「自分を変えたら佐渡が教えてくれた」島の個性に向き合い、日本一夕日の美しい小学校を酒蔵へ
2021.01.09 UP

「自分を変えたら佐渡が教えてくれた」島の個性に向き合い、日本一夕日の美しい小学校を酒蔵へ

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 学校蔵は、尾畑酒造本社の蔵から車で15分ほど離れた場所にある。冬場は本社で仕込みを行うため、学校蔵は夏場の仕込みを行う蔵として稼働している。

 学校蔵での酒造りは「オール佐渡産」を基本として、原料となる酒米や水はもちろん、敷地内にソーラーパネルを設置し、必要なエネルギーも佐渡産の太陽光によって作られる。酒造りに関わるすべてを佐渡のなかで循環させながら、豊かな自然との共生や持続可能な酒造りのかたちを目指している。

佐渡_稲刈り
牡蠣殻農法を用いて米を育てる、佐渡相田ライスファーミングでの稲刈り。学校蔵の酒造りでは、ここで育てられた酒米も使用している。

 そして学校蔵は、酒造りだけではなく、その“学校”という場所を活かした取り組みにも注目を集めている。

古い木造校舎が生む、人と人との化学反応。

 そのひとつが、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」をテーマに毎年開催される、学校蔵の特別授業だ(2020年は新型コロナウイルスの影響により休止)。学校蔵のスタート以来、毎年開催され、講師には藻谷浩介さん(日本総合研究所調査部主席研究員)や出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)、玄田有史さん(東京大学社会科学研究所教授)らが登壇し、島内外から集まった参加者とともに授業を行う。

学校蔵_特別授業
「学校蔵の特別授業」の様子。

 少子高齢化が進み、課題先進地とも言われる佐渡。しかし見方を変えれば、すでに多くの課題が見えているからこそ、その解決にも早くから取り組むことができるはず。佐渡で考えたことが、いつか日本全体の課題を解決するヒントになるかもしれない。そんな思いから、「佐渡から考える島国ニッポンの未来」というテーマを決めたのだという。

 初年度は40名ほどだった参加者も年々増えていき、現在は上限の120名を大きく上回る応募が寄せられているという人気ぶり。参加する人の年齢や性別、職業はさまざまだが、教室のなかでは全員が同じ目線で話すことができるのも、学校蔵のおもしろさだ。

尾畑さん「10代から70代まで、農家さんもいれば上場企業の役員さんもいる。ジャーナリストの人も取材ではなく生徒として来ていたり、みんなフラットな立場で授業に参加しているんです。それを可能にしているのは、たぶん教室でやっているから。会議室だとどうしても自分の肩書きを意識してしまうけど、木造の古い教室ではみんな生徒として参加できる。笑顔がいっぱいで、授業が終わってからは初対面の生徒さん同士、盛り上がって話しています。そうやって世代や立場を超えたつながりができる。それもまた良いところだなと思います」

 授業のスタートにはチャイムが鳴り、「起立、礼、着席」という懐かしい号令もある。古い木造校舎のなかでタイムスリップするように、学校蔵の特別授業では誰もが“生徒”として授業を聞き、発言する。そんな純粋な学びと交流を通して、参加者の間では新たな気づきや発見が次々に生まれていくのだという。

特別授業
授業中も参加者の笑顔があふれる。

 そして2年目からは、この特別授業に地元の高校生も参加するようになった。尾畑さん自身、「もっと広い世界へ出ていきたい」と思っていたひとりだったからこそ、これから島の未来を担う高校生たちには、佐渡に居ながらにして世界と直接繋がることができる、世界は手の届くところにあるんだ、という実感を得てほしいと考えた。ある年にはアメリカのパートナー企業の担当者に登壇してもらい、佐渡に来て感じたことを話してもらったこともあるのだそう。

佐渡_高校生
毎年、参加した高校生がプレゼンテーションする時間もある。高校生たちとともに、佐渡の未来を考える。

 さまざまな世代が交じり合いながら学んでいくなかでも、特に高校生たちの変化は目に見えて早い、と尾畑さんは話す。

尾畑さん「やっぱり高校生の変化がいちばん早くて、だんだん目がキラキラしてくるんですよ。そうすると不思議なことに大人がキラキラしてきて、どんどんキラキラが広がっていくんです。授業では必ずしも何かの正解を導き出すのではなくて、そうやって“化学反応”が起きていくことが大事だなと思っています。答えはいつも参加者自身のなかにあるんですよね。その答え探しのきっかけを、誰かのストーリーや発言のなかから見つけて、ハッとなって帰れる場であればいいなと思っています。気づきがあれば必ずアクションが変わって、明日見る景色が変わっていく。そういう化学反応を起こすことで、学校蔵の特別授業が『未来を変える特別授業』になっていけば素敵ですね」

 自分のなかで主体的な気づきが生まれれば、いつでも人は変わることができる。尾畑さん自身もそんな経験を繰り返してきたからこそ生まれた、学校蔵の特別授業なのだろう。

学校蔵_特別授業

文:Miho Aizaki

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