ファッションの世界を志す中で遭遇した日常のとある体験がバングラデシュ現地を訪れる動機となり、工場を調査し、現地の画一化された労働環境と日本のファッション産業の大量生産・消費システムとが繋がることに気づいたという谷さん。現在は俳優やモデルを本業としながら「サステナブル・ファッション」など流行のキーワードに対しては慎重派。身に着けるものを選ぶ基準「ファッション・プリンシプル」という考え方を提案しています。27歳等身大のファッション観と、谷さんの「サス活」を探っていきます。(聞き手・取材:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜)
サステナブルより重視する「プリンシプル」とは? 服の選び方を伝える
谷さん:初めて小田部さんにお会いした時、目の奥がキラキラしてて小田部さんの「熱量」に気づいたんです。今後も何かありそうだなと思ったので、こうして取材をしていただける機会につながり、とても嬉しいです。
EM 小田部:それは、ちょっと褒めすぎじゃないかな(笑)。最近アパレル業界でサステナビリティの論調が強くなってきたように思い、改めて谷くんの近況や考えをききたいということになったんですよ。
谷さん:僕の考え方を知っていただくために、アイテムを見せながらお話しさせて頂きたいと思います。(私物写真を画面に投影しながら)
僕が根本的に変えたいと思うのは、今のファッション文脈の中に「ストーリー」が欠如して「サステナブル」に足りていないことです。そこで代わりに「プリンシプル」(※)という言葉でそも「自分が今、着ている服を愛せているか」を問い直す作業をしています。服って確かに消耗品だし、流行のせいで、次から次へ切り替えていくものと捉える人もいるかもしれません。ですが、例えば僕の場合、こうして「パッチ」を付けることで、その時の記憶を服の中に埋め込んでみるんです。すると単なるコートが自分にとって手放せないものになって「愛着」に変わっていきます。
※一般的な定義では「原理、原則」「根本」「信条」。自分が絶対に譲れない物事をさすことが多い
EM 腰塚:谷さんがものを選ぶ時に「愛着」や「ストーリー」を大切にするようになった、きっかけは何だったのですか?
谷さん:僕は10代から古着が好きでした。古着って「一期一会」なんですよね。もう二度と同じ服に出会えないかもしれない。だから、買い物をしているときも「これだ!」と運命的な感覚を大切にしていました。映画や音楽に出てくるパンクやロックなファッション、アートやラブストーリーの中にあるクラシカルなスタイルなどを格好いいなと思ったり。服で好きな場所にタイムスリップする感覚を掴んで、ただショップ店員さんと話して帰るだけということも多かったです。コミュニケーションの延長や好きな人がいる場所の中に僕の好きな服があったという感じで、これが「愛着」のきっかけになったと思います。 今は「ポチッ」とネットで済ませたい人も増えていますけれどね。
谷さん:これは、米軍のめちゃくちゃ重いモッズコートですが・・・穴が開くたびに、縫ってより長く着 られる方法を模索しています。そんなに安い値段ではなかったけど、もう何年も着ているし、そう考えて みると、安い服を沢山買い換えるよりは、お得と言えるのかもしれない。大切だと思うことの一つはこう して愛着を持って、長く向き合うという作業をすることです。
EM 腰塚:インスタグラムの投稿からも伝わってくるのですが、アクセサリーがお好きなようですね。
谷さん:好きですね。今日着けているスカルのリングは、裏がハートのデザインで、これにもストーリーがあって・・・僕が14歳の時に、このリングと知り合うんですが、14歳の時ってドラマなどメディアの 影響で愛とか恋ってどこか漠然と、儚くて、残酷といった印象もありました。そんな時、この指輪を作ったデザイナーさんのこんな空想話と出会ったんです・・・主人公は若い娘で、十字架を着けている。ヴァンパイアは彼女に恋するが、十字架のせいで近づくことができない。そこで娘にジュエリーを贈り、十字架をはずさせ、彼女が弱くなったところにヴァンパイアが噛みつく。娘はヴァンパイアになり、2人は愛し合うことができた・・・という物語なんですけれど、このアクセサリーが、14歳の自分を振り返るアクセサリーになっているんです。ですので、リングの裏にあるハートのデザインは、僕にとっては「愛」について考えさせるもので、ただのスカルのリングではないんです。
買い替えの思想ではなく、手入れの思想
谷さん:もう一つお見せしたかったのは、この写真です。左のオイルで手入れした靴、右の手入れしてい ない靴で、見た目が全然違いますよね。靴は、一生懸命メンテナンスすれば10年以上「お友達」になれるものです。普段から手入れするという癖をつければ、革靴やスニーカーも、磨くと綺 麗になって長く愛用出来ます。こんな自分の愛着の精神は「サステナブル」や「エシカル」という言葉で括れないと思い、靴クリーム大手のコロンブスの「シューシャイニスト」という社内資格を取った経験もあります。
EM 腰塚:そんな資格までお持ちとは・・・持ち物を「すぐ捨てよう」とならない秘訣は、普段から手入れして、きれいに使う精神に宿るのかもしれませんね。
谷さん:ミラノでも、印象的な靴のエピソードがあったんです。僕が路上で靴磨きをしていた時に、アフリカの移民の方と出会って。すごく靴が手入れしてあったのでなぜ?と聞いたんです。すると、彼は「靴はなかなか買えないものだから、ケアしながらずっと履いていくんだ」と。僕らは忘れがちですが、彼はものを大切にするという根本的な部分を外していなかったんです。ハッとさせられたし、直接関係があるわけではないのに、嬉しくなる自分がいました。
EM 腰塚:現地の人の言葉や風景からしか伝わらないことってありますよね。でも途上国に行った決め手は何だったんですか?
谷さん:実は教員免許も取って学校の先生になろうと考えていたこともあったのですが、自分の人生の決め手を何にしようか、22歳の僕はまだ決めかねていました。そこでもう少し自分を「放牧」させてみたいと思ったんです。その時、興味があった本・・・社会学や哲学や『ドリトル先生』から『女工哀史』までとりあえず全部読み、周囲の人と議論を交わしたのですが「やっぱり現地に行かないと分からないことが沢山あるな」と思いました。
そんなタイミングで、今はもう無くなってしまった銀座のファストファッションの店内で、僕にとっては印象的な「事件」がありました。そこで女子高生たちが服を手に「これ、いくらだから買おうか、やめようか」と話していた現場に遭遇し、いつも自分が考えていたこととその体験がリンクして「ビビッ」と来たんです。彼女たちはデザインを見ず、価格優位になっていたみたいなのです。あと1000円高かったら、どんなに気に入っても買わないのかな?とか、その場で色々考えてしまって。彼女たちがいなくなってから、その服のタグを見たら「Made in Bangladesh」とあって、衝動的に航空券を取ってしまいました。
EM腰塚:「フェアトレードを勉強したかった」とか勉学方面から入ったのかなと想像していたので、バングラデシュへの動機は意外でした。もし当時に立ち戻れたら、彼女たちに、何か買い方の指針など提案できたと思いますか?
谷さん:いろいろ提案できたと思いますよ。例えば色とか、憧れのミュージシャンとの共通項とか、価格以外の指標で。でも周囲には、なかなか「●●でも買いたい」という表現でこだわりを持つ人がいなくて・・・腰塚さんなら、それが絶対に欲しかったら(予算の面など)少し無理してでも、頑張りますよね?