憂国呆談 season 2 volume 109
2019.07.05 UP

憂国呆談 season 2 volume 109

SOCIAL

【今月の憂いゴト】
『日本国記』の批判から、
映画『主戦場』と『空母いぶき』、
川崎殺傷事件の番組コメント、
安倍政権の迷走まで。

東京・神田神保町の古書街にある『ブックカフェ二十世紀』は、映画や芸能、スポーツなどの本やポスターを扱う古書店『二十世紀記憶装置@ワンダー』の2階に設けられたカフェ。棚に並んだ古本を手に取り、昭和な雰囲気のテーブルに腰をかけ、コーヒーと紅茶を飲みながら対談を行った田中・浅田両氏。田中氏がツイッターをブロックされた件から話が始まった。

『日本国記』、不都合な真実の指摘。
版元も作者もブロック逃走中!?

浅田  今日は神田神保町の古書街にある『ブックカフェ二十世紀』に来てる。ネット全盛時代だけど、こういう場所でゆっくり古本を眺めながらお茶を飲むのもいいね。ところで、『幻冬舎』社長の見城徹と百田尚樹からツイッターをブロックされた件はその後どうなったの?

田中  「言葉こそ武器」で「顰蹙は金を出してでも買え」と豪語していた見城徹閣下が問答無用で僕をツイッター上で突如ブロックしたので、僕のHPに「まとめサイト」を設けた香ばしい珍騒動の件ですね(苦笑)。昨年11月の発行直後から百田尚樹の『日本国記』は、仁徳天皇に関する19年前の新聞記事を大胆不敵に1ページも無断転載している“ぞっき本”じゃないかと話題になっていた。しかも具体的に指摘された複数の箇所が、但し書きもなく増刷時に“しれっと”修正されて、さらなる炎上が続いていた。浅田さんも以前から指摘していたように、ナチス・ドイツの迫害から逃れる人々にリトアニア第2の都市カウナスの日本領事館で領事代理として、本省からの訓令に背いて「命のビザ」を発給し続けた杉原千畝を礼讃する一方で、その彼は外務省から退職通告書を受け取って解職されるのに、「人道主義の立場を取っていた当時の日本政府にも陸軍にも民族差別の意識がなかった」と奇妙な「歴史修正主義」を臆面もなく展開したのが『日本国記』。イエズス会のルイス・フロイスとフランシスコ・ザビエルを混同してると指摘されて慌てて第5刷で「修正」したら、生兵法な編集担当者が2人の宣教師の書簡を再び取り違えてしまう駄目ダメ振り。『日本人の〈ユダヤ人観〉変遷史』の大著や、ちくま新書では『ユダヤ陰謀説の正体』という入門書を出している上智大学の松浦寛に、再々度の訂正を求められる始末だ。

浅田  「保守系」と目される歴史家の秦郁彦さえ、命を惜しんで立ち回った特攻兵っていう百田の『永遠の0』の設定自体が荒唐無稽な作り物で、今回も論評に値しない、と手厳しいね。

田中  ところが見城は「ウィキペディアからのコピペや他文献からの盗用を指摘されているのに幻冬舎は反論も見解も出していない」との疑問に対して「こちらにやましいことは一切ない」と『ニューズウィーク日本版』の記事で大見得を切り、「校正について言えば、普通の本の3倍以上はやっています」と居直った担当編集者を脊髄反射で守ろうとしたのか、「この程度の修正はよくあること」、「僕の判断で(正誤表は)必要ない、と決めました」と実にマッチョな胸の張り方を見せてくれた。その見城の舎弟として自らを「天才編集者」と呼んでいる箕輪厚介も「ハッキリ言って幻冬舎って会社じゃなくて『組』。『見城組』なのでビジネスの契約とかじゃなく、『人間としてのスジ』っていう話なんですよ」と騒動の渦中に「文春オンライン」のインタヴューで突っ込みどころ満載な、援護射撃ならぬ炎上射撃を繰り広げた。

浅田  なのに、どうして田中さんだけブロックされちゃったのかな?

