憂国呆談 season 2 volume 110
2019.08.05 UP

憂国呆談 season 2 volume 110

SOCIAL

災害への備えから、
G20大阪サミット、
米朝首脳会談で見えてきた
「蚊帳の外」まで。

神奈川県三浦市にある小さな出版社『アタシ社』。
その編集長・ミネシンゴさんが運営している、週末だけオープンする蔵書室『本と』を訪ねた田中氏と浅田氏。
鮮魚店やドーナツ店がある三浦市の商店街を抜けて三崎港まで散歩した後、『本と屯』に併設するカフェのアイスコーヒーを飲みながら、頻発する自然災害の話題から対談を始めた。

災害報道は表面的。
本質論を語るべき!

浅田 今日は三浦半島・三浦市の三崎港にある出版社『アタシ社』の蔵書室『本と屯』に来てる。泉岳寺や品川から京浜急行電鉄で三崎口まで1時間あまり、そこから三崎港までバスで15分ほど。それにしては、東岸の横須賀や西岸の葉山までとはまた違う別世界だね。『アタシ社』では、ここに住んだことのある作家のいしいしんじが住民や訪問者との交わりを描いた『みさきっちょ』を出してて、すごくおもしろい。有高唯之の撮った住民の肖像写真集『南端』も魅了的。カフェも併設されてるんで、コーヒーなんかを飲みながら、他社の本も含む蔵書を読むこともできる。

田中 以前は船の道具を取り揃えていた店で、築90年以上の建物。テレビ東京で放映されたドラマ『ユニバーサル広告社』のロケで、主演の沢村一樹の家に設定されたのもこちら。妻と僕が『微熱なバナナ』や『おいピータン‼』の頃からお気に入りな伊藤理佐のパートナーの吉田戦車が描いた入口の暖簾もいい雰囲気だ。
 三浦半島東南端の風光明媚な剱崎には東京湾の浦賀水道を照らす灯台がある。朝鮮アザミとも呼ばれる園芸作物のアーティチョークを栽培する畑の先にそびえる灯台は、幕末期に米英仏蘭4か国と結んだ取り決めで建設された全国8か所の1つ。関東大震災で倒壊して再建した現在の灯台には1991年まで灯台守の家族が暮らしていて、20代の頃には僕もドライブでしばしば訪れたお気に入りの場所だよ。その近くに家を建てて、貨物船で料理長を務めていたような年輩の人を雇って海を眺めながら昼間からワイン三昧を夢見たけれど、肝心の軍資金が一向に貯まらず今日に至っている(苦笑)。
 それにしても今日は蒸し暑いね。九州南部は激しい豪雨に見舞われているけど、「自らの命は自らが守らなければならない状況を認識して、地域住民は早めの避難を」と気象庁が会見したのには驚いた。3月号で浅田さんが「すべては1979年から始まった」と触れたように鄧小平の下で中国が市場経済を導入し国家資本主義に踏み出したのも、マーガレット・サッチャーが英国首相になって経済的新自由主義が席巻し始めたのも同年。その9年後に彼女はロイヤルニュースやファッション、美容を扱う雑誌『ウーマンズ・オウン』のインタヴューで「もはや社会なんてものはない(There is no such thing as society)。自分で自分の面倒を見るのが国民の義務だ」と身も蓋もない発言をするのだけど、国土交通省の外局の気象庁も「自己責任論」を語る時代に突入するとはね。おんぶに抱っこの甘えではなく自ら律する自律の意識は大切だけど、以前から口を酸っぱくして述べているように「減災」の肝心要は維持と修繕だよ。ところが、過去に決壊した堤防の内側に鋼矢板を打ち込んで補強する欧米や韓国と違って日本の堤防は砂利と土以外を認めない「土堤原則」で脆弱そのもの。地元業者が担当可能な河床掘削と呼ばれる浚渫も滞っている。その矛盾をメディアも指摘しない。

浅田 去年の西日本豪雨で多くの家屋が浸水被害を受けた倉敷市真備町の小田川も、高梁川と合流するあたりは大きく湾曲してて、昔から頻繁に洪水が起こる危険地域だったのに、対処できてなかった。他方、2013年の台風18号で京都の桂川が嵐山周辺で氾濫したことを教訓に、遅まきながら浚渫工事を進めたおかげで、去年の豪雨のときはちょっと溢れただけでほとんど被害はなかった。

