ミレニアル世代が活躍できる場を。『TSUNAGU』が目指すエシカルなものづくり。
2019.07.31 UP

ミレニアル世代が活躍できる場を。『TSUNAGU』が目指すエシカルなものづくり。

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お気に入りの服。というものが、誰しも一着はあると思う。
しかし、その服が“どんな背景でつくられたものなのか”まで知っている人はきっと多くない。
『TSUNAGU』は、次世代を見据えてファッションの世界でエシカルに取り組む──。

「若い人たちの、変化に対応する柔軟性に可能性を感じました」

若者のために、「原価でも買えます」。

鮮やかな青が印象的なワンピースは、オーガニックコットンを徳島の本藍染めで染色したもの。しっとりと肌に馴染み、動きに合わせてふわりと空気を包み込む。原料の藍も自然に優しい農法で育てられたものを使うなど、環境に配慮し、伝統技術に敬意を払ったエシカルなファッションアイテムだ。

オーガニック100パーセントのスーピマコットン特有の光沢が印象的な「TSU.NA.GU.」のワンピース。本藍染めの深い青も鮮やか。
オーガニック100パーセントのスーピマコットン特有の光沢が印象的な「TSU.NA.GU.」のワンピース。本藍染めの深い青も鮮やか。

2018年秋、クラウドファンディングサイトでの実験的な試みが注目された。それが、このワンピースを含む5つの商品の価格を購入者が3つの選択肢のなかから選べるというもの。選択肢には、経済的に余裕のない若者にも手軽に試してもらえるようにと“原価のみの価格”も設定され、服の製作にかかるすべての費用も公開。受注生産のみという廃棄を生まないためのアイデアも話題となった。プロジェクトオーナーはミレニアル世代の若者とエシカルファッションをつなげるために活動する一般社団法人『TSUNAGU』だ。代表理事を務める小森優美さんは、落ち着いた口調でこう話す。「いわゆる本物をつくろうとするとどうしてもコストが高くなりますが、それだと買いにくくなってしまう。私はエシカルやサスティナブルが広まっていくためにもっとも大切なことは、若い世代に訴えることだと思っているんです。価格を選べるというアイデアを採用したのもそのためです」。

プロジェクトは、商品に興味を持った人が「どの価格で買うか?」と考えるだけでなく、普段何げなく選んでいる服の原料、つくり手、製造工程にも一旦立ち止まって思いを巡らせるきっかけにもなった。商品は133人がそれぞれの価格で購入。そのなかには、エシカルなファッションアイテムを初めて手にする若者もきっといただろう。

エシカルな販売方法とは? 2つの新しい試み。

製作にかかった原価はすべて公表して購入者への透明性を高くした。さらに、「3つの価格」をつくり、金銭的な余裕がない人からプロジェクトの継続を応援したい人まで、その人の状況や気持ちに合った価格を選べるように。

エシカルな販売方法とは? 2つの新しい試み。

背景がわかるものを届けたい。

「ひとつのデザインでTシャツを2万枚生産。そのうちの約6000枚が売れ残りとして廃棄する前提でつくられていたことに驚きました」。小森さんは大阪の専門学校を経てファストファッションの企業に就職した20代前半の頃、業界で当たり前に行われていた事実を目の当たりにして衝撃を受けた。

その後、26歳で独立。靴や服を通信販売する会社をつくったが、この頃は低価格で大量生産されたものを仕入れて売っていた。しかし、順調に売り上げが伸びていた2011年、東日本大震災が発生。錯綜する情報のなかから本当のことを知りたいと思うにつれ、食べ物や服などもどのようにしてつくられているものなのか? と背景を調べるようになる。ライフスタイルもオーガニックなものを選ぶように変わっていった。しかし、同時に生まれたのは、自らの仕事に対する葛藤だったという。

「当時扱っていた商品はパンプスで2000円とか、それくらい安価なもの。商品原価は当然もっと安い。ということは、やはり生産工程で環境や人からなにかしらの搾取をしている可能性が高いんですよね。自分がいいと思わないものを売って収入を得ていることの矛盾が精神的につらかった」。心の迷いに引きずられるように、売り上げも顕著に落ち始めた。転機になったのは、旅先で自分の仕事に誇りを持って取り組んでいる人たちに出会ったことだった。ほどなくして、小森さんはそれまでの仕事を「すっぱり」と辞め、環境負荷の少ない草木染のランジェリーブランドを立ち上げる。震災から2年が経った春だった。