田中  『なんとなく、クリスタル』で文藝賞を受賞した直後の1980年11月に知り合った当時は、角川書店の編集者だった6歳年上が見城。恋い焦がれていた女性との成就に昂奮して、真夜中に電話で小一時間も報告してくれた間柄だったのにね(苦笑)。実は彼と百田の両名がブロックする直前に僕は、「上等だぜ 幻冬舎商法 見城徹閣下。論より証拠 『日本国記』Cコード0095の史実。『21日本歴史』でなく『95 日本文学評論・随筆・その他』で登録」とツイートしたの。本の裏表紙にISBNのバーコードと一緒に印字されているCコードは「読者対象・販売形態・内容分類」を表す記号で、つまり幻冬舎は『日本国記』を「日本歴史」ではなく「随筆・その他」として登録して出版した。“腰巻きに”大きな赤文字で躍る「私たちは、何者なのか──。日本通史の決定版!」は、百田史観どころか単なるエッセイだったと。まあ、痛いところを突かれると逆上するのが人間で、羊頭狗肉がバレた彼も例外ではなかったと(涙)。
 だけど、「言葉こそ武器」「死ぬこと以外かすり傷」を社是に掲げる幻冬舎なのだから、箕輪舎弟も述べるように「見城組」としては「人間としてのスジ」を通して、少なくとも僕に直接、ツイートなり電話なりで「この野郎、タナカあ。『日本国記』は壮大なる百田尚樹の叙事詩だよ、文句あっか!」と叫んだ後で、ブロックすれば組長としてのスジを通せたのに。

浅田  「僕のツイッターが騒動を起こしています。これはに僕の傲慢と僕の怠慢が引き起こしたものだと思っています。作家の部数を公表したというミスを起こしてしまいました。公表した作家の方に心からお詫び申し上げます」って文章が幻冬舎HP「お知らせ」のトップに掲載されてるね。

田中  テレビ朝日「放送番組審議会」委員長を現在も務める見城が、長寿番組『徹子の部屋』をもじってサイバーエージェントとテレビ朝日、電通と博報堂が出資するAbemaTVで配信していた『徹の部屋』5月19日オンエア分の冒頭で述べた発言だね。その後に番組終了宣言を語ったらしいけど、ともあれ、慶應義塾大学在学中は中核派=革命的共産主義者同盟全国委員会の活動にシンパシーを感じていた彼は「我が闘争」でなく「我が逃走」を決め込んだと。
 そもそもは、『日本国記』の出鱈目を批判していた津原泰水の文庫本の出版中止を幻冬舎が一方的に通告し、彼の書籍の売れ行きを代表取締役社長の見城が事細かにツイートしたのが「炎上事件」の発端。これに対して高橋源一郎が、「見城さん、出版社のトップとして、これはないよ。本が売れなかったら『あなたの本は売れないからうちでは扱わない』と当人にいえばいいだけ。それで文句をいう著者はいない。でも『個人情報』を晒して『この人の本は売れませんよ』と触れ回るなんて作家に最低限のリスペクトがあるとできないはずだが」とツイート。
 でもね、当事者の津原は肝が据わっていて、「そもそも私は一読者として剽窃に関し、『日本国記』を批判してきた。そうした本を出版した『モラル』への謝罪しか求めていない。批判を止めるよう『圧力』があったこと、(増刷時に告知なく修正や追記がされている)『日本国記』自体の問題についても対応してほしい。それは幻冬舎から作品を出しているほかの作家の名誉のためにもなる」とツイートした。
 「やはりここまで来たら日本の作家は『幻冬舎とは仕事をしない』ということを宣言すべきだと思います。僕はもともと幻冬舎と仕事をする気がないし、先方も頼む気がないでしょうから『勝手なことをいうな』というお立場の作家もいるでしょうけれど、それでも」と外野で観戦していた内田が唐突にアパルトヘイト宣言したのと比べると、人間の違いを感じさせる。

浅田  新しい右翼の一部は露悪によって偽善を批判する関西のお笑いTV番組が育てた。やしきたかじんや島田紳助が橋下徹を育てたのがその象徴。『探偵!ナイトスクープ』の構成作家だった百田もその流れに含まれるんじゃないか。ともあれ、いわゆる朝日・岩波的な偽善が強い力を持ってた時代は、それをひっくり返すのが爽快に見えた。ところが、いまや偽善はほぼ壊滅し、露悪が勝ち誇ってるわけ。それにもかかわらず、安倍晋三首相にせよ彼を持ち上げる見城や百田にせよ、いまだに偽善的主流派から批判され軽蔑される弱者のつもりだから、強者として横綱相撲を取ることができず、ちょっとした批判でも逆上しちゃうんだよ。弱者のつもりでヒステリーを起こす強者ってのは、いちばん手に負えない。

