封じ込められない、自由を望む気持ち。『パピチャ 未来へのランウェイ』
2020.10.30 UP

封じ込められない、自由を望む気持ち。『パピチャ 未来へのランウェイ』

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 夜、門番に袖の下を握らせて大学の寮を抜け出し、タクシーに乗り込むネジュマとワシラ。車内で着替えながら、カセットから流れるお気に入りの音楽に高揚する彼女たちを、「検問だ」のひとことで、ドライバーが制する。ヒジャブで顔を隠したふたりは、結婚式の帰りだといい、タクシーは辛くもその場を切り抜ける。検問をしていたのが警察なのか、武装勢力なのかはわからない。

 到着したナイトクラブで、ふたりはまず、トイレに向かう。講義中もノートにデザイン画を描いているほどファッションに夢中なデザイナー志望のネジュマは、クラブに来る仲間からオーダーを受け、自作のドレスを売っているのだ。個室で着替えた彼女たちは、トイレの鏡に映る姿を満足げに確認して、ダンスミュージックに合わせて歌い、踊る。濃い化粧やくわえ煙草がさまになる、くっきりした顔立ちのアルジェリアの女子たちが激しくはじける姿に少々面食らう。それは、裏を返せば自分自身が、ムスリムの女性は全身を黒い布で覆い、家の外にはあまり出ず、仕事は家事で……と、ステレオタイプで彼女たちを見ていたということで、こうした思い込みはいつの間にか、気づかぬうちに刷り込まれてしまうのだろう。

 他人の志向や嗜好を、有無をいわさず断じるグループに、ネジュマと寮の仲間たちは自分なりの方法で闘う。それでも「正しい女の服装」を啓蒙するポスターが増えるのに比例して、彼女たちへの圧力は確実に強まってゆく。

 母親と、ネジュマ同様、自由な空気をまとうジャーナリストの姉・リンダ。家族三人、心休まるひとときを過ごした直後、銃声が響き、悲劇が起こる。リンダの死が示すのは、自分たちが信じる正しさを他者に押しつける者たちによる取り締まりの強化であり、それに従わない者への弾圧だ。

 門以外から出入りできないよう寮の周囲で壁の建設が始まる。自由が奪われ、その身に危険が迫る。それでもネジュマは、姉が最期にまとっていたハイク(衣服布)をデザインしたファッションショーを開く決意をする。

 ネジュマたちの、シンプルで力強いパッションが、見る者を勇気づける。パピチャとは、愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性を表すの地のスラング。その言葉どおり、ネジュマ役のリナ・クードリをはじめ、役者たちの生き生きとした表情が心に残る。

 既得権益を守るために、他者を抑圧する人間が”ない“ことにしようとしても、自由を望む個々の気持ちを封じ込めることはできない。彼女たちが寮内で開いたファッションショーに乗り込んできた武装集団を見て、日本とは別の世界の出来事と思う人もいるかもしれない。けれど、自分が思う正しさを強要するのが彼らの行動原理だとすれば、コロナ禍において世界の各地で見られる自粛警察という行為も、その根本は同じだろう。

© 2019 HIGH SEA PRODUCTION–THE INK CONNECTION–TAYDA FILM–SCOPE PICTURES–TRIBUS P FILMS––JOUR2FETE–CREAMINAL-CALESON–CADC」

『パピチャ 未来へのランウェイ』

10月30日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町にて
ロードショー、全国順次公開
https://papicha-movie.com/

text by Kyoko Tsukada