サスティナブル・ブックガイド 第一次産業×魚谷昌宏さん
2020.11.14 UP

サスティナブル・ブックガイド 第一次産業×魚谷昌宏さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

第一次産業×魚谷昌宏さん

 地域農業の若い担い手とともに農業経営の改善や産地づくり、地域活性化を目指す雑誌『地上』の編集長を務める魚谷昌宏さん。地方と都市が精神的にも離れてしまった現代、食の大切さや自然を相手にする農林漁業の営みを伝える5冊です。

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左/幸せの条件(誉田哲也著、中央公論新社刊)。右/だから僕は船をおりた─東京生まれの元漁師が挑む、フードアクション!(近江正隆著、講談社刊)

 農山漁村に生きるとは、どういうことなのか。『だから僕は船をおりた─東京生まれの元漁師が挑む、フードアクション!』を読むと、そのヒントが見えてきます。北海道・十勝地方で漁師になった著者の近江正隆さんは、インターネット通販で売り上げを伸ばしていた矢先、転覆事故に遭います。そこに、通販という”スタンドプレー“をんでいたであろう漁師仲間たちが、商売道具の網を犠牲にしてまで助けに来たのです。その姿から、農山漁村の大切な価値観に気づいたという著者は、船を下りる決意をしました。

 今は、東京や大阪の高校の修学旅行生を北海道の農家が受け入れ、仕事と暮らしを体験する「農村ホームステイ」をプロデュースするなど、都市と地方の橋渡しをしています。本書の後半は、これまで農家をはじめ多くの人と出会い、夢を語り、起こしてきたアクションがられています。私は北海道を訪ね、著者と受け入れ先である青年農業者と対談を行ったことがあります。都市部の高校生と作業や食事を共にする。1泊の滞在であっても、生徒たちは泣いて別れを惜しんでくれるそうです。「農山漁村の大切な価値観」とはなにか、その一端を感じ取ってほしくて、この本を選びました。

『幸せの条件』は、東京で仕事も恋もうまくいかない女性が、燃料のバイオエタノールの原料になる米を作る田んぼを確保するため、長野県の農家に住み込みで働くことになるという小説です。農業に関してまったくの素人である主人公の目線から、米作りについてわかりやすく記されています。そして、農繁期には睡眠時間が1、2時間しか取れないほど忙しかったり、高齢の農家が土壌消毒の代わりに産業廃棄物を埋められてしまう詐欺に遭ったりと、農業・農村のリアリティが感じられます。

 また、主人公を受け入れた地域の担い手農家が、農地を荒廃させないために高齢農家の土地を借りて守っている一方で、無農薬農業を志す甥っ子に、ビジネスの視点から断念するよう諭すシーンがあります。生活を守る職業としての一面と、地域を守る使命とが、矛盾するようで両立している様子が絶妙に表現されています。

 林業の研修生を主人公にした映画『WOOD JOB!』の原作となった『なあなあ日常』もそうですが、農林漁業では20年、30年、ときには100年、200年で物事が考えられていて、数年先のことを見ている企業とはスパンが違います。次の世代に地域をつなぐとはどういうことなのかが分かってもらえると思います。

魚谷さんおすすめの5冊

●幸せの条件(誉田哲也著、中央公論新社刊)
東京から単身長野に赴いた24歳の女性主人公が農業見習いを始め、米づくりを通じて働くこと、生きることの意味を見出していく小説です。現在の農業が抱える問題に触れており、農業について詳しく知りたい人におすすめ。

●だから僕は船をおりた─東京生まれの元漁師が挑む、フードアクション!(近江正隆著、講談社刊)
都市部の消費者と地域の生産者をつなぐため、現在は地域プロデューサーとして生産者たちと活動をしている元・漁師の著者。目の前の幸せではなく、未来の幸せのために自身の役割を見出し、行動する姿が描かれています。

●日本人は「食なき国」を望むのか—誤解だらけの農業問題(山下惣一著、家の光協会刊)
著者は84歳になる農民作家。農業のグローバル化や大規模化に異を唱え、古くから営まれる小規模・家族農業の「強み」を訴えてきました。「食料」「農業」を国際的な競争にさらすことが正しいのかを問うエッセイ集です。

●罠ガール(緑山のぶひろ著、KADOKAWA刊)
女子高校生が罠猟に取り組む姿を描いたマンガで、現在は第5巻まで発売中。作者は実家が農家で自身も罠猟免許を持ち、その知見を生かして鳥獣被害が深刻化している農業の現場をリアルに描いています。

神去なあなあ日常(三浦しをん著、徳間書店刊)
高校卒業と同時に主人公は、三重県の山奥にある神去村に送り込まれ、林業に従事する様子を描いた小説です。自然を相手に生きてきた人々との出会い、主人公の青年が成長していく姿が描かれています。

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左/日本人は「食なき国」を望むのか—誤解だらけの農業問題(山下惣一著、家の光協会刊)。中/罠ガール(緑山のぶひろ著、KADOKAWA刊)。右/神去なあなあ日常(三浦しをん著、徳間書店刊)

 

キーワード

魚谷 昌宏

うおたに・まさひろ
1975年埼玉県熊谷市生まれ。上智大学卒業後、一般社団法人『家の光協会』で農業関係の雑誌の編集に携わり、2017年より青年農業者向け月刊誌『地上』の編集長を務める。日本の食料・農業・農村をめぐる情勢や、社会・経済の動向を反映した企画で、農協運動に参加・参画する仲間づくり、豊かな地域づくりに役立つ記事を提供している。