田中 治水に関する師匠として僕が敬愛する京都大学名誉教授の今本博健の門下生が近畿地方整備局で踏ん張った成果だね。ダムがなければ流域住民の生命と財産を守れないと八ツ場ダム計画が起案されたのは今から67年前だよ。小さく産んで大きく育てるのが公共事業だといて、知らないうちに規模は東京ドーム87杯分もの総貯水量へと拡大し、未だに建設中だけど、優先順位を間違えてる。フィンランドに次いで森林が国土面積の3分の2を占める日本は、荒廃した針葉樹の間伐を行うと同時に、保水力のある広葉樹との針広混交林にしていくべきなのに、3000億円に満たない林野庁の予算の92パーセントは大規模林道やコンクリートと鋼鉄で造る谷止め工に使われて、森林整備に向けられるのはわずか8パーセント。しかも国交省は6兆円、農林水産省が3兆円の予算規模。何をか言わんやだよ。山自体が削り取られる深層崩壊が発生するのも、羊頭狗肉な治山や治水がまかり通っているから。公共事業のあり方を変えることこそ急務。実際問題、台風や集中豪雨の頻発だけでなく、夏の気温も異常なほど高くなってきている。日本に限らず、6月にフランスで45・9度という観測史上最高となる気温を記録した。

浅田 アジアではモンスーンが遅れて15パーセント以上の水不足、猛暑で死者も出てたのに、雨期になったとたん、インドのムンバイをはじめとする各地で豪雨による災害が続いてる。思えば、去年、「大京都」と称する小規模な地域アート・フェスティヴァルが京田辺市であって、アーティストが天井川に橋を架けたのに豪雨で撤去を余儀なくされたかと思ったら、翌週、ぼくがトークに行ったときは気温が38度を記録、線路温度が59度に達してJRが運行を停止する騒ぎだった。今年は梅雨のおかげでまだそれほど暑くないけれど、世界的に豪雨と猛暑が交互に来るような気象になっちゃったのか。
 東日本大震災の被災地は、復興の名の下にスーパー堤防だらけになって、海も見えない場所が多い。高さ20メートルの堤防をつくったところで、それより大きな津波が来たら終わりなんだけどね。他方で、伊東豊雄らの『みんなの家』は、建築家のアイディアを押しつけず、住民が復興の構想を語り合う場所としてつくられたけれど、住民からは「昔の町並みが懐かしい」っていうような声しか出てこないことが多いんで、むしろ自分たちでは思いつかないアイディアを建築家に期待してるわけだよ。暴走する土木資本主義と、コミュニティ尊重って名の偽善の間で、自然と共生するラディカルな建築や都市のヴィジョンが求められてるのに。

田中 音楽は聴きたくない人は聴かなくていいし、本は読みたくない人は読まなくていい。だけど建築は目が不自由でない限りは、街のなかで否応なしに目に入る。だから景観というものがあって、先駆的な取り組みであると同時に多くの人々を不快にさせない、その両方のアウフヘーベンをしなければいけない。善くも悪くも天才的な人物が塩梅を決めるしかないんだよ。

浅田
 批判はあるけど、丹下健三から磯崎新、そして安藤忠雄あたりまでは、日本の建築は世界的に注目される水準を維持してきた。しかし、磯崎新が発見し、安藤忠雄が新国立競技場の設計者に選んだザハ・ハディドの案を安倍政権が一方的にキャンセルし、隈研吾+大成建設の案を選び直した段階で、建築家はクライアントや建設会社にとって使いやすい駒がいいってことになっちゃった。やり直しコンペの対抗馬だった伊東豊雄も、いま言った『みんなの家』じゃ村上春樹風のムード文学にしかならないし、伊東の流れを汲む若手も「都市の隙間でもうまくシェアすれば楽しい『みんなの家』や『みんなのオフィス』になる」って感じの話ばっかり。脱成長時代のリアリズムなんだろうけど、ラディカルとは言いがたいんだなあ。

田中 しかもめ行政側に用意された安全地帯での「リアリズム」だから地に足が着いていない。街場で住宅建築をやっている建築家のほうが、そこで生活する人間に根差している分、リアルだったりする。

浅田 むしろ、ザハ事件や病気を乗り越えた磯崎新や安藤忠雄が、俄然ラディカルになってきたのはおもしろい。なにしろ、何でもやりたがりそうな安藤が、大阪万博反対を貫いてるんだから。逆に、自分が筆頭になって寄付を集め、大阪に『こども本の森 中之島』を建てつつあるし、ほかの場所でも同じようなプロジェクトを進めつつある。若手にも見習ってほしいな。

文在寅韓国大統領の、
米・朝・中を立てる外交力。

田中 6月にG20大阪サミットが開催された。いったいどういう外交儀礼=プロトコールの判断基準だよと驚いたのは、首脳が並んだ集合写真で安倍晋三首相の横にサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MbS)がいたこと。しかも皇居で徳仁天皇と会見もしている。被災地だけでなく沖縄をはじめとする国内外の戦地や広島、長崎、水俣、さらにはハンセン病療養所へと祈りの旅を続けた明仁上皇と美智子上皇后は、安易な皇室の政治利用に怒り心頭だと思う。

浅田 安倍政権は、天皇の代替わりを政治利用したあと、普通は秋のG7の後に開かれるG20も参議院選挙前に持ってきて宣伝に利用しようとしたけれど、うまくいったとは言いがたいね。とくに、自分を批判するジャーナリストの殺害を命じたと思われるサルマンが派手な衣装で首脳たちのド真ん中に立つ構図はまずかった。首相周辺のセンスを疑うよ。