田中  よい意味でシニカルな物言いが持ち味のやまもといちろうが実に興味深い指摘をしていたよ。
 「売れるのが正義だというのもひとつの真理として、名作として評価され、読み継がれるものもまた正義だと思うわけです。良いものを作る努力をしている人たちや、そういう作品を売ろうとしている人たちの熱意や才能をもう少し評価してあげられる幻冬舎であってほしいなあ」と述べた後に、「あれだけ日ごろ見城徹さんと親しい、見城徹さんと一緒に仕事をしている、見城徹さんは素晴らしい人物だ、とおっしゃって来た著名人の人たちが、一連の見城徹さんのコメントを見てどう思ったのか、それでもなお擁護するのか、いや、見城徹さんの物言いはいかがなものか、と綴るのか、ちゃんと意見をしてほしいと思うぐらい強烈な事案だったと思います」と。達見でしょ。
 歩むべき道を見失っている時には臆せず助言・諫言・提言してこそ真の友人、と僕も浅田さんも考えてきたけど、醜悪な今回の一件で、「地位は人を駄目にする」「富すれば鈍する」という新しい格言を改めて思い浮かべたよ。

浅田  それで思い出すのは、日系二世アメリカ人監督ミキ・デザキ(出崎幹根)が従軍慰安婦問題を扱った映画『主戦場』。監督自身この問題をよく知らないところから出発してるだけに、日本人の復習にも役に立つ。加えて、宣伝戦の主戦場と位置付けられたアメリカでケント・ギルバートやドナルド・トランプ大統領を支持しそうなアメリカの右翼が日本の右翼の代弁者として活躍してる現状とか、日本人のよく知らなかった情報も盛り込まれてるし、最後に視野を広げて岸信介から安倍晋三への系譜を持ってくるところもタイムリー。とくに、櫻井よしこの後継者と嘱望されながら、事実を学ぶにつれ右翼活動をやめたらしいケネディ日砂恵が、右翼活動家時代にアメリカ人ジャーナリストに調査費と称して6000ドル渡したと話し、そういうことをしたか聞かれた櫻井よしこが「複雑なことだから」と答えを拒み微妙な表情を見せるところは、この映画の山場と言っていい。なのにケネディ日砂恵の名が映画の公式ウェブサイトにもパンフレットにもないのが気になるけど……。

田中  櫻井よしこ、杉田水脈、ケント・ギルバートとお馴染みのメンバーに『新しい歴史教科書をつくる会』副会長の藤岡信勝、『日本会議』代表委員の加瀬英明、トニー・マラーノこと「テキサス親父」日本事務局長の藤木俊一、山本優美子『なでしこアクション』代表の7名が上映中止を求めて「抗議声明」を発表した。「映画をつくるためのインタビューとは知らなかった。大学院生が映像として撮るためだと聞いたから受けた」と櫻井らが釈明すると、監督自身が会見。出演者と交わした「日本国内外において永久的に本映画を配給・上映または展示・公共に送信し、または本映画の複製物を販売・貸与すること」「本映画公開前に乙に確認を求め」と記された承諾書と合意書を示したうえで、上映予定の数か月前に出演部分の映像を送ったが苦情や要求はなく、試写会にも招待したが異議申し立てはなかったと説明したものだから、7人はギャフンとなっちゃった(笑)。契約という理屈を理解した点で、一時はしおらしかったのに再び逆戻りで居直り続ける見城よりも大人だと妙に感動しちゃったよ。

浅田  映画『空母いぶき』に百田閣下らが難癖をつけた件もある。率直に言って褒められた作品じゃなくて、戦争映画なのに、敵(中国じゃなく、すべての大国にアジア主義をもって対抗しようとするフィリピンの近くの新興国って設定)の兵士はほとんど出てこないし、戦闘シーンもディスプレー上のグラフィックスが主。とはいえ、「力と自制心を併せ持った自衛隊」を礼讃する内容ではあるし、タカ派の外相から突き上げられつつ、いい意味でどこまでも優柔不断、「自衛のための戦闘行為であって戦争はしない」と言い張る首相も、肯定的に描かれてる。ところが、首相役の佐藤浩市が、ストレスで下痢に苦しむ設定にしたのがカチンときたのか、そもそも被差別部落出身者としてカム・アウトし反体制を貫いた父・三國連太郎の精神を受け継いでるのが気にくわないのか、百田閣下が「三流役者が、えらそうに!!」と切り捨て、続いて見城閣下も「最初から首相をめる政治的な目的で首相役を演じている映画など観たくもない」と断じた。「違う考えに臆病でストレスに弱い三流愛国者たち」って言った村本大輔の言葉に尽きる。