人をつなぎ、伝統と今をつなぐ。

2016年夏には東京で実店舗もオープンさせた。お店そのものは数か月で閉めることになったものの、ここで小森さんは新たな出会いと気づきを得ることになった。「ゲストを招いてエシカル消費を考えるためのトークイベントを頻繁に開催したところ、若い人や学生がいっぱい来てくれるようになったんです。彼女らと接するうちにわかったのは、エシカルファッションの業界で働きたくても業界そのものが狭いがゆえに就職先がまったくないということ。それってすごくもったいない。なんとか就職以外の形で若者がエシカルファッションと関わる仕組みをつくれないかと考えるようになっていきました」。

この思いから生まれたのが、志のある若い人たちでチームをつくり、商品のデザインと販売を行うことで独立の足掛かりをつくっていくという『TSUNAGU』の構想だった。「独立した個人が増えていくことで地産地消のような小さな経済圏をつくることができるし、そうなれば環境への悪影響も減らせるはず。若者にとっても、月に数万円でも収入を得られるようになればエシカルファッションに関わり続けることができる」。

2018年「TSU.NA.GU.」と名づけたブランドを新たに立ち上げ、第1弾商品としてつくり始めた本藍染めワンピースやTシャツなどのアイテムは、若手クリエイターチーム『FLAT.』と当時高校3年生だった女子高生チーム『H.O.P.E.』がデザインから前述した売り方までを手掛けた。メンバーのひとりは「やったことのないことだったけど、優美さんに声をかけてもらってチャレンジできたのがうれしかった」と笑う。

「なによりも自分たちでやったという経験こそが大事なこと。次にどうしたらいいかと考えることが成長になるから」。実はすでに第2弾の企画も動き始めているという小森さんだが、商品づくりだけでなく、ゆくゆくは『TSUNAGU』がさまざまな若手クリエイターのためのプラットフォームになることを目指しているという。「クリエイターと消費者や職人、伝統技術と今の技術など、通常はつながらないものをつなげていきたい。サスティナブルな社会をつくっていくために、できるだけの支援もしていくつもりです」。

H.O.P.E. 同じ高校出身の女子4人組のチーム。国際教育プログラム「SAGE JAPAN CUP」でエシカルをテーマにしたビジネスモデルで優勝するなど精力的に活動。
H.O.P.E.
同じ高校出身の女子4人組のチーム。国際教育プログラム「SAGE JAPAN CUP」でエシカルをテーマにしたビジネスモデルで優勝するなど精力的に活動。

「TSU.NA.GU.」の第1弾プロジェクト  徳島本藍染め・海部藍染めのアイテム

日本の古くからの染色法のひとつ、藍染め。
そのなかでも徳島県の本藍染めは伝統製法を守り、品質の高さで知られる。
商品はこの本藍染めと、同じく天然藍を使用する海部藍染めをテーマにしてデザインされた。

徳島本藍染め・ 海部藍染めのアイテム
左上/手描きプリントTシャツ「あい is the new black」・繊細なイラストは『FLAT.』の小林ななこさんが担当。「あい is the new black」のメッセージも。藍のロゴが背面の首元にプリントされたメンズTシャツ「AI」もある。
左中/靴下「倫理的」・特殊なゴムで口ゴムの負担をなくし、かかとはパイル編みにしたことで足をやさしく包む。会話のきっかけになる「倫理的」の文字がインパクト大。
右上/ワンピース「AWA」・一日を快適に過ごせる、軽くて着心地のよいスーピマコットンを本藍染めした。ラップワンピースなので、個人のサイズに合わせて着ることができる。カラーはネイビーとブルーの2パターン。
下/フリンジピアス「WAVE」・美しい徳島の波をイメージしたピアスとイヤリング。海部藍染めしたカラーはブルーとグラデーションがある。少し長めのフリンジで個性的なおしゃれを演出。

cross talk! 小森優美さん×FLAT.

