サスティナブル・ブックガイド 教育×出口治明さん
2020.11.23 UP

サスティナブル・ブックガイド 教育×出口治明さん

SUSTAINABILITY

 新型コロナウィルスの影響で社会が大きく揺さぶられ、さまざまな分野で大きな変化が起ころうとしています。これからの未来はどうなっていくのでしょうか? 不安定な社会で暮らし、生きていくためのヒントをくれる、そんな“未来をつくる本”を紹介します。

教育×出口治明さん

「教育のみならず、ものごとを正しく知るには『タテ・ヨコ・算数(歴史、世界、データ)』の3つの視点が必要だ」と語る出口さん。この視点を軸に選んだ本は、順番に読んでいけば、まるで物語を読み進めるような充実感があります。

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左/教育格差─階層・地域・学歴(松岡亮二著、筑摩書房刊)。右/われらの子ども ─米国における機会格差の拡大(ロバート・D・パットナム著、柴内康文訳、創元社刊)

 僕はいつも、世の中のことを正しく把握するためには「タテ・ヨコ・算数」の視点が必要だと話しています。タテは歴史、ヨコは世界、算数はデータのことです。もちろん教育について考えるときも同じです。今回もそれを念頭に選書しました。

 まずは松岡亮二さんの『教育格差』で「データ」を見てみましょう。教育というのはどうしても「こんなにいい先生に出会った」「こんなにいやな授業があった」などのエピソードで語られがちですが、個別のエピソードでは全体は見えません。この本では、現代の教育には家庭や地域によって大きな格差があるということを、圧倒的な量のデータで明々白々に述べています。これでまず日本の教育界の現状を知っていただきたい。

 日本のことを知ったら次は「ヨコ」、世界です。『われらの子ども』は、アメリカの教育の現状をエピソードとエビデンスをうまく組み合わせて説明しています。たとえば、同じまちの道路を隔てたあちらの家は金持ち一家、こちらは貧困一家というような、普通ならエピソードで終わる話の後にエビデンスを出し、アメリカ全土の教育問題を正しく想像、理解させてくれます。

『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では、ヨーロッパでの教育事情がわかります。これは名門の私立学校に通っていた子どもが、現地の公立中学に入学するノンフィクションです。上流階級の優等生は私立校に通う傾向がありますが、今は世界的に見ても公立校がいろいろなことに挑戦しているということがわかります。

 では「タテ」、歴史に入りましょう。教育論の古典である『エミール』です。教育の本質は子どもが個々に持っている能力を引き出すことです。ルソーのような天才は、脳科学や教育心理学の知見がなかった約250年前にそのことを理解していたのです。素晴らしい古典は永遠に新しいということもわかります。

 最後はまた「算数」に戻って、データでトドメを刺します(笑)。脳研究者の池谷裕二さんの『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』です。人間の本体とは脳だといっても過言ではありませんが、その脳がどうつくられていくのか、教育や子育てとどう関係があるのか。脳研究の第一人者が膨大なエビデンスとともに語ってくれます。親はもちろん、教師にも読んでほしいですね。

出口さんおすすめの5冊

●教育格差─階層・地域・学歴(松岡亮二著、筑摩書房刊)
人には無限の可能性があります。しかし現代では生まれた家庭、地域など、本人にはどうしようもできない条件で最終学歴が異なり、様々な格差の基盤となっていることを、膨大なデータで検証。そのうえで採るべき採択も提案しています。

●われらの子ども ─米国における機会格差の拡大(ロバート・D・パットナム著、柴内康文訳、創元社刊)
世代・人種・社会階層の異なる市民へインタビューを行い、その後エビデンスを提示する手法で、その問題はアメリカ全土で起きているのだと伝える手腕が見事。こういったファクトチェックの重要性をぜひ学び取ってほしいです。

●パパは脳研究者 ─子どもを育てる脳科学(池谷裕二著、クレヨンハウス刊)
著者には4歳の愛娘がいて、その脳の発達と機能の原理を分析して、子育てに活かせるコツとして紹介しています。もはや脳の仕組みを知らずして、教育は語れません。男性の育児休暇が必要な理由など、多角的な視点で語っています。

●エミール(ルソー著、今野一雄訳、岩波書店刊)
『社会契約論』などを遺した250年前の哲学者・ルソーが著した本です。エミールという架空の貴族の子どもをルソーが一人前になるまで育てるという設定で、自然であることを重視しながら、子どもの個々の個性を伸ばしていく教育論を説いています。

●僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ著、新潮社刊 )
著者はイギリス在住の日本人保育士で、名門私立小学校に通っていた息子が地元の公立中学に入学したことで息子は差別、いじめ、格差、喧嘩などに直面することに。それらを乗り越えていく様子がたくましく、教育とは何かを示してくれます。

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左/パパは脳研究者 ─子どもを育てる脳科学(池谷裕二著、クレヨンハウス刊)。中/エミール(ルソー著、今野一雄訳、岩波書店刊)。右/僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ著、新潮社刊 )

 

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出口 治明

でぐち・はるあき
京都大学法学部を卒業後、『日本生命』に入社。経営企画を担当、ロンドン現地法人社長などを経て2006年に退職。同年、『ライフネット生命』を設立。2008年開業、2012年上場。2017年に退任。2018年より現職。著書に『「教える」ということ』(KADOKAWA)、『全世界史(上・下)』(新潮社)など。