地域の解像度を上げる」と呼んでいます。少子高齢化、人口減、中山間地域の衰退とかって新聞を賑わせていますけど、これはすでに一次情報じゃないわけですよね。自分の足元にあるものをもうちょっと自分のものとして見て、集めることが大事だと思っています。ちっちゃな視点で自分のまちを見ていくことが、大きな学びにつながるんじゃないかな。
中川:大切なのは自分で選ぶことだと思うんです。自分でいろんなものを知った上で「これがいい」と思ったら、それが正解だと。外野がとやかく言うことではないと思うんですよね。
指出:一ついい例をお話させてください。三重県の大台町、宮川で、中山間地域での新しいプロジェクトを、小田明さんという50代の男性が最近始めました。このまちにトヨタさんが2007年から管理している、東京ドーム360個分ぐらいの杉林があるんですね。林業では儲からないので新しい使い方をしてくれる人を募集したところ、小田さんが現れたんです。
彼は島根県で開催した「しまコト」の卒業生で、森に関わりたい気持ちが強く、とにかくいろいろなプランを出されていたんですよ。でも最後にたどり着いたのは、自分が犬が大好きだからと発案したプラン。犬が自由に走ったり遊んだりできるドッグランを杉の林野に、ドッグパークを宮川の林につくったんです。もう大人気です。伊勢に行く人が寄れたりするから、ビジネスの可能性がある。
最初から犬のことを考えて出したプランではなくて、周辺もすべて知った上で「やっぱり自分はこれだな」と思ったわけですから、ブレないんです。
中川:まさにそういうことですよね。そうやっていろんな選択肢を見て、どれを選ぶか。人間は新しいことにチャレンジするのは抵抗があるし、ハードルが高いわけですよね。
photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo
2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール