黒﨑輝男さんに聞く、「エクスペリエンス」ツーリズム。東京の「自然」を生かす、新しい観光とは。
2019.08.22 UP

黒﨑輝男さんに聞く、「エクスペリエンス」ツーリズム。東京の「自然」を生かす、新しい観光とは。

NEWS PR

東京都と(公財)東京観光財団が実施する『Nature Tokyo Experience』は、東京の多摩地域と、伊豆諸島や小笠原諸島など島しょ地域の自然を活用した、新しい体験型・交流型のツーリズム開発を応援する事業です。

9月4日に都内で開催される「Nature Tokyo Experience キックオフミーティング~多摩・島しょ地域における新たなツーリズム開発支援~」では、現在参加者を募集中です。
この「キックオフミーティング」で講演をされる『流石創造集団株式会社』CEOの黒﨑輝男さんに、これからの新しい観光のあり方やローカル事業の継続に必要なこと、さらには地域に入っていくときに心がけるべきことを伺いました。

名所・旧跡はなくても、「農作業」を体験することに価値がある。

ソトコト 旅行・観光業は年々変化しています。黒﨑さんは今の旅行・観光業をどう見ていますか?

黒﨑 ここ数年、「トラベル・エクスペリエンス」、つまり、体験型の旅行が注目されています。自然体験、農業体験、工芸体験などいろいろな体験を楽しむ旅です。一昔前は、温泉旅館に宿泊し、その周辺を観光して帰るというスタイルが一般的でしたが、そうした旅のスタイルが、とくに若い人たちの間で変わってきました。

個人的な考えかもしれませんが、星がいくつもついた高級ホテルの形式張ったおもてなしに私はなじめません。それよりも、「エクスペリエンス=体験」をとおして、自分がいかにクリエイティブになれるかが、今どきの旅や観光に必要な要素だと思います。遊び心にあふれ、地元の人との出会いも楽しめるような。

ソトコト 具体的にはどんな場所があるでしょう?

黒﨑 たとえば、人口170人ほどの石川県小松市滝ヶ原町の限界集落で、古民家6軒と11ヘクタールの畑を譲り受けて、築130年の古民家をリノベーションしたファームハウス『TAKIGAHARA FARM』です。私が中心となって運営する『北陸古民家再生機構』が協力しています。


同じ敷地内では、『TAKIGAHARA HOUSE』という築80年の石蔵をリノベーションした1組限定の宿泊施設と、滝ヶ原町産のそば粉を使ったガレットがおいしい『TAKIGAHARA CAFE』も運営しています。


『TAKIGAHARA HOUSE』には外国人観光客が多く宿泊しますから、集落の人たちは外国人とコミュニケーションを取ろうと、まちの英語学校で英語を習ったりしています。「ハロー」と訛りのある英語で外国人に話しかけ、会話を交わしている様子を目にすると、ほのぼのとした気持ちになります。

滝ヶ原
滝ヶ原
石川県小松市滝ヶ原町にある『TAKIGAHARA FARM』。人々が受け継いできた里山の風景、美しい四季、自然を楽しむことができる。

ソトコト 名所・旧跡がなくても、「観光客」はやって来るのですね。

黒﨑 そのとおりです。スーパーマーケットさえない滝ヶ原町では、旅行に来てもお金を使うところがありません。でも、畑で農作業を体験することができます。

建物のインテリアや家具にも凝っているので、屋内で過ごすのも心地いいはずです。今は、和紙と漆器と九谷焼の工房を建設中です。製陶場は、建築家の隈研吾さんに設計していただきました。その工房で焼き物を焼くこともできます。そういう体験型の旅が、休暇や人生をクリエイティブで豊かなものにしてくれると考えています。

建物、空間、食べ物など、訪問客がふれるものはさりげなくデザインし、心地よく過ごしていただくための仕掛けをほどこしています。何が本当の贅沢なのか、私たち流の一つのかたちを『TAKIGAHARA HOUSE』で提案しているつもりです。

地域にある素材。それをどう生かすか、知恵を絞る。

ソトコト 観光業にしろ、一次産業にしろ、ローカルで事業を立ち上げ、継続していくのは簡単ではありません。心がけるべきことは何でしょうか?