田中  佐藤のインタヴューは、僕も『ビッグコミック』を購入して読んだけど、「少し優柔不断な、どこかクジ運の悪さみたいなものを感じながらも最終的にはこの国の形を考える総理、自分にとっても国にとっても民にとっても、何が正解なのかを彼の中で導き出せるような総理にしたいと思ったんです」とわずか1ページのカラーグラビアの中で真摯に語っている。佐藤は「決断」という重責を担う人間の苦悩を伝えようとしたわけだ。ところが『産経新聞』編集委員の阿比留瑠比は、日本国の首相を侮辱しているとFacebookで激昂し、その尻馬に乗った百田、見城、高須克弥といった面々が佐藤バッシングのツイートを行った。そもそも阿比留は、事実無根な内容の署名記事が名誉毀損に当たると東京地裁で損害賠償を命じられ、Facebookの書き込みに至っては削除と賠償が最高裁で確定した「ジャーナリスト」だからね。一次情報である『ビッグコミック』誌面での佐藤発言を確認もせず、連ツイ4本の最後に「悪意のある演技を観たくもないよ」と書き込んだ見城は、「悪意のある連ツイを観たくもないよ」と特大ブーメランを受ける展開に。牽強附会な「贔屓の引き倒し」が相次ぐ「意識高い系」なフリーク連中に首相の安倍も辟易していると思うよ(苦笑)。
 それで思い出したけど、大相撲を観戦後にドナルド・トランプが金美齢や櫻井よしこと握手したとジャーナリストの門田隆将が興奮気味にツイートしていたけど、あの映像が全世界で報じられたのは外交的に大問題だよ。台湾総統府国策顧問を務めていたと自称する金は、民進党(民主進歩党)の陳水扁の後に2008年5月、総統に就任した国民党の馬英九が、GDP世界第2位の中国とも経済だけでなく政治もマチュアド(matured)な大人の関係を結ばねばと方針転換すると、脊髄反射で日本に帰化。だけど前号でも語ったようにパラオやハイチなど17か国に「国交」がまる台湾は来年1月の総統選挙に立候補を正式表明した、習近平ともトランプとも親しい鴻海精密工業創設者の郭台銘が勝利する可能性が高い。つまり、原理主義者の金は米中にとっても台湾にとってもペルソナ・ノン・グラータ(忌まわしい人物)なんだよ。「一般のお客さんと握手を交わしています」と実況したNHKも逝ってよし。「夏までには北方領土は返還になります」と言っていた鈴木宗男も横に映っていて、最高だよ(苦笑)。

浅田  上皇の平和主義を嫌いながら天皇の代替わりを徹底的に政治利用した後、今度はトランプを国賓として迎え徹底的に政治利用する安倍には呆れたね。「美しい日本を取り戻す」って言うのなら、天皇にせよ、「国技」である相撲にせよ、あんなにぞんざいに扱っちゃダメでしょう。天皇でさえ相撲は2階席から観戦するのに。

田中  まったくだ。祖父の代から千秋楽に正面の升席を確保している僕の知り合いの女性も有無を言わさず強制接収されて、お茶屋の関係者が平身低頭で向こう正面を押さえてくれたとディープな情報を伝えてくれた(苦笑)。しかも升席にソファを置いて、後ろの客は土俵が見えない羽目に。トランプと会見した徳仁天皇が、「昨日、大統領がご覧になったほど近くでは見ません」と当意即妙に述べたのは受けたね。

