中川政七さんと編集長・指出が語る「仲間、ビジョン、楽しくて仕方ない未来づくり」
2019.04.05 UP

中川政七さんと編集長・指出が語る「仲間、ビジョン、楽しくて仕方ない未来づくり」

SASHIDE’S EYE

さまざまな人が「これで生きていく」と志を持つまち

中川:僕はサッカーって非常にパブリックなものだと思っていて、奈良というまちを変えていくことをビジョンに掲げています。

指出:ニュースで中川さんがサッカークラブ『奈良クラブ』の代表取締役社長を務めると聞いたとき、これは本当に痛快でおもしろいことが起きるなと思ったんですよね。

中川:僕は『中川政七商店』に一区切りつけて、残りの仕事人生をどうしていこうかと考えたとき、「奈良に良い会社をいっぱいつくろう」と思ったんです。まちが魅力的になるには、魅力的なコンテンツがないといけない。奈良の場合、歴史遺産と鹿という圧倒的に強いものがすでにあるんだけど、「じゃあ今生きている僕らがつくり出せるものとは?」と考えると、まだ余地はあるなと。

『中川政七商店』が50個あってもおもしろくないんですよね。50人それぞれ違う人たちが「これで生きていくんだ」と志を持って初めて奈良が良いまち、おもしろいまちになっていく。

だからそのお手伝いを真剣にやらなきゃと思って、僕みたいに地方の一工芸の会社をちょっとましにしただけの立場の人間が教育を語るなんておこがましいとなったときに、一番それがわかりやすく伝わる形を考えたら『奈良クラブ』だったんですね。サッカーチームはパブリックで分かりやすいんです。それに選手も体は鍛えているけど、頭の判断の部分では余地がすごくあるので、それで『奈良クラブ』だと思ったんですよね。

坂本:めちゃくちゃおもしろいなと思って。

中川:めっちゃ楽しいですよ(笑)。今「N.PARK(エヌパーク)」という構想を掲げています。これはあくまで概念的な場所で、学びの型や教育をコンセプトにしながら、志ある人がどんどん出てきてその人たちが奈良県内で事業を起こしていくことを象徴するような場所をそう呼んでいます。

一ヶ所でなくていいと思うんです。これから「N.PARK奈良町」「N.PARK高取」「N.PARK奥大和」などと広がっていけばいいなと。まず集中的に奈良県内にそういう流れをつくりたいです。

例えば、サン・セバスティアンやポートランドなど、30年前には誰も知らなかったような小さなまちに今世界中の人が注目しています。サン・セバスティアンであれば「食」、ポートランドだと「オーガニック」といった特徴がありますよね。奈良も、そういう風にしたいなと思うんですよ。

では奈良は何なんだとなったとき、僕は「学び」だと思ったんです。古くは聖徳太子、聖徳太子なんて元祖マルチタスクじゃないですか。

指出:まさにそうです(笑)。

奈良を「学びの都」として世界に発信したい

SASHIDE'S EYE 中川政七 奈良を学びの都へ
自らの経験や意見を明るく話す中川さん。指出の意見を聞いている最中にメモを取るなど、“学びの姿勢”が印象的だった。

中川:奈良は、東大寺が元々は全国のお坊さんが修行する場で、今も私学校がいっぱいあって教育レベルも非常に高い。奈良の「学び」に対する親和性は非常に高いと思うんです。10年後、20年後、「学びの都、奈良」が世界にとどろくまちになったらいいなと、それを真剣に目指していきたいと思っています。

指出:新しい教育都市として発信されるといいですよね。

中川:そうなんです。だから「学ぶ」ということを勉強しています。そうしたらおもしろくて! アメリカに「学習学」という、いかにしてより上手に学べるか研究している学問があり、その本が和訳されて最近ビジネス書として出ているんですけど、めちゃくちゃおもしろい。「学び」をより効率的に、深くするためのコツがいっぱいあって、それを学びながら、うちの選手にも実践していたりします。

坂本:壮大な構想で、聞いていてワクワクします。指出さん、ポートランドが現在のようになった流れって……?

指出:都市計画に関して、基本が車社会だったところを、人と自転車が出会うまちの設計に変えていったところが一番大きいんじゃないですか。どこかのコーナーで必ず人が出会うようカフェをコーナーに設置したり、オーガニックを推進したり。常に変であるっていうことが、社是じゃないですけど……

坂本:まちの社是的なことですか?

指出:そうなんです。ポートランドの人は常に変であるということが合い言葉のようになっていますよね。だからおもしろいことが生まれる。日本では神奈川の真鶴がいい例で、「美の条例」という独自のまちの条例を1993年につくって、「庭に木を植えるのであれば実がなる木を植えましょう」「人が集まる場所にはベンチを置きましょう」などと、まちの風景を大事にしていったんです。

その結果、今若い世代が真鶴を再発見して、小さな出版社が生まれたり、お店や訪れる人が増えたり、そういうことが起きているんですよね。中川さんがおっしゃったように県や行政区で一つのビジョンを持って、きれいごとすぎない、「これがしたい」という独自性を持って、グローバルななかでも認知されるローカルなまちづくりをやっていくのに、日本はいいタイミングなのではないでしょうか。

坂本:これからの奈良での展開が楽しみです。今日はお二方、ありがとうございました。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo

2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール

キーワード

中川政七

なかがわ・まさしち
株式会社中川政七商店 代表取締役会長、株式会社奈良クラブ代表取締役社長。1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に13代社長に就任、2018年より会長を務める。「遊 中川」「中川政七商店」「日本市」など、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に約50店舗を展開している。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。また、自社ブランドで培ったブランドマネジメント力と生活雑貨業界に特化した販路を最大限に活かした業界特化型のコンサルティングで「産地の一番星」を数多く生み出し、日本の工芸を元気にするべく奮闘している。

坂本大祐

さかもと・だいすけ
合同会社オフィスキャンプ 代表。1975年大阪府生まれ。和歌山県でデザイナーとして活動をスタート。体を壊したのを機に、2006年、山村留学で中学生の頃に暮らした奈良県・東吉野村へと拠点を移す。移住後は県外の仕事を受けながら、今までの働き方や生活を見直し、自分にとって居心地のいい新たなライフスタイルを模索。ある出会いをきっかけに、奈良県内の仕事が増え、商品やプロジェクトなどの企画立案からディレクションまで手がける商業デザイナーとしてさまざまな案件に携わる。現在は、自らも企画からデザインまで関わった、2015年3月にオープンした「オフィスキャンプ東吉野」を運営している。

指出一正

さしで・かずまさ
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。島根県「しまコトアカデミー」、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」、奈良県「奥大和アカデミー」、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」、高知県津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」など、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」、「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

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