韓国人のリアル生活を体験。 ー田中佑典の現在、アジア微住中vol.5
2019.07.24 UP

韓国人のリアル生活を体験。 ー田中佑典の現在、アジア微住中vol.5

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光州、韓国式小確幸を知った夜。

光州と聞いてピンとくる方もいるかもしれない。ここは韓国現代史上、最大の悲劇ともされている「光州事件」でも有名な、南西部の都市。韓国民主主義の聖地ともいわれている。

2017年の映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、光州事件時の実話を元につくられ、韓国で大ヒットとなった。日本人の旅行先としてあまり馴染みのない光州だが、韓国人にとっては今でも特別な地だ。さらに2年に1度、「光州ビエンナーレ」が開催され、芸術文化の地ともされている。

5・18の展示館で印象的だった血に染まる
5・18の展示館で印象的だった血に染まる国旗。

あなたはインサイダー? 
アウトサイダー?

光州に向かうバスの中、ソウルの友人に韓国で今、流行っている言葉を聞き、微住中に使おうと目論んでいた。

「私はインサイダーです」と、自己紹介の時に使うと絶対ウケるよと教えてくれた。え、本当に……? バスターミナルに迎えに来てくれた知り合いの姉妹にさっそく使ってみた。微笑だった……。

しかしその後、理由を話すと、その言葉自体は本当に流行っているみたいだ。インサイダーは韓国語で「インサ(인싸)」、アウトサイダーは「アッサ(아싸)」。インサとは時代や群れに上手に溶け込む存在のことで、アッサは群れの内側に入ってこない存在のこと。数年前までは「あなたはアッサですか?」が流行っていたそうだが、今はイッサに切り替わったそうだ。これは僕の見解だが、ここ数年で韓国もSNSが普及し、コミュニティやつながりというものが重視され、そこに適応できているかが大事になってきているのではないかと考える。

さらに「TMI」、Too Much Information(多すぎる情報)の文頭の文字を取り、「どうでもいい情報、知らなくてもいい情報」を意味する言葉も流行っている。空気感としては、今の日本の感じと似ている。

5・18光州事件の中心地となった噴水広場。周りで若者たちがスケートボードを楽しむ。
5・18光州事件の中心地となった噴水広場。周りで若者たちがスケートボードを楽しむ。

合言葉は「チメッ」。

今回の光州微住では、知り合いからの紹介でドイルという同い年の家に泊まらせてもらうことになった。

ドイルは既婚者で、最近奥さんが出産して近所にある実家に戻っているからということで、男2人の生活を快く受け入れてくれた。彼は日本語が話せない。僕らは常にLINEの翻訳ツールでコミュニケーションをとる。何度か「次に会う時は、LINEを使わずに話そうぜ」と、再会の約束と共に、僕の韓国語への熱が入る。

彼とは微住中、ドライブしたり、夜は一緒にPS4をしたり。目が覚めると朝ごはんをつくって用意してくれたこともあった。ある夜、突然横にいる彼からLINEが来て「私の家へ来てくれてありがとう」と。続けて「自分は最近子どもができて大変。半面もっといろいろな仕事がしたい。けどなかなか思うようにはいかない」。30代前半、日本も韓国も悩みは一緒。熱い夜となった。

村上春樹のエッセイの中に出てきた「小確幸」。この言葉が韓国でも有名となり、「ソファクヘン(소확행)」は2018年のトレンドワードにもなったそうだ。

最後の夜、ドイルは友達を呼び、韓国らしいソファクヘンをしようと言ってくれた。韓国人の大好物、チキンとビール(メクチュ)のコンビを「チメッ」と呼び、友人と一緒に食べる。「うー!! 辛っ!」。これが韓国人の彼らにとってかけがえのないリアルな幸せなのだ。

ドイル家での日常。朝ごはんに作ってくれたキムチポックンパはザ・男の料理。毎日のように飲んだビール「CASS」は韓国定番の銘柄。
ドイル家での日常。朝ごはんに作ってくれたキムチポックンパはザ・男の料理。毎日のように飲んだビール「CASS」は韓国定番の銘柄。

 

文・写真 田中佑典

本記事は雑誌ソトコト2019年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中佑典

たなか・ゆうすけ
1986年生まれ。福井市出身。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは一つの場所で2週間以上滞在してみること。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。