中川政七さんと編集長・指出が語る「仲間、ビジョン、楽しくて仕方ない未来づくり」
2019.04.05 UP

中川政七さんと編集長・指出が語る「仲間、ビジョン、楽しくて仕方ない未来づくり」

SASHIDE’S EYE

中川政七商店会長で奈良クラブ社長の中川政七さん、月刊『ソトコト』編集長・指出一正、坂本大祐さんが、ローカルについて語るトークセッション。
前編で紹介した「日本のまちで『元気と幸せな関係』を生み出す方法」に続き、後編では、『オフィスキャンプ東吉野』の誕生秘話や、行政にも会社にも大切なビジョンの話などが繰り広げられました。
そして、中川さんが奈良で始めようとしている大きな新構想の話も。そこには、まちが持つ可能性を感じてワクワクするような数々の言葉が並びました。

行政にも会社にもビジョンが絶対に必要

SASHIDE'S EYE 日本を元気にする方法
トークイベントは奈良県庁の主催で2月8日に開催され、自治体の職員や地域おこし協力隊などの約300人が足を運んだ。

中川政七さん(以下、中川):坂本さんは、東吉野村への移住から『オフィスキャンプ東吉野』ができるまでは、けっこう時間がかかっている……?

坂本大祐さん(以下、坂本):はい。2015年に開業したんですが、正直に言うと、それまでは奈良で仕事は一切やってなかったんです。元々大阪にいたので、大阪を中心にしたクライアントとフリーランスで仕事をしていて。それはそれで暮らしていくには全然過不足なかったんです。そんなスタイルを7年、8年続けていたんですね。

中川:そこから『オフィスキャンプ東吉野』の開設まで、どうやってそこに行き着いたのか知りたいです。

坂本:奈良県地域振興部次長の福野博昭さんと、ある雑誌の取材でたまたま出会ったんですよ。そのとき自分の状況を伝えたら「そらあかん! お前もっと奈良のことやったほうがええで」と言われたんです。福野さんとの出会いで、自分の働き方が大きく変わりました。

『オフィスキャンプ東吉野』はすべて村の事業でやっています。福野さんがきっかけになり、シェアとコワーキングスペースという村では聞いたことがないような新事業に村長が「よっしゃわかった」と乗ってくださって、それが形になってから我々民間が運営しているという、とても変わったスタイルでやっています。

中川:僕は、佐賀で3年連続、3件ずつコンサルをやるという荒行をしたことがあって(笑)。佐賀のある自治体職員の熱意にほだされてやっていたんですよ。そういう人がいると変わってきますよね。

指出一正(以下、指出):すごく変わりますよね。時々、編集部に市長さんや村長さんが一人でふらりと来てくれるんですよ。そういう方がいる行政はおもしろいですよね。

中川:一人でふらっとくる首長は、だいたいすごい人(笑)。

指出:奈良の下北山村は人口が約800人、東吉野村は約1700人。これって企業ですよね、ある意味。東京だったらざらにある企業なので、つまり『株式会社まち』の社長が何に興味を持っているかが大事ですよね。

中川:行政も会社も同じですよね。いろんなものを知っていることは大事ですけど、最後決めるときには正解なんかないじゃないですか。「どうありたいか」「これだ!」とトップが決めて進んでいかないと好転していかない。それがビジョンと呼ばれるものだと思う。行政にも会社にもビジョンが絶対に必要だと思いますね。

今、自分が本当に好きな仲間とつくる楽しさがある

SASHIDE'S EYE 好きな仲間とつくる楽しさ
中川さんや指出と親交のある坂本さんのファシリテートにより、終始なごやかなムードに。

坂本:そのビジョンもつくっていくために、どういうところに気をつけているんですか。

中川:言い方は悪いけれど「好き嫌い」とも言えるし、丁寧に言えば「何が楽しいか」じゃないかなと思うんです。僕は転職するときにたまたま家業を選んで『中川政七商店』に入っただけで、ある程度やりきって一区切りしたからこそ今は『奈良クラブ』に参画して。「それが常に楽しいから」という理由はありますよね。

指出:それが大前提ですよね。

坂本:指出さんも雑誌の編集のなかで、編集長である指出さんが決定されている部分が大きいと思うんですけど。

指出:『ソトコト』はおかげさまで20年続いていて、僕は2代目の編集長なんですね。2011年3月に編集長になったんです。

震災前の『ソトコト』は「ロハス」という言葉を提案して5、6年やっていて、その真ん中に僕もいたんです。でもその頃よく思っていたのは、多くの人がこの言葉を「ビジネスのチャンスだ」「これは今人気がある」とちやほやしてくれたんですが、雑誌をつくっている僕にはその言葉から象徴される仲間がいなかったんですよね。自分が本当に好きな仲間とつくっている感覚はほとんどなかった。

その後2008年のリーマンショックを経て、地域の若者を表彰する審査員をあるNPOから依頼されて行ったら、ボロボロのフリースを着て、すごくかっこいいことを中山間地域でやっている若者がけっこういるんだと分かったんです。「これからは、この人たちと一緒に社会をおもしろくしていけばいいんじゃないか!」と思って、それまでの「ロハスピープルのための快適生活マガジン」という『ソトコト』のサブタイトルを「ソーシャル&エコ・マガジン」とし、2012年にモデルチェンジしたんですよ。それが今の『ソトコト』で、僕も楽しいですよね。それが自分の中心にあることが支えになっています。

中川:価値観が近い人たちが一緒にいるっていうことだと思うんですよね。会社も会社の価値観があるし、それを象徴するのがビジョンだし、そこにコミットする人が集まるから楽しくやれるわけで。

同様に行政にも価値観があるべきだと思うんです。「自分達は何が好きなのか」「何を大切にしているか」という価値観の表明をしないといけないと思うんです。「暮らしやすいまち」とかじゃないんですよ。

指出:暮らしにくくてもいいんだと思うんですよ、それがおもしろければ。
 

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo

2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール

キーワード

中川政七

なかがわ・まさしち
株式会社中川政七商店 代表取締役会長、株式会社奈良クラブ代表取締役社長。1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に13代社長に就任、2018年より会長を務める。「遊 中川」「中川政七商店」「日本市」など、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に約50店舗を展開している。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。また、自社ブランドで培ったブランドマネジメント力と生活雑貨業界に特化した販路を最大限に活かした業界特化型のコンサルティングで「産地の一番星」を数多く生み出し、日本の工芸を元気にするべく奮闘している。

坂本大祐

さかもと・だいすけ
合同会社オフィスキャンプ 代表。1975年大阪府生まれ。和歌山県でデザイナーとして活動をスタート。体を壊したのを機に、2006年、山村留学で中学生の頃に暮らした奈良県・東吉野村へと拠点を移す。移住後は県外の仕事を受けながら、今までの働き方や生活を見直し、自分にとって居心地のいい新たなライフスタイルを模索。ある出会いをきっかけに、奈良県内の仕事が増え、商品やプロジェクトなどの企画立案からディレクションまで手がける商業デザイナーとしてさまざまな案件に携わる。現在は、自らも企画からデザインまで関わった、2015年3月にオープンした「オフィスキャンプ東吉野」を運営している。

指出一正

さしで・かずまさ
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。島根県「しまコトアカデミー」、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」、奈良県「奥大和アカデミー」、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」、高知県津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」など、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」、「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

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