微遍路のススメ~前編~
2020.10.26 UP

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 19 微遍路のススメ~前編~

LOCAL

地域の暮らしを徒歩で横断する究極の旅へ。

 これまで「微住」を通して考えてきたこと、そして今回のコロナで失われたもの、そこから生まれた感情。私はある旅に出ることを決心した。

 この旅を名づけて、お遍路ならぬ「微遍路」と呼ぶ。福井県を上から下までこの足で横断する。福井県ではすでに微住の受け入れを通じて私自身も、関係が深い地域であることに加え、いくつか新たに微住に興味を持っていただける地域が増えた。微住を通じてつながる福井の各地を自らの足で歩き、福井に「微住街道」をつくりたいという思いから今回の旅の構想へとつながった。微住中、より地域に携わるために大事なことは、地域内で自分に「負荷」をかけること。従来の観光では旅行者はおもてなしというサービスを消費によって受けるのが当たり前であった。観光客はお客様である。だが微住はホストとゲストの関係をできる限りなくし、地域のため、地域のみなさんのため、そして微住者のためと、お互いがおもてなしをし合う。それを「タメづくり」と呼んでいる。自分自身、福井の土地や地域に対して負荷という名の「タメづくり」をすることで、地域の人との関係の鍵が見つかるのではないかと考えた。今最も求められる付加価値は、“負荷価値”ではないか。

 このタイミングで旅をやるべきかとかなり悩んだが、このタイミングだからこそ、「東京から往来してくる“人”」ではなく「田中くん」として、土地に入らせていただき、アフターコロナの新しい旅の形を模索したいと思った(ただし関わっていただける方に万が一迷惑をかけてはいけないので、出発前PCR検査を受けてきました。結果は「陰性」。約4万円)。

「微遍路」の無事を願って篠座神社のお神酒で乾杯。
「微遍路」の無事を願って篠座神社のお神酒で乾杯。

普段素通りしていた地域の暮らしへのアプローチ。

 今回の微遍路の期間は約1か月。福井県の東部にある大野市をスタートし、北、西へと向かい、そこから南下し、最終目的地は南部にある小浜市。道中は基本1人であるが、できる限りその土地を知る方たちにも同行していただきながら、その地域ならではの風土や風習、歴史を通じ、その土地を深堀していく。9月4日、旅の安全を大野市内の篠座神社で行い、いよいよスタートすることになった。

 出発地点に選んだ場所はこの冬、台湾・台中の微住者たちとともにつくった宿『荒島旅舎』前。出発の際は地元の人たちが応援に来てくれた。1日目は大野市を出発し隣の美山町を目指す約20キロメートルほどの旅路だ。

まちなかでたまたま出会った、洋裁屋のかわいいおばあちゃん。手づくりのマスクをいただいた。
まちなかでたまたま出会った、洋裁屋のかわいいおばあちゃん。手づくりのマスクをいただいた。

 普段車しか通らない道路を、大きなカバンを担いで人が歩いていたら、「何やってるんや?」と住民の方も気にかけて声をかけてくれる。“田舎あるある”の会話で「うちのまちは何もない」とよく耳にするが、本当にそうだろうか。ものがないというよりかは接点がないというほうが近いのではないか。我々はある時からスピードや効率性ばかりを優先し過ぎて、まだまだ見えていないものに気づいていないだけ。この微遍路の旅は、一歩歩けば次々と新たな「接点」に出合える。便利なことや都合がよいことが豊かさに直結しなくなりつつある今、微遍路では我々が求めるているこれからの豊かさのヒントが見つかる。

永平寺町の山越は、地域の山を愛するみなさんと。人は一緒に歩くとここまで仲よくなれる。
永平寺町の山越は、地域の山を愛するみなさんと。人は一緒に歩くとここまで仲よくなれる。

 翌日は美山町から永平寺町へ。今日は以前より微住へ興味を持っていただいていたということもあり、このまちの「城山」という山の整備に取り組み、計画を進める「永平寺じょやま会」のみなさんと永平寺町を横断することに。会のみなさんもこれまで自分たちのまちを徒歩で横断したことはなかったみたいで、「いい経験になった」と言ってくれた。まだまだ酷暑が続く9月の福井。強烈な太陽、時には豪雨、時には強風と連日“宮沢賢治状態”であるこの旅。確かに心が折れそうな時もあるが、道中声をかけてくれたり、お店に入るとこの旅のことを知ってくれてご飯を大盛りにしてくれたり。そういう思いに「生きている」のではなく「生かされている」という感覚になっていく。果たしてゴール目標の小浜市に無事辿り着けるのか(後編に続く)。

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田中佑典

たなか・ゆうすけ
職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは一つの場所で2週間以上滞在してみること。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。