さまざまな人が「これで生きていく」と志を持つまち
中川:僕はサッカーって非常にパブリックなものだと思っていて、奈良というまちを変えていくことをビジョンに掲げています。
指出:ニュースで中川さんがサッカークラブ『奈良クラブ』の代表取締役社長を務めると聞いたとき、これは本当に痛快でおもしろいことが起きるなと思ったんですよね。
中川:僕は『中川政七商店』に一区切りつけて、残りの仕事人生をどうしていこうかと考えたとき、「奈良に良い会社をいっぱいつくろう」と思ったんです。まちが魅力的になるには、魅力的なコンテンツがないといけない。奈良の場合、歴史遺産と鹿という圧倒的に強いものがすでにあるんだけど、「じゃあ今生きている僕らがつくり出せるものとは?」と考えると、まだ余地はあるなと。
『中川政七商店』が50個あってもおもしろくないんですよね。50人それぞれ違う人たちが「これで生きていくんだ」と志を持って初めて奈良が良いまち、おもしろいまちになっていく。
だからそのお手伝いを真剣にやらなきゃと思って、僕みたいに地方の一工芸の会社をちょっとましにしただけの立場の人間が教育を語るなんておこがましいとなったときに、一番それがわかりやすく伝わる形を考えたら『奈良クラブ』だったんですね。サッカーチームはパブリックで分かりやすいんです。それに選手も体は鍛えているけど、頭の判断の部分では余地がすごくあるので、それで『奈良クラブ』だと思ったんですよね。
坂本:めちゃくちゃおもしろいなと思って。
中川:めっちゃ楽しいですよ(笑)。今「N.PARK(エヌパーク)」という構想を掲げています。これはあくまで概念的な場所で、学びの型や教育をコンセプトにしながら、志ある人がどんどん出てきてその人たちが奈良県内で事業を起こしていくことを象徴するような場所をそう呼んでいます。
一ヶ所でなくていいと思うんです。これから「N.PARK奈良町」「N.PARK高取」「N.PARK奥大和」などと広がっていけばいいなと。まず集中的に奈良県内にそういう流れをつくりたいです。
例えば、サン・セバスティアンやポートランドなど、30年前には誰も知らなかったような小さなまちに今世界中の人が注目しています。サン・セバスティアンであれば「食」、ポートランドだと「オーガニック」といった特徴がありますよね。奈良も、そういう風にしたいなと思うんですよ。
では奈良は何なんだとなったとき、僕は「学び」だと思ったんです。古くは聖徳太子、聖徳太子なんて元祖マルチタスクじゃないですか。
指出:まさにそうです(笑)。
奈良を「学びの都」として世界に発信したい
中川:奈良は、東大寺が元々は全国のお坊さんが修行する場で、今も私学校がいっぱいあって教育レベルも非常に高い。奈良の「学び」に対する親和性は非常に高いと思うんです。10年後、20年後、「学びの都、奈良」が世界にとどろくまちになったらいいなと、それを真剣に目指していきたいと思っています。
指出:新しい教育都市として発信されるといいですよね。
中川:そうなんです。だから「学ぶ」ということを勉強しています。そうしたらおもしろくて! アメリカに「学習学」という、いかにしてより上手に学べるか研究している学問があり、その本が和訳されて最近ビジネス書として出ているんですけど、めちゃくちゃおもしろい。「学び」をより効率的に、深くするためのコツがいっぱいあって、それを学びながら、うちの選手にも実践していたりします。
坂本:壮大な構想で、聞いていてワクワクします。指出さん、ポートランドが現在のようになった流れって……?
指出:都市計画に関して、基本が車社会だったところを、人と自転車が出会うまちの設計に変えていったところが一番大きいんじゃないですか。どこかのコーナーで必ず人が出会うようカフェをコーナーに設置したり、オーガニックを推進したり。常に変であるっていうことが、社是じゃないですけど……
坂本:まちの社是的なことですか?
指出:そうなんです。ポートランドの人は常に変であるということが合い言葉のようになっていますよね。だからおもしろいことが生まれる。日本では神奈川の真鶴がいい例で、「美の条例」という独自のまちの条例を1993年につくって、「庭に木を植えるのであれば実がなる木を植えましょう」「人が集まる場所にはベンチを置きましょう」などと、まちの風景を大事にしていったんです。
その結果、今若い世代が真鶴を再発見して、小さな出版社が生まれたり、お店や訪れる人が増えたり、そういうことが起きているんですよね。中川さんがおっしゃったように県や行政区で一つのビジョンを持って、きれいごとすぎない、「これがしたい」という独自性を持って、グローバルななかでも認知されるローカルなまちづくりをやっていくのに、日本はいいタイミングなのではないでしょうか。
坂本:これからの奈良での展開が楽しみです。今日はお二方、ありがとうございました。
photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo
2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール