「ご当地電力」を知っていますか?
「ご当地電力」とは、各地域が主体となり、地方自治体や地元企業、市民が取り組んでいる自然エネルギー(太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなど)を活用した発電事業のことです。
2011年の東日本大震災をきっかけに、日本各地でエネルギー自給やその発電方法などに注目が集まるようになりました。震災後は節電が呼びかけられ、使う電気の量をできるだけ減らすように心がける日々が続くなかで、あらためて電気の便利さや重要性を感じたり、意外に少ない電力でも不便しないと感じた人も多かったのではないでしょうか。
こうした経験をきっかけに全国各地で立ち上がったのが「ご当地電力」です。地域にある自然を活用し、住民自らが主体となって発電するご当地電力は、環境にやさしいだけでなく、住民同士の交流や地域経済を活性化させる役割も担い、しだいに全国各地へ広がっていきました。
しかし、毎日使う“電気”自体は身近でも、“発電”となると自分にはあまり関係のないように感じる人は多いと思います。「住民が自分たちで発電する」とは一体どういうこと?という人も多いかもしれません。
そこで今回は、2014年に新潟市でスタートしたご当地電力「おらってにいがた市民エネルギー協議会」の代表・佐々木寛さんに、立ち上げの経緯や市民主体の取り組み、そしてご当地電力のメリットなどについてお話を伺いました。
市民主体のまちづくりを目指して。
「おらってにいがた市民エネルギー協議会」は、2014年に新潟市民によって立ち上げられた一般社団法人です。“おらって”とは、新潟の方言で“わたしたちの”という意味。太陽光による発電事業を中心にしながら、市民(=わたしたち)が主体となってまちづくりに取り組める地域社会を目指し、活動を続けています。
そもそもの始まりは、新潟市が生涯学習の場として運営する「にいがた市民大学」で2013年に開講された市民講座がきっかけでした。当時は、深刻な原発事故を引き起こした東日本大震災から約2年が経過したころ。そんななかで“原子力”をテーマにした講座が開講され、その講師を務めたのが、現・おらってにいがた市民エネルギー協議会の代表であり新潟国際情報大学教授の佐々木寛さんでした。
複数回にわたる講座では、原子力の話題を中心に「東日本大震災後のこれからをどう生きていくべきか」というテーマが語られ、熱心な受講生とともに熱い議論が繰り広げられました。
佐々木さん「当時は、講義のあとに参加者の人たちと飲みに行って、そこでもずっと議論していました。みなさんとても熱心で、熱い思いを持っている方ばかりで。そうやって盛り上がるうちに、エネルギー自給や地方自治のためには市民電力が必要だという話になって、いよいよ『市民発電をやろう!』ということになったんです。それから実現に向けて動き始めました」
こうした市民の声を受けて、2014年1月には新潟市主催の「市民発電勉強会」が開催されました。全国のご当地電力の事例を参考にしながら、新潟の市民電力スタートに向けてより実践的な内容で学びを深めていきます。
そして同年4月には、この勉強会に参加したメンバー有志によって「おらってにいがた市民エネルギー準備会」を結成。運営を担う10数名のコアメンバーを中心にしながら、組織や仕組みづくりが進められました。
佐々木さん「市民が自分たちで発電するなんて、本当にできるの?って思うじゃないですか。当時もみんなそう思っていたなかで、市民電力の実現は、全員の夢みたいな感じでした。もちろん立ち上げにはものすごいエネルギーが必要でしたけど、みんなで夢に向かって突っ走っていたので、不思議と『大変だった』という感覚はあまりなかったですね」
9月に開催したキックオフイベントには、運営メンバーを含め、計280名もの参加者が集まり会場は満席に。イベントでは、全国各地で市民発電に取り組む団体からゲストを招いたパネルディスカッションや、「おらってにいがた市民エネルギー協議会」設立に向けた宣言文を考えるワークショップが行われ、市民電力の立ち上げに向けて加速していきます。
さらにその後も、協議会設立へ向けた話し合いや勉強会を3回にわたって実施。運営メンバー以外の市民も多数参加し、市民同士の意見を活発に交わしながら、協議会のあり方や団体の定款などが決められました。
そうした市民主体の準備期間を経て、ついに「一般社団法人 おらってにいがた市民エネルギー協議会」が誕生します。最初の構想から約2年、2014年12月のことでした。
市民の力でつくる、発電所。
現在おらってにいがたでは、新潟県内の公民館や体育館、企業の屋根などに太陽光パネルを設置し、合計40か所の太陽光発電所を稼働させ、約2215.5kWの電力を発電しています。これは一般家庭 約440世帯分の電力に相当します。
発電事業に関してはメンバーの誰もが初心者だったなかで、立ち上げから数年間で40か所もの発電所を作るには費用も労力も必要だったはずですが、協議会メンバーの熱い思いと努力によって実現したと佐々木さんは振り返ります。
佐々木さん「協議会には本当にいろいろな職業や立場の人が参加してくれて、みんな『これは絶対新潟のためになるから』と一肌脱いでくれたんですよ。利益やお金のためではなくて、ふるさとのために、新潟のために、という気持ちで力を貸してくれました。資金面だったり、太陽光パネルを設置する場所だったり、いろんな課題はありましたが、みんなそれぞれ自分の立場でできることに無償で取り組んでくれたんです。当然、事業なので失敗する可能性もあったわけですが、この取り組みに対して一人ひとりが責任をとる覚悟で関係各所にかけ合ってくれたりもしました。それだけみんな本気だったんです。感動しました」
これまで電力会社に任せていた発電を、市民の力で取り組む。それは、エネルギーを地域でまかなう、あるいは、地球にやさしいということだけではなく、市民が主体的に地域の未来を考える第一歩でもありました。
安心して暮らしていくためには何が必要なのか、一人ひとりが考え実行する。そんなふうにして、自分たちが暮らすこの地域の未来は自分たちで決める。こうしたメッセージとともにおらってにいがたは誕生し、発電事業をはじめとした地域での活動に取り組んでいます。
文:Miho Aizaki