黒﨑 知恵を絞ることです。例えば、東京・国連大学前で毎週末開催している『Farmer’s Market@UNU』に、千葉県から出店している『RYO’S FARM』はパッションフルーツをつくる農園です。園主の梁寛樹さんは大企業のメーカーに勤めていたけれど、サーフィンが大好きだったこともあって館山市に移住し、ゼロから農業を始めました。

パッションフルーツの実が落ちないようにクリップで留めて樹上で甘く完熟させたり、ファーマーズマーケットで出会ったお客さんが教えてくれたパッションフルーツバターを商品化して販売することで冬季の収入源としたり。農業の素人だったのですが、知恵を絞ることでおいしいパッションフルーツをつくり、暮らしを成り立たせています。そういう知恵の絞り方は、観光業でも必要です。

また、外国人の視点で見ることも大事です。私は年に15回ほど海外を旅し、とくにアメリカ・ポートランドは『TRUE PORTLAND』というガイドブックを出版するほど大好きなまちです。外国の若者とつきあっていると、日本人の視点では気づかなかった地域の魅力が、再発見できるのでおもしろいです。

ソトコト 東京で注目しているところはありますか?

黒﨑 以前、スウェーデンの若者3人と、東京・伊豆諸島の新島に遊びに行って3泊したのですが、美しい崖の上でボーッと座って海を見て過ごしたり、『saro(サロー)』という当時あったゲストハウスで本を読んだり、露天風呂に出かけたり、夜は地元の若者とバーベキューを楽しんだりしました。

人から与えられる旅ではなく、自分がしたいことをし、行きたいところに行き、自由に新島を満喫していました。ガイドブックに頼る旅ではなく、自分の体験から知る「クラフトで、ヒューマンで、オーガニックなもの」を旅先で発見してほしいのです。新島の美しい崖の上でボーッと座って海を見て過ごすのも、そんな体験の一つ。スウェーデンから来た彼らは自分だけの新島を発見したと思いますよ。

一方で、事業者に対してですが、地域に何か施設をつくろうとするとき、もともとその地域にあるものを活用するという姿勢が大切です。廃業した温泉旅館をリノベーションして若者が集まるゲストハウスに変身させたり。地域の文化や人々の生活習慣とともにあったものを活用することで、地域の人たちも喜ばれます。

東京・伊豆諸島の新島の美しい海岸。高速船を使えば、東京から約2時間20分で行くことができる。©️(公財)東京観光財団
東京・伊豆諸島の新島の美しい海岸。高速船を使えば、東京・竹芝から約2時間50分で行くことができる。©️(公財)東京観光財団

都心の延長線上にある、「日常に溶け込む自然」。

ソトコト 地域で事業を始めるとき、地域と事業者の「橋渡し」となるプレイヤーの存在も重要ですよね?

黒﨑 重要です。とくに大切なことは、地域への入り方。私たちが滝ヶ原町に入るときも不安を与えないように、地域の皆さんをお招きし、お酒を酌み交わし、ご飯を食べながら、私たちの集落や古民家に対する思いを丁寧に話すことで、事業の主旨を理解していただくことができました。

そういうとき、両者を「橋渡し」してくれる方に間に立ってもらえたら、事業はよりスムーズに進むと思います。私の友人の清田直博さんは、2016年に東京・世田谷区から多摩地域の檜原村に移住した、「橋渡し」にもなれるプレイヤーです。

 黒﨑輝男さん(左)と、東京・檜原村へ家族で移住し、村の非常勤職員などとして活躍するキーパーソンの一人、清田直博さん(右)。
黒﨑輝男さん(左)と、東京・檜原村へ家族で移住し、村の非常勤職員などとして活躍するキーパーソンの一人、清田直博さん(右)。

ソトコト その清田さんですが、黒﨑さんのお声がけで、9月4日のキックオフミーティングも参加していただけるそうですね。

そして、実は今日も来ていただきました。清田さんはどんな経緯で檜原村へ移住されたのですか?

