海洋ごみから生まれた《buøy》が、海の“いま”を伝える。プラスチックの可能性と未来を見つめて
2020.11.22 UP

海洋ごみから生まれた《buøy》が、海の“いま”を伝える。プラスチックの可能性と未来を見つめて

SUSTAINABILITY

 最近は“マイクロプラスチック”や“脱プラ”といったことばを耳にすることが増えた。世界的に海洋プラスチックごみへの問題意識が強まり、日本でも2020年7月からレジ袋の有料化が始まるなど、早急にプラスチックを減らす取り組みが必要とされている。そんななかで、日本のプラスチックメーカーが動き出した。海洋ごみを世界にひとつだけの工芸品として生まれ変わらせる《buøy》。このブランドに込められた思いとは。

深刻な海洋プラスチック問題。

 プラスチックは、私たちの生活のなかにあふれている。食品の包装やペットボトル、さらには歯ブラシや洗剤のボトル、そしてその詰替えもプラスチックの袋に入っている。ほかにも文房具やテレビ、インテリアなど、その一部分だけプラスチックが使われていることも多い。現代の生活では、プラスチックを取り入れない生活のほうが難しいかもしれない。

 そんななかで、世界中で問題になっている海洋ごみ。ごみの種類として最も多いのはやはりプラスチックごみであり、そのほとんどは、街で廃棄され、川や水路から海へ流れ出たものだ。海へ流れ出たプラスチックごみは波や紫外線の影響で細かく砕かれ、5mm以下になったものは“マイクロプラスチック”と呼ばれる。そのほかにも、洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤に含まれるプラスチックや、化学繊維が使われた衣服の洗濯によって出る繊維くずなどもマイクロプラスチックの原因になっており、目に見えないほど細かくなったプラスチックは、その回収も困難になる。

海洋ゴミ

 プラスチックは人工物だからこそ、自然界で分解されるまでに長い年月がかかる。そのあいだに化学物質を含むプラスチックを魚が誤って食べてしまうなど、海の生態系に悪影響を及ぼし、また、そうした魚や海産物を私たちが食べることによって、巡り巡って人体に影響を及ぼす可能性もある。

 いま、世界では毎年800万トンものプラスチックごみが海へ流出されており、2050年までには魚よりもゴミの量が多くなるという衝撃的な試算もある。特に、東アジアや東南アジアが主要な排出地域とされており、そのなかには日本も含まれているのだ。

 プラスチックの削減など対策が進む世界のなかで、まだまだ日本は大量のプラスチックを使い、廃棄している現実がある。私たちの生活に溶け込んでいるからこそ、いきなりプラスチックを無くしたり減らすことはできないが、これからプラスチックとどう付き合っていくべきなのか、考えなければいけないところに来ているのは確かだ。

海ごみから生まれた《buøy》。

 そんな大量の海洋プラスチックごみを、世界にひとつしかない工芸品へと生まれ変わらせるブランドが誕生した。それが、色鮮やかで複雑な模様が美しいアップサイクルブランド《buøy》だ。《buøy》の作品は、日本の海岸や海のなかで回収されたプラスチックごみから作られている。一見、プラスチックとは思えない質感と存在感のあるフォルムは、これまでのプラスチックのイメージを覆す。

buoy
インテリア雑貨のトレイとして使える《buøy》。海で回収したプラスチックごみから作られる。

 この《buøy》は、横浜のプラスチックメーカー、株式会社テクノラボで働く社員のアイデアから生まれた。テクノラボでは、主に電子機器の筐体をメインに、クライアントの要望にあわせてプラスチック製品のデザインや設計を行っている。現在《buøy》のブランドオーナーを務める田所沙弓さんも、プロダクトデザイナーとしてプラスチック製品のデザインを手掛けている。

 このように、ふだんはプラスチック製品を新たに生み出すことを本業にしているテクノラボ。そもそもプラスチックは大量生産を前提として、量産しやすいことや安価といった特長を挙げられることが多い。しかし田所さんには、素材としてのプラスチックの魅力を追求したいという思いがあった。たとえば木材や金属はその素材の特長を活かし、美しい工芸品として芸術的な観点からも評価される。「プラスチックでも工芸品が作れるのではないか?」そんな思いをずっと抱いてきた。

テクノラボ_田所さん
田所沙弓さん。プロダクトデザイナーとして、プラスチック製品のデザインを手掛ける。現在は、《buøy》の発起人としてブランドオーナーも務めている。

 このように初めは環境問題とは関係なく、プラスチックという素材の可能性を探っていた田所さん。しかし、プラスチックの魅力について考えてもらうための展示会「プラ展」を開催したことが、少しずつ環境問題への関心を強めていくきっかけになったと振り返る。

田所さん「私が主導して開催した『プラ展』に、脱プラスチック生活をしたいという環境問題に関心の高い方がわざわざ来場してくださったと聞いて驚いたんです。そのときは、どちらかというとプラスチック製品を作りたいと考えている企業向けの展示だったので、環境問題にフォーカスしたものではありませんでした。なのでその方は満足されなかったと思うのですが、消費者の方もプラスチックとどう向き合ったらいいのか迷っていて、情報を欲しているのではないかと感じました」

自然環境への危機感と新たな技術。

 このとき社内でも、海洋プラスチックなどの環境問題に対して、なにかアクションを起こせないかという声も上がるようになっていた。「自分たちが生み出したものが、悪さをしているのかもしれない」――そんなプラスチックメーカーとしての当事者意識の高まりと、田所さんの「プラスチックで工芸品を作りたい」という思いがかけ合わさり、海洋ごみを材料にした製品の開発に動き出すことになる。

テクノラボ_開発

 しかし、開発に至るまでには多くの壁が立ちはだかった。一口に“プラスチック”とは言っても、集まった海洋ゴミに使われているプラスチックの種類はさまざまだ。また、海洋ごみとして海を漂ううちに、その劣化具合もそれぞれ異なるし、そもそも同じものをたくさん作るというプラスチックの製造方法から外れて、工芸品のようにひとつずつ手作業で製造するのも初めての試みだった。

 技術担当者と打ち合わせながら、新しく「プレス成形」という製造技術を取り入れるなど試行錯誤し、約1年をかけて最初の試作品が完成。初めは製造技術の開発がメインであったため、まずは新品のプラスチック素材で作った作品を携えてイベントに出展した。そこで実際に作品を手にとって見た人からさまざまな意見や感想をもらい、さらに試作を重ねた。

プレス成形
新たに取り入れた技術、プレス成形の作業の様子。よくあるプラスチックの成形は、材料を温めるのが普通だが、プレス成形は型を温める。そのため、溶ける温度の違う複数の素材を使うと独特の模様が生まれる。

 そうして出来上がったのが、《buøy》の前身にあたる《reBirth》だ。海洋ごみと新品のプラスチック素材(バージン素材)を組み合わせて作られた製品で、現在の《buøy》よりも光沢がある作品になっている。この《reBirth》の製造技術が確立したあと、昨年11月からはクラウドファンディングにも挑戦。2ヶ月にわたって支援者を募り、今年1月に目標金額を達成した。

 さらに、その後の改良でバージン素材を使わず海洋ごみだけで製造することにも成功し、これが現在の《buøy》となる。クラウドファンディングの返礼品としてもこれが送られ、今年7月にECサイトを立ち上げるタイミングで《buøy》とブランド名を変更し、社内の有志で立ち上げた「Plas+tech project」によって本格的なブランド運営が始動された。

reBirth
《buøy》の前身、《reBirth》。絵の具のような鮮やかな模様が特徴的だ。

文:Miho Aizaki

  • 1/2