サスティナブル・ブックガイド 自然×坂本大三郎さん
2020.11.15 UP

サスティナブル・ブックガイド 自然×坂本大三郎さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

自然×坂本大三郎さん

 日本の古いものづくりへの興味から、日本の文化と深い関わりがある山伏の世界へ。山形県で自然と向き合う暮らしを送る坂本大三郎さんは、この5冊を通じて、限定的に使われている“自然”の概念を広げ、自分に軸を持った生き方を提示します。

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左/絵巻物に見る日本庶民生活誌(宮本常一著、中央公論新社刊)。右/一語の辞典 自然(伊東俊太郎著、三省堂刊)

 私は元々、現代美術のギャラリースタッフとして都内で働くなかで日本人の古いものづくりにとても関心があり、30歳の時に山伏修行に参加しました。山伏は芸術や芸能などの発展や成り立ちに深い関わりがあると知ってから、より山伏に関心を持って山形県に通うようになり、今から8年前に移住しました。

「自然」をテーマに選書する時、現代の日本人が考える自然観から逸脱せずに歴史的に深みがある点を大事にしました。そして選んだのがこの『自然』です。”自然“は日常的にありふれた言葉ですが、一歩踏み込んで言葉の解像度を上げるとよく分からない言葉になります。人間によって秩序が保たれ、猛獣が現れないように管理されているのが都市部で、そうではない、熊に遭う危険性もあるのが野生地域とします。例えば、東京の人は野生地域に対して「自然があっていいね」と言います。でもよく考えれば東京にも自然はあります。

 漠然と使っている自然という言葉には、実は振り幅があることに気づかされます。そこで、最初に思い浮かんだのがこの本でした。この都市と野生地域は別々のものと捉えられがちですが、それらの非対称の空間を移動しながらもサバイブする知恵というか、何かを今回の本を通じて得てもらえたらと思います。

 また、歴史性をもって身の回りの自然環境を見られるという点で、宮本常一著の『絵巻物に見る日本庶民生活誌』がおすすめです。絵巻を元に古い時代に生きた日本人の生活について書かれています。特におもしろいと思ったのは、野生の牛馬をどのようなプロセスで人間が飼うようになったのかという話でした。人が自然と向き合う時、どう近づいていったのか。今となっては当たり前のことにも人間が知恵を絞ってきた歴史がある点が大変おもしろいですね。

 私自身は、山伏に関心を持つ前に思い描いてきた自然と、その後の自然に違和感を覚えました。人間と自然を分けて考えがちですが、実は人自身は自然と反自然の両義性を内面に抱えているのです。日々、いろいろなことが起きて、情報が発信されている現代においては、情報に踊らされないことがとても大事なことだと思います。情報と距離を置くためには、読書や体験で時間の軸を広げて多面的な視座を持つことが大切ではないかと思います。

坂本さんおすすめの5冊

●絵巻物に見る日本庶民生活誌(宮本常一著、中央公論新社刊)
日本の民俗学者である著者の遺著で、1981年に出版。「人生」「農耕」「人間と動物」など民俗誌的な章立てで絵巻物を通じて、それぞれの時代の民衆の生活や風俗、習慣を紹介しています。見えづらくなった自然を再び引き戻す本です。

●一語の辞典 自然(伊東俊太郎著、三省堂刊)
日本の科学史家・文明史家である著者が1999年に出版。ギリシャ、アラビア、ヨーロッパ、中国、日本における「自然」について述べ、日本で「自然」という言葉が、どのような歴史をたどってきたかについて説明しています。

●セルフメイドの世界─私が歩んできた道(岩城正夫著、群羊社刊)
古代発火法検定協会理事長であり、古代の方法でおこす手作りの火にこだわる著者の本です。火おこしの仕方などが紹介されていて、生きていくために初歩的なことを通じて、自然を考えるきっかけになります。

生薬単─語源から覚える植物学・生薬学名単語集(原島広至著、エヌティーエス刊)
日本薬局方に収載されている生薬の産地、主要成分、使用部位、薬効などを一冊にまとめた本です。山で野草を採る時、この本で確認して、民間療法とは異なる科学的根拠に基づくものの見方を大事にしています。

●鉱物観察ガイド(松原 聰著、加藤 昭著、千葉とき子著、宮脇律郎著、東海大学出版会刊)
1969年から2006年の間に行われた国立科学博物館の鉱物・岩石・火山地質観察会のまとめに、最新の知見を加えた本です。山にはいろいろな石があり、その石を手がかかりに日本列島がどうやって生まれたのかを知ることができます。

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左/セルフメイドの世界─私が歩んできた道(岩城正夫著、群羊社刊)。中/生薬単─語源から覚える植物学・生薬学名単語集(原島広至著、エヌティーエス刊)。右/鉱物観察ガイド(松原 聰著、加藤 昭著、千葉とき子著、宮脇律郎著、東海大学出版会刊)

 

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坂本 大三郎

さかもと・だいざぶろう
1975年生まれ、千葉県出身。山伏。8年前より山形県に在住。春には山菜を採り、夏には山に籠もり、秋には各地の祭りを訪ね、冬は雪に埋もれて暮らす一年を送る。美術作家として「山形ビエンナーレ」などに参加。自然と人の関わりをテーマに執筆活動も行う。著書に『山伏と僕』(リトルモア刊)がある。