「TSU.NA.GU.」の第1弾商品をつくった『FLAT.』のメンバーってどんな人たち? 商品づくりの話やエシカルへの思いを、小森さんを交えて語ってもらいました。

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これからも、ずっと着たくなる服を。

小森 『TSUNAGU』の全体構想を進めていた段階から『FLAT.』のみんなとはいろんな話をしていて、エシカルについて発信するWebメディアを立ち上げたりしていたんだよね。それから「TSU.NA.GU.」の商品開発の話をみんなに持ち掛けて。
小林 お話をいただいた時はテンションが上がりましたね。伝統的な染めの技術を使って、実際にエシカルな商品づくりに携われるというのはすごくうれしかったし。
小森 みんなで集まって「こういう形がいい」とか「これ、かわいくない?」みたいな感じでデザインしていったよね。ワンピース、Tシャツ、ピアス、靴下も全部同時進行で。
エバンズ そうでした。商品すべてに共通するこだわりは「長く使える」ものにするということ。そこを基準にして、スカートの丈も袖の長さも決めていきました。今だけじゃなくてこれから先もずっと着ていたくなるもの、着ていられるものになればうれしいなと思って。
小林 だから、Tシャツのイラストを描いた時も、大人でも着れるくらいの少女感を出したいなと思って気をつけたり。
エバンズ 素材にもこだわったよね。余った布ってファッション業界では廃棄物になってしまったりするけど、そういうものから小物をつくるのっていいんじゃない? ってことで、フリンジピアスの糸に使ったし。
小澤 エシカルファッションって、もともと手間がかかっているものだから値段がすごく高くなっちゃう。そうするとターゲットの年齢層も高くなるからどうしてもそういう世代向けのデザインになりがち。だから、もっと若い人が「かわいい!」っていうところから入ってもらえるようなデザインにしようというのもあったよね。
エバンズ そうそう。価格も、私たち世代も手に取れるように3種類の価格を設定して、自分にあった価格を選ぶことができるようにね。

職人さんのものづくりの覚悟。

小森 商品づくりをやってみて、印象的だったことはある?
宇都宮 私は徳島県に行って藍染めの職人さんと、藍を育てている2か所の農家の方を訪問したのが印象的だったかな。すごく心に響いたのは本藍染めの職人さんの言葉。「本藍染めを使うんだったら本当にいい布を持ってきなさい」とか、「若い人に届けるためのプロジェクトをやるなら素材は本物を選びなさい」とか、芯のある話をしてくださって。覚悟を決めてものづくりをしている人っていうのはやはり違うんだなと。
井上 私の場合、こんなに本気でものづくりができる環境があることに、感謝の気持ちが湧いてきました。それに、つくり手が純粋な気持ちでつくったものは、それを受け取る人たちに必ず伝わっていくんだなって実感できたんですよね。
松浦 ひとつの製品ができるまでに長い時間といろんな人の思いがこもっていることを知ると、前から着ている服も大事に使うようになるよね。着方とか長く着続けるための洗濯の方法とか保管の方法とか、そういったところを気を使うようになって、物を大切にする心がけが改めて身についたと思う。

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上/本藍染めを行う『本藍染矢野工場』の藍窯。丸い泡状のものは染液を攪拌した時にできる「藍の華」。左/海部藍染めを行う『トータス』の自然農法の藍畑。右/Tシャツの藍染めを依頼した『inBetweenBlues』のスタジオの様子。(写真:maniaochi)。

エシカルと、もったいない精神。

エバンズ エシカルって直訳すると「倫理的・道徳的」っていう日本語になるけど、それってみんながもともと持っている気持ちなんですよね。「エシカル」って、ワードとしては新しいかもしれないけど、日本には昔から“もったいない精神”というものがあるし、それをまた思い出そうよっていうことだと思う。
小澤 私は服を買う時だけでなく、手放す時も気をつけることにしてる。私が着なくなったヴィンテージの服をインスタにポストして、欲しい人から直接DMをもらうっていうものを「エクスチェンジ・ストア」と言ってやっているんですけど。
エバンズ もらったほうもその服を大事にするし、いいよね。そこにストーリーも生まれるし。
宇都宮 私、もらいました!(笑)。それに、ストーリーがあるという意味ではエシカルの商品と同じだよね。ところで私が常々思うのは、エシカルの世界観が好きでいながらも、それはファストファッションを批判しているわけじゃないってこと。あくまでもエシカルという選択肢を提示するだけで、そのメッセージを受け取った人たちが次にどんな選択をするかっていうのは任せているので。
全員 わかる、それは大事なことだよね!

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photographs by Masaya Tanaka
text by Atsuhiro Isoki
special thanks to KAKULULU

本記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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小森優美

こもり・ゆみ●1983年生まれ。アパレル企業のデザイナーとして就職後、2010年に独立。2013年草木染のインナーブランド『Liv:ra(リブラ)』を開始。2018年社団法人『TSUNAGU』を設立。併せてブランド「TSU.NA.GU.」を立ち上げる。以後、エシカルプロダクト・デザイナー/ディレクターとして活動中。