海洋ごみから生まれた《buøy》が、海の“いま”を伝える。プラスチックの可能性と未来を見つめて
2020.11.22 UP

海洋ごみから生まれた《buøy》が、海の“いま”を伝える。プラスチックの可能性と未来を見つめて

SUSTAINABILITY

海洋ごみだからこそできる表現を目指して。

 《reBirth》も《buøy》も、海洋ごみというネガティブな問題に切り込むための製品。しかし、だからといって製品自体が説教じみたものになるのではなく、海洋ごみだからこそできるポジティブな表現を目指してデザインされている。

buoy

 その結果生まれたのが、この複雑な模様だ。海に捨てられたプラスチックごみのそのままの色を活かし、そのとき回収されたごみの種類によって模様や色が変わる。そして海洋ごみをそのまま砕いて材料にしているため、製品の重さはごみの重さでもある。カラフルな色と複雑な模様は美しく、アート作品としても楽しめるが、同時にそれらは現在の海ごみのリアルな実態でもあるのだ。

 今年2月には、クラウドファンディングの支援者とともにビーチクリーン活動を行い、拾ったプラスチックごみで製品を作ることも予定していたが、新型コロナウイルスの影響で急遽中止に。そのとき田所さんは、こういった状況にこそ《buøy》の存在意義がある、とあらためて感じたと語る。

田所さん「この状況と同じようなことが『この先の海洋プラ問題で起こる未来なんじゃないか』と思ったんです。必ずしも海ごみに興味のある人が海のそばに住んでいるとは限りません。ましてや海ごみが問題となっている日本海側は、過疎地域も多いです。『海に行ってごみを拾うこと』だけが海ごみ問題に対するアクションではありません。《buøy》を通じて、そうした活動を支援する仕組みづくりが必要だと感じるようになりました」

ビーチクリーン
田所さんが、三浦海岸でビーチクリーンを実施したときに集めたごみの数々。これが《buøy》へと生まれ変わる。

 そこで、日本各地の海で回収されたプラスチックごみを《buøy》の材料として買い取る仕組みづくりもスタートした。海洋ごみを買い取ることでそれがビーチクリーン団体の資金となり、活動継続に役立ててもらう。ゆくゆくは、地域ごとに漂着するごみの特徴が異なることを利用し、その地域ならではの製品開発を行うことで、海洋ごみの地産地消を目指している。現在も福井県の団体と連携の調整をしており、これからさらに日本各地の団体とも連携を進めたいと考えている。

本当に必要とされるものづくりを考える。

 そしてこの《buøy》の開発を通して目指したのは、ただ海洋ごみをアップサイクルするだけでなく、プラスチックの製造開発のあり方や、廃棄システムを含めたものづくりなど、世の中の仕組みを見直すきっかけになること。プラスチックの環境問題を解決するためには、“プラスチック=使い捨て”という従来の考え方を改めることや、使い終わったあとごみになることまで考えたものづくりが必要とされている。こうした考え方は、《buøy》の開発を通してテクノラボ社内でも強まっているのだそう。

田所さん「テクノラボとして仕事を受ける際、クライアントの作り手としての“思い”があるかをより重視するようになりました。《buøy》の活動をしていても、私たちテクノラボが使い手のことを考えていない製品を生み出しては意味がありません。新しいプラスチック製品を開発するなら、それが社会に必要な製品であるように、クライアントとの打ち合わせで“なぜその製品を作る必要があるのか”ということをより深く聞き、考えるようになりました」

プラスチックごみ

 いま世界中で問題視されている海洋プラスチック問題だが、プラスチックすべてが悪いというわけではない。便利だからこそ、私たちの生活にもたらす恩恵が多いことも事実だ。しかし、私たちはこれまでプラスチックを好き勝手に使い、大量生産、大量消費を繰り返してきた。このことが現在の環境問題につながっているのではないだろうか。あらためてプラスチックという素材の特性や魅力を理解したうえで、本当に必要とされ、簡単には捨てられない製品を作っていくことが、いま必要とされているのだ。

プラスチックの可能性を見極める。

 《buøy》を手にとった人は、ふつうのプラスチック製品と比べて「ごみの重さをずっしりと感じる」という人もいれば、逆に陶器やガラスだと思って手にとった人は「軽い!」と驚く人もいるという。それは、《buøy》がこれまでのプラスチックが持つイメージの枠を超えて、素材の魅力を追求し、“ごみをアップサイクルして作る”という製品コンセプトも含めて、プラスチックの新しい価値観を提示した作品だからだろう。

buoy
飾るのではなく実際に使ってもらうことを目指し、ユーザーからの意見を参考にしながら、色やサイズなどバリエーションを増やしている。ビーチクリーン団体からは「ごみが製品の材料になることで、レアな色を見つけると嬉しくなる」といった意見もあり、プラスチックごみに対する新しい価値観が生まれている。

 プラスチックの歴史は、その誕生からまだ100年ほどしか経っていない。だからこそ、これまで考えられてきたコスト面の特長だけを見るのではなく、素材としてのタフさや防水性など、その特性を活かす製品が必要とされているのではないか。そして本当に必要なものはなにか、生活にどう取り入れていくべきか、消費者自身も考えてみてほしいと田所さんは話す。

田所さん「プラスチックは、便利さを追求してここまで駆け足に発展してきました。でもいま一度、私たちが求める生活にはなにが本当に大切なのか、なにに向かって発展していくべきなのか、立ち止まって考えるべきだと思っています。《buøy》はまだ不完全だからこそ、製品に対してなにを求めているのかがわかりやすい。消費者の方々が本当に欲しいものを考えてくれることで、いままでの製品開発の固定観念を打ち破ることができるんじゃないかと思っています」

 そして続けて、世界中で発生する“海ごみ”という大きな問題にみんなで向き合うためにも、海洋ごみから魅力ある製品を作りたい、と話してくれた。

田所さん「私たちにできることはとても限られています。でも私たちが考えた製造手法や《buøy》というブランドをきっかけに多くの人が動いてくれたら、できることがどんどん大きくなります。私自身が毎日海に行ってごみを拾うことはできないけど、いろんな人が関われる仕組みを提案することで、海ごみ問題という大きな問題と向き合うことができる。そのためにも海洋プラスチックごみならではの魅力ある製品を考えていきたいです」

海の“いま”を考えるものづくり。

 現在、《buøy》を運営する「Plas+tech project」では、海ごみ以外の廃棄プラスチック素材を使った新たなアップサイクル製品も開発しているという。

ビーチクリーン

 しかし、こうしたアップサイクル製品が作れるということは、それだけプラスチックごみがあふれているということでもある。色鮮やかな《buøy》が作れるということは、それだけさまざまな種類の海洋ごみが捨てられていたということ。いつかはその模様がシンプルになって、製造できる数も少なくなっていくことこそが、このブランドに込められた願いだ。いまのプラスチックごみの実態を伝える《buøy》が、これからどのように変化していくのか。そんな変化も含めて、今後も《buøy》というブランドに注目していきたい。

文:Miho Aizaki

  • 2/2