浅田  むしろ、外国人力士頼みの相撲は外国人労働者頼みの現在の日本にふさわしい「国技」だって言えばおもしろいけど……。

田中  オ~ッ、鋭い!「笑点」から大量の座布団を山田隆夫に運ばせないと。

死にたいなら一人で?
川崎殺傷事件の波紋。

田中  そのトランプが来日中、川崎市でスクールバスを待っていたカリタス学園の児童たちと、娘に付き添っていた外務省の職員が51歳の男に殺傷される惨事が起こった。7時45分に119番通報があり、8時10分に事件発生のテロップがNHKで流れた。安倍夫妻が待ち受ける横須賀基地に停泊している海上自衛隊護衛艦「かが」にトランプ夫妻がヘリコプターから降り立ったのが10時34分。そこで行った演説のなかでトランプは、「今朝、東京近郊で起こった殺傷事件の犠牲者のご冥福を祈ります。アメリカ国民は日本の皆様とともにあり、被害者とその家族と悲しみを共有します」と述べた。日本側の人間は皆、キョトンとした顔で聞いていた。あれだけ殺人事件が頻繁に起こり、すぐに戦争もやる国だけど、スピーチライターがすかさず大統領の演説に、心をつかむ言葉を加える機転。ここでも日本は負けてるね。霞が関の経産省や警察庁から永田町の官邸に出向している役人は、事件の一報を首相に伝える“勘性”を持ち合わせていなかったと。11時36分に官邸屋上にヘリコプターで帰還した首相が、記者連中にコメントしたのは13時54分。

浅田  トランプの暴走で形なしではあるけど、ホワイトハウス広報部はすごいからね。

田中  他方で今や裸の王様状態な松本人志が、「人間は何万個に1個不良品がある。その人たち同士でやり合ってほしい」と杉田水脈に通ずる「優生思想」丸出しな発言をフジテレビで、同じく「毒舌」の意味を勘違いしている立川志らくが「一人の頭のおかしい人が出てきて、死にたいなら一人で死んでくれよって、そういう人は」とTBSで語った。批判が殺到すると志らくはツイッターで「私が教育者だったり心理学者だったり政治家だったらこんな発言は駄目だと思う。でも落語家だ。人情の機微を表現する事が仕事」と居直る始末。心の機微がわかってないからそういう発言をするんだろ。立川談志や立川談四楼とは月とスッポンな悪魔の放言だよ。

浅田  ぼくはできるだけ言論の自由を守るべきだと思うし、とくにお笑い芸人には毒舌も許されると思うけど、それだけに芸のない毒舌や芸のない反論は困る。文字どおり洒落にならない。
 トランプ来日の話に戻れば、「7月の選挙(複数形)の後まで待てば日米貿易交渉で大きな数字が期待できる」って趣旨のトランプのツイートを見ても、日米首脳で密約を交した疑いが強い──というか、それを国民に隠そうとすらしてない(苦笑)。
 さらに、このまま高齢化が進むといまの年金制度では不十分で、95歳まで生きるとしたら夫婦で2000万円以上の貯蓄が必要だって趣旨の金融庁金融審議会の報告が明るみに出て、「年金百年安心プラン」(笑)っていう自公政権の嘘がバレると、麻生太郎財務相が報告書の受け取りを拒否、これまた選挙後まで隠そうって魂胆だろうけど、さすがにそうはいかないだろうね。そもそも少子高齢化で年金制度がパンクすることはずっと前からわかってたんだから。
 他方、トランプ来日の後、トランプのメッセージを携えてイランを訪問した安倍は、最高指導者アリ・ハメネイ師と会談したものの、「トランプは交渉相手とするに値しない」とはねつけられて終わり。しかも、ちょうどそのときホルムズ海峡で日本の海運会社が運航するタンカー2隻が攻撃を受けた。振り返ってみれば、百田閣下の礼讃する「海賊と呼ばれた男」出光佐三は、油田を国有化したためイギリスから経済封鎖を受けてたイランに危険を承知でタンカーを派遣し石油を買った。右翼だけど民族主義の筋は通したわけだ。対して、アメリカとイランを仲介するって言いつつ、核合意から勝手に離脱したトランプを批判せず、そのトランプのメッセージをイラクに伝える「ガキの使い」でしかない安倍っていったい……。

田中  外交も経済も福祉も袋小路。なのに抜本的なプランを出せない枝野幸男のカラオケ党。そして、税率という「金目」の一点に終始している山本太郎のチャンバラ隊(爆笑)。次回も話題満載になりそうな「憂国呆談」だ。

協力:ブックカフェ二十世紀 https://jimbo20seiki.wixsite.com/jimbocho20c

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

本記事は雑誌ソトコト2019年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。