若者支援の現在(デンマーク)
2020.12.19 UP

連載 | ソーシャル系大学案内 | 51 若者支援の現在(デンマーク)

SOCIAL

 ソーシャルでエシカルな関心をもつ人を惹きつける、街の中に広がる学びの場「ソーシャル系大学」。ソーシャル系大学は、教育制度の観点から見ると「ノンフォーマル教育」のひとつに位置づけられる。産業構造の転換に伴う雇用の変化を背景に、「ノンフォーマル教育」の領域でも課題となっているのが若者支援である。今、必要とされるのはどのような支援なのか。今回は、進路指導という観点から若者支援について考えたい。

 グローバリゼーションと情報化の進展は、既存の産業構造に大きな転換をもたらしている。職業訓練のスピードが追いつかず、多くの国々で若者支援が喫緊の課題となっている。工場や商店で働く人たちを支援するために発達してきたかつての日本の社会教育も、生涯学習への変化のなかで、若者支援のあり方を見直してきた。ところが日本の場合、例えば失業者、ニート、引きこもりといった「対象」に当てはまらない多くの若者は、社会福祉、学校教育、そして生涯学習においても支援の対象外とされてきた。伝統的に福祉と教育は別ものと考えられてきたからである。けれどもそのような垣根を乗り越え、「生涯学習戦略」として若者支援に取り組む国に、デンマークがある。

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 EU加盟国のデンマークは、EUが提言してきた生涯学習政策を国内でも率先して推進してきた。2003年、政府はそれまで25種類に分けていた学校における進路指導のシステムを統一し、2004年には各自治体に若者ガイダンスセンター(UU)と進学ガイダンスセンター(Studievalg)を設立した。高校中退者を減らすためである。2011年からは、メールやチャットを用いた「eガイダンス」を始め、相談窓口の拡大に務めてきた。ここでの「ガイダンス」とは進路指導という意味で、義務教育を終えた10代の若者たちに、将来のためにどのような教育や職業訓練を受けられるのかを紹介し、相談に応じる機関を指す。現在のデンマークでは、12歳から25歳までの若者であれば10代のうちに少なくとも1回はカウンセラーと会い、共に進路を考える機会をもつ仕組みが出来上がっている。

 ガイダンスセンターのカウンセラーの仕事は、若者の話に耳を傾けることである。筆者が2019年に訪問したエスビャウ市のカウンセラーによると、政府からは社会的ニーズの高い分野に若者を送り込むよう求められることもある。しかしカウンセラーは、目の前の若者が、何を望み、何に躊躇し、何に挑戦しようとしているのかを見極めようとする。

 もし、アートの世界に触れてみたい、eスポーツを極めたい、舞台芸術の世界で働きたいといった希望があれば、それが職業や学位に直結しなくても、あえてノンフォーマル教育機関のプログラムに参加するよう背中を押すこともある。回り道をしたほうが進路に納得する人も増え、結果的に高校や職業訓練校の中退者を減らすことにもつながるからだという。

 

 デンマークと日本とでは学校制度も異なるため単純に比較することはできないが、日本でも、旧態依然とした進路指導が見直されたらと願わずにいられない。既存のシステムでは対象外とされてしまう、それでも将来に迷う若者たちが、自信をもって次の一歩を踏み出すことができるように、支援の仕組みを整える余地はまだまだあると考えている。

写真・文●坂口 緑

記事は雑誌ソトコト2021年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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坂口 緑

さかぐち・みどり
明治学院大学社会学部教授。2000年、東京大学大学院博士課程単位取得退学。研究領域は生涯学習論。共著に『ポストリベラリズム』、共訳書にアーリー・ラッセル・ホックシールド『タイム・バインド』など。