サスティナブル・ブックガイド ものづくり×林口砂里さん
2020.11.18 UP

サスティナブル・ブックガイド ものづくり×林口砂里さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

ものづくり×林口砂里さん

 ものがあふれている現代において「これから何をつくっていくのか、つくり手は真剣に考えないといけない」と林口砂里さんは言います。今、歴史や日本が積み重ねてきた伝統文化から何を学ぶべきか、教えてもらいました。

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左/手仕事の日本(柳 宗悦著、岩波書店刊)。右/茶の本(岡倉天心著、桶谷秀昭訳、講談社刊)

 私がこれからつくるべきだと思うのは”美しいもの“です。それは何かと言えば「世界の平和と人々の幸福に寄与するもの」「自然や他者と共生できるもの」だと考えています。そのヒントになる本をセレクトしました。

 影響を受けた一冊が『眼の誕生 ─カンブリア紀大進化の謎を解く』です。生命が進化するなかで生物が爆発的に増えたカンブリア紀は今もなお謎に包まれています。諸説ありますが、本書で提唱されているのが「生物に眼が誕生したからではないか」という説。眼という器官を手に入れた生物は、光を得て、形や色が明確に見えるようになったのです。これは生物にとって大事件、大進化でした。捕食が戦略的になり、生殖のパートナーをも見つけやすくなり、外見の色や形なども変化して多様になっていきました。

 美しいという感覚を人間がもっているのは不思議です。視覚で感じる美しさは、もしかしたら人間特有の感覚なのではないでしょうか。美しいものをつくって、見て、暮らすことは、人に幸福をもたらすと思うので、その意識を大事にしたいなと。生物学的に考えるとおもしろいですね。

 次に、『荘子 全現代語訳 上』の「外篇 天地第十二 第11章」には「機械に頼る仕事が増えると機械に頼る心が生まれる」などの考え方が紹介されています。機械や道具で人が幸せになっているのか、依存しているのではないかと問い直し、自分で考えてバランスをとっていくことも、これからのものづくりで大切でしょう。

 さらに伝統文化の分野から『茶の本』をオススメします。江戸時代に武士の家に生まれ、開港間際の横浜で商売をして英語を学び、東洋と西洋を相対化して見ることができた著者・岡倉天心は天才でした。この本は英語で書かれ、アメリカで出版されましたが、彼は茶道を「ティーイズム」と造語で表現し、精神哲学としたのです。私は、世界中の人が茶道を学ぶべきだと思います。茶道には東洋の精神文化や美意識がベースにあり、それらを感じられるからです。

 岡倉は、「芸術家が自分の表現したいものを芸術におしつけても、決して良いものは生まれない。鑑賞者がいて初めて芸術は完成する」と自然(芸術)・作り手・鑑賞者の三者が融合する東洋の芸術のあり方を示しました。こうした考え方も、今こそ大切だと思います。

林口さんおすすめの5冊

●手仕事の日本(柳 宗悦著、岩波書店刊)
自然と先人たちの努力によってつくられてきた「健やかで美しい日用品」の紹介を通じて、日本が素晴らしい手仕事の国であることを伝えています。柳宗悦が全国を巡って行った調査を平易な言葉でまとめていて読みやすく、「民藝」入門にオススメです。

●茶の本(岡倉天心著、桶谷秀昭訳、講談社刊)
茶室は自然との一体感を表現しています。あるがままの自然を美しいとする感覚、自然を管理・支配できないとわきまえている東洋的思想を見直せる一冊。日本語に訳された岡倉天心の文章がロマンチックで美しく、読みやすいです。

●「公益」資本主義(原 丈人著、文藝春秋刊)
ものづくりと経済は切り離せないもの。シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストとして活躍した著者が、株主至上主義などの弊害を示し、「三方よし」に代表される日本的経営のあり方をポスト資本主義の答えの一つとして掲示しています。

●荘子 全現代語訳 上(池田知久訳、講談社刊)
中国戦国時代の思想家・荘子の深い哲学や思想は、仏教の禅や東洋思想に受け継がれていきます。下巻も含め、内篇、外篇、雑篇で構成され、「外篇 天地第十二 第11章」では、ツールに使われるものづくりになっていないかと考えさせられました。

●眼の誕生 ─カンブリア紀大進化の謎を解く(アンドリュー・パーカー著、草思社刊)
生命史最大の謎である「カンブリア紀の爆発」に迫り、「生命最初の眼がすべてを変えた」という驚きの新仮説を提案した一冊。あらゆる生物の形や色がつくられていった理由を自然科学で説き、視覚で感じる美しさにまで思いを馳せられます。

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左/「公益」資本主義(原 丈人著、文藝春秋刊)。中/荘子 全現代語訳 上(池田知久訳、講談社刊)。右/眼の誕生 ─カンブリア紀大進化の謎を解く(アンドリュー・パーカー著、草思社刊)

 

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林口 砂里

はやしぐち・さり
『エピファニーワークス』代表取締役。現代美術、音楽、デザイン、仏教、科学と幅広い分野をつなげるプロジェクトの企画・プロデュースを手掛ける。2012年より拠点を郷里の富山県高岡市に移し、伝統工芸と先端技術が出合う「工芸ハッカソン」のプロデュースなど、地域のものづくり・まちづくり振興プロジェクトにも取り組む。