サスティナブル・ブックガイド 住まい×島原万丈さん
2020.11.12 UP

サスティナブル・ブックガイド 住まい×島原万丈さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

住まい×島原万丈さん

どんなふうに五感が刺激されるか、他者とのどんな関係性を持って生きるかといった「官能」という観点から都市を評価する「官能都市」を提唱する島原万丈さん。本当の豊かさや幸せを獲得するには住まいはどうあるべきかを考えるための5冊を提示します。

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左/星の王子さま(サン=テグジュペリ著、河野万里子訳、新潮社刊)。右/イタリアの街角から─スローシティを歩く(陣内秀信著、弦書房刊)

 7年前に初めて行って以来、よく南イタリアに旅行しています。行くたびに感じるのは、南イタリアのまちはローマやミラノ、ベネチアを目指してはいないということ。なぜなら、イタリアは都市国家の文化が今も息づき、住民が自分の住むまちに対する愛着やプライドを強く持っているから。南イタリアもそう。北イタリアのような工業化の流れからは取り残されていますが、逆にそんなスローシティが多いからこそ、南イタリアは訪れる価値があるのです。

 例えば、マテーラというまち。サッシと呼ばれる斜面をりいた数千軒もの洞窟住居群が何層にも重なるように造られ、丘を埋め尽くしています。その風景には目を奪われますが、以前は貧しい人々が悪化した衛生環境の下で暮らしていた時代もあり、「イタリアの恥」とまれ、法律によって住民が強制移住させられたこともありました。サッシは廃墟となり、空き家ならぬ「空き街」となって政府が保有していましたが、やがて世界の価値観が変わり、サッシの文化的、芸術的な価値が見直され、世界文化遺産に登録。多くの観光客が訪れるまちになりました。洞窟住居の雰囲気を残したままリノベーションされたホテルやレストランが人気を呼んでいるように、一度は廃れてしまっても、その価値が見直されたまちや住まいが南イタリアにはたくさんあるのです。

 ナポリの裏通りではこんな光景に出合いました。エレベーターのない古いアパートの上階に住むおばあさんが、紐で結んだカゴを窓から下ろしてくるのです。カゴには買ってきてほしいものを書いた紙とお金が入っています。近所の住人がそれを見つけ、「わかったよ!」と買い物を代行してくれます。買って来た野菜やワインをカゴに載せると、おばあさんは紐を引き上げ、「グラッツェ!」と笑顔でお礼を言うのです。日本でも「買い物難民」と呼ばれる高齢者がいます。足腰の弱った高齢者に階段は苦痛だからエレベーターの設置工事が必要だという発想になりがちですが、ナポリの人たちのように住人同士が助け合えば、「買い物難民」問題は緩和できます。

 家ではなく「まちに住んでいる」という感覚を持てる南イタリアに、日本の地方の行政職員は視察に行き、まちづくりのあり方や住まいについて学んでほしいと思います。自分のまちにある魅力を見出すヒントが得られるはずです。

島原さんおすすめの5冊

●星の王子さま(サン=テグジュペリ著、河野万里子訳、新潮社刊)
星の王子さまは世話をしていた一輪のバラを置いて地球へ来るが、地球ではバラはありふれた花だと知り、あのバラは「自分だけのバラ」だったことに気づきます。手をかけることで“宝物”になる。住まいにも言えることです。

●イタリアの街角から─スローシティを歩く(陣内秀信著、弦書房刊)
地中海地方の都市・建築史の専門家が読みやすい文章で書いた本で、イタリアのガイドブックとして読んでも楽しいし、旧市街を大事にしたまちづくりの姿勢など、多くのヒントが得られる参考書としても読むことができます。

●第四の消費─つながりを生み出す社会へ(三浦 展著、朝日新聞出版刊)
マンションの敷地に目いっぱいの数の住戸を設けて可能な限りの利益を得るビジネスよりも、緑やコミュニティスペースなど利益を生まない共用部を豊かにするほうが、今は人気物件になったりします。それが「第四の消費」です。

●犬と鬼─知られざる日本の肖像(アレックス・カー著、講談社刊)
日本における古民家再生の先駆者が、失敗した日本の近代化を一刀両断。誰もがもてはやす京都でさえも「醜悪な風景だ」と。コンクリートの護岸も高速道路も否定し、官僚的になっている産業構造に原因があると指摘します。

●モモ(ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳、岩波書店刊)
時間貯蓄銀行の灰色の男たちは人々に時間を節約させ、暮らしからゆとりを奪っていく。経済の合理性を最優先にする現代社会を風刺した物語で、中古住宅が余る、今の日本の住まいづくりを考えるうえでもヒントを得られる一冊です。

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左/第四の消費─つながりを生み出す社会へ(三浦 展著、朝日新聞出版刊)。中/犬と鬼─知られざる日本の肖像(アレックス・カー著、講談社刊)。右/モモ(ミヒャエル・エンデ著、大島かおり訳、岩波書店刊)

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島原 万丈

しまはら・まんじょう
1989年リクルート入社。2004年結婚情報誌『ゼクシィ』シリーズのマーケティング担当を経て、05年よりリクルート住宅総研。13年に退社し、ネクスト(現・LIFULL)HOME’S総研所長に就任。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。著書に『本当に住んで幸せな街』(光文社)。