サスティナブル・ブックガイド 福祉×松田崇弥さん
2020.11.21 UP

サスティナブル・ブックガイド 福祉×松田崇弥さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

福祉×松田崇弥さん

 福祉とアートを掛け合わせた快進撃を続ける松田崇弥さんが、福祉関連の名著のほか、福祉のかっこいいカルチャー感を伝えられる本をセレクト。彼の視点や感性を通じて、福祉のもつ新たな側面、可能性が見えてきます。

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左/まともがゆれる─常識をやめる「スウィング」の実験(木ノ戸昌幸著、朝日出版社刊)。右/A Book About DISTORTION(笠谷圭見著、やまなみ工房刊)

 僕は三人兄弟で、双子の兄・文登と、自閉症という先天性の障害がある長兄がいます。長兄への想いを原点として文登と、そして今では11名のメンバーと共に活動しているのが『ヘラルボニー』です。

 僕は「障害者」という人はこの世にいないと思っていて「障害がある人」と言うようにしています。同様に、僕は「障害者アート」という言葉も好きではありません。何かの欠落を連想させるからです。ちょっと回りくどいかもしれないけれど、「知的障がいのある作家が描いたアート作品」と言っています。こういう僕が、これまでに影響を受けた本を紹介します。

『ヘラルボニー』の前身である「MUKU」プロジェクト発足前に何度も読み返したのが笠谷圭見さんの著書『ABook About DISTORTION』です。「これだ! このぐらい突き詰めたことがやりたい!」と大きな影響を受けました。プロジェクトの見せ方や考え方において新しさを感じましたし、「障害のある人たちに障害者というレッテルを貼り続けて、依存しているのではないか。本人はどう思っているんだろう?」とも問いかけられた気がしました。

 アートや詩の活動をしている障害福祉のNPO法人『スウィング』の施設長の著書『まともがゆれる —常識をやめる「スウィング」の実験』は、施設の雰囲気やリアリティが分かる一冊です。クスッと笑えるところもあり、さまざまな人の物語を通じて、人の弱さとその許容についてまで知ることができます。本の後半では、著者の木ノ戸昌幸さんがかつて人の目を気にして生きていたことなどを告白していて、葛藤があったからこそ現在の活動や著書があるんだなと、人間味を感じました。『スウィング』のおもしろいところは、「こうやらねば・やるべきを疑え!」というところ。人は「成長しなければいけない」と考えがちですが、その呪縛から解放してくれるような本でした。

 1968年に発売された、社会福祉の父と言われている糸賀一雄さんの本『福祉の思想』は今でも新鮮な考え方にあふれていて、とても感化されました。糸賀さんの福祉のケアなどを「してあげている」ではなく、本人がもともともっているものを引き出していくという考え方です。糸賀さんの考え方に時代がようやく追いついてきたのではないでしょうか。僕たちも、その人がもつダイヤモンドのように素敵なところをそのまま世の中に出していきたいと思っています。

松田さんおすすめの5冊

●まともがゆれる─常識をやめる「スウィング」の実験(木ノ戸昌幸著、朝日出版社刊)
ギリギリアウトをセーフに変える障害福祉のNPO法人『スウィング』に集う人々が「できないこと」にこだわるのをやめ、緊張から解放されるまで。人の弱いところや人間らしさだけでなく、その許容までが紹介されています。

●A Book About DISTORTION(笠谷圭見著、やまなみ工房刊)
障害者施設とクリエイターの恊働プロジェクト「DISTORTION」の軌跡をまとめた本。『やまなみ工房』のクリエイターである著者が、洗練されたビジュアルや言葉を通じて思想を伝えています。福祉で何か始めたい人にオススメ。

●福祉の思想(糸賀一雄著、NHK出版刊)
糸賀さんが福祉への対策や理解、積極的協力などを求めた本。「福祉は人間の価値をふまえた心と行動的実践」という考え方に大きな影響を受けました。糸賀さんが創設した知的障害児施設『近江学園』を見学したこともあります。

●ケアとまちづくり、ときどきアート(西 智弘著、守本陽一著、藤岡聡子著、中外医学社刊)
弊社の所属アーティストのひとり、八重樫季良さんが表紙の絵を担当。入院中にやりとりをし、残念ながらこれが最後の彼の仕事になりました。社会的手法を紹介する内容で、『ヘラルボニー』も取り上げていただいています。

●ピンポン(松本大洋著、小学館刊)
初めて読んだのは小学生のときでしたが、大人になってから主人公は自閉傾向の強いADHDなのではないかと思うように。松本大洋作品によく出てくる個性的なキャラクターは、できるところを伸ばして多くの人を勇気づけています。

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左/福祉の思想(糸賀一雄著、NHK出版刊)。中/ケアとまちづくり、ときどきアート(西 智弘著、守本陽一著、藤岡聡子著、中外医学社刊)。右/ピンポン(松本大洋著、小学館刊)

 

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松田 崇弥

まつだ・たかや
『ヘラルボニー』代表取締役社長兼クリエイティブ統括。小山薫堂が率いる企画会社『オレンジ・アンド・パートナーズ』のプランナーを経て独立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。