清田 私は都心で編集やデザインの仕事をしていましたが、子どもが生まれたことを機に、子育ての環境としても、また、憧れていた農的なライフスタイルの実現の場としてもふさわしい檜原村に移住しました。

現在は、檜原村の非常勤職員として観光情報発信を担当しながら、編集・デザインの仕事と、最近は「麦ストロー」もつくっています。檜原村はもともと麦をつくっていた文化があり、今もつくっている農家さんから麦わらをいただいたり、自分たちでも栽培しながら、手作業でつくっています。まだ試作段階ですが、これもローカルのクラフトです。地域の農家のスモールビジネスとして広げていければと考えています。

ソトコト 地域と都会をつなげるキーパーソンとしても、清田さんは期待されているようですね。

清田 地域と都会との「橋渡し」的存在の大切さに関しては私も同感です。地域の人たちは地域を盛り上げるためにも「地域の外から来る人」に期待していますが、誰でもいいと思っているわけではありません。とくに事業として参入するときは、うまく橋渡しできる人に頼ることをおすすめしたいです。檜原村なら私も「橋渡し」をさせていただきます。ちょうど去年に都心のアウトドア好きな仲間が会員制のキャンプ場をオープンさせたところで、この夏も賑わっています。

檜原村を含む多摩地域は、都心から1〜2時間と意外と近く、日常と非日常を連続させたライフスタイルを実現することができます。「日常に溶け込む自然」が感じられることが多摩地域の特徴です。

山ではマウンテンバイクやトレイルラン、川では釣りやラフティングなど、同じ東京とは思えないほどの豊かな自然のアクティビティを楽しめます。そんな多摩の魅力をもっと多くの人に知ってほしいです。檜原村では2018年に国のエコツーリズム推進地域にしていされて『東京ひのはらんど』というツアー情報サイトを立ち上げ、様々な体験型のエコツアーを提供しています。

東京・多摩地域に位置する自然豊かな檜原村。村の9割が森。都心から2時間足らずで行くことができる。©️(公財)東京観光財団
東京・多摩地域に位置する自然豊かな檜原村。村の9割が森。都心から2時間足らずで行くことができる。©️(公財)東京観光財団

黒﨑 多摩地域も島しょ地域も、都心から近く、クリエイティブな旅が楽しめるエリア。それぞれの自然や文化を「体験」できる旅を演出してくれる事業者が現れるよう、期待し、応援もします。

Nature Tokyo Experience
9月4日(水)、キックオフミーティングを開催します!

豊かな山々に囲まれた多摩地域、青空と海が広がる伊豆諸島や小笠原諸島の島しょ部。これらのエリアでは、東京の「自然」という、都市部とは違った魅力を感じることができます。そんな東京ならではの「自然」に注目し、体験型・交流型の新たなツーリズムを開発する事業を応援するプロジェクトが「Nature Tokyo Experience」です。現在、令和元年度の事業を募集中(2019年10月15日まで)。
9月4日(水)・13:30〜16:00(13:00受付開始)、『3×3Lab Futureサロン』(東京都千代田区大手町1-1-2 大手門タワー・JXビル1階)で「Nature Tokyo Experience キックオフミーティング~多摩・島しょ地域における新たなツーリズム開発支援~」を開催します。
新たに体験型・交流型の観光事業を始めようとしている事業者、多摩・島しょ地域の市町村観光担当者、観光協会・観光まちづくり団体、各種メディアの皆さんを対象に、ツーリズム先進事例の紹介や昨年度採択事業の紹介、講演、交流会を行います。ぜひ、ご参加ください。
詳細や参加申し込み方法は、公式ホームページをご覧ください。
公式サイト:https://www.naturetokyoexperience.com
イベント申し込みページ:https://forms.gle/tXf3yQVfgM7uPNQg7

キーワード

黒﨑輝男

くろさき・てるお●1949年東京生まれ。『IDEE』創始者。オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。 「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。2005年、『流石創造集団株式会社』を設立。廃校となった中学校校舎を再生した『世田谷ものづくり学校(IID)』内に、新しい学びの場『スクーリング・パッド/自由大学』を創立。「Farmers Market @UNU」「246Common」「IKI-BA」「みどり荘」「COMMUNE 246」などの「場」を手がけ、新しい価値観で次の来るべき社会を模索しながら起業し続けている。