田中 外務大臣の河野太郎は大勢の首脳が映った写真をツイッターに添付して、「河野太郎はどこにいるでしょうか」と、初級編・中級編・上級編のクイズ形式でハッシュタグ「タローをさがせ」を付けて連続投稿していて脱力したよ。「政治家は歴史法廷の被告である」と語る御年101歳の中曽根康弘翁が知ったら微苦笑するね。ところがツイッター依存症で知られる外相は、自分を褒め称える投稿には「いいね」を押す一方、少しでも批判的な投稿者は即ブロックするらしい。彼に言及した他人のツイートを単純リツイートしただけでブロックされた一般の被害者も続出らしい。ホームページ更新の告知をツイートする田中康夫事務所のアカウントも外相はブロックしていると最近になって発覚。他方で僕のアカウントは"お咎めなし"。その二重基準は理解に苦しむよ(苦笑)。
 しかも、G20では8秒間しかホストに握手してもらえなかったと日本の「誤送船団・記者クラブ」が小馬鹿にした文在寅大統領が、サミット翌日にドナルド・トランプ大統領とソウルの青瓦台で共同会見に臨み、板門店で38度線を越えてトランプが北朝鮮に足を踏み入れ、韓国側の施設『平和の家』での金正恩委員長と行った米朝首脳会談の後半には文在寅も交えての三者会談となった。「蚊帳の中」だと思っていたのに「蚊帳の外」だった外務省は右往左往。なのに、その間も外相は霞が関版「ウォーリーをさがせ!」を連続ツイートしていたと(涙)。非武装地帯(DMZ)に日本の首脳も「駆け付け警護」で同行してこそ地球儀俯瞰外交の大チャンスだったのに。

浅田 トランプは大阪で「金委員長がこれを見ているなら、境界線/非武装地帯で握手してあいさつする用意がある」とツイートし、金正恩も即座にそれに応じた。トランプは大阪で文在寅にも「ツイートを見たか」と言い、親指を立てて合図してみせた。他方、安倍は蚊帳の外。それどころか、文在寅との大阪での首脳会談を断り、翌日、板門店のニュースが世界を賑わす中で、日本は半導体製造に必要なフッ化水素等の輸出に関して韓国への友好国としての優遇措置を打ち切ると発表した。ただちに輸出制限をするわけじゃないけど、今後はいちいち許可申請を出すように、と。戦時中の朝鮮人徴用工に対し日本企業に賠償を命ずる韓国大法院の司法判断を文在寅が放任してることへの報復だろうけど、G20議長として自由貿易の堅持を謳った直後に、政治問題を貿易に持ち込んでこういう荒業に出るのはいかにもまずい。

田中 しかも7月12日に経済産業省で、簡易イスが積み上げられた殺風景な部屋の折り畳みテーブルを挟んで日韓両国の担当課長が向かい合い、「輸出管理に関する事務的説明会」と日本語のみが記された紙切れをホワイトボードに貼り付けて行った会合の設定も、あまりに子どもじみた発想と対応で呆れたよ。二百歩譲って韓国が無体な要求をしているとして、ならば国際社会にアピールするうえでも会合名を朝鮮語と英語でも記すべきでしょ。「おもてなし」の精神で来年の猛暑にはオリンピックを開催予定なのに、「気は心」の欠片すら感じられない。事務レヴェルの話し合いとはいえ、サウジアラビア皇太子への過剰プロトコールとは雲泥の差。倉庫のような絵面を各国のメディアが報じるだけでも、もしや居丈高に喧嘩を売ってるのは日本だったのか、と思われても仕方がない。
 38度線での米朝会談は、文在寅が動かなければ無理だった。トランプのスタッフがツイッターにアップしたソウルの米軍基地から板門店に向けて移動するヘリコプターからの映像は誰もが感動する。それを日本のメディアは「文は蚊帳の外だった」と報じていたけど、金と文が抱き合い、あの癇癪持ちなトランプが微笑んでる映像がある。今回、文は北朝鮮側に足を踏み入れなかったし、前半の首脳会談に介添えとしての同席もしなかった。それは韓国が蚊帳の外なのではなく、習近平への配慮。朝鮮戦争は米朝韓中4か国の戦いだった。ところが実質的な終結宣言に当たる今回のパフォーマンスに習は立ち会えない。なのに文が出しゃばれば、権力闘争がお家芸な中国で習は苦しい立場に追い込まれる。それらをすべて理解したうえでの立ち振る舞いは評価に値する。俺が俺が、の日本の大臣クラスは爪の垢を煎じて飲ませてもらうほうがいい。

浅田 韓国への賠償については、徴用工問題を含め、確かに1965年の請求権協定で一応片は付いてる。ただ、法的問題の前に、日本が歴史的責任を感じてるってことは態度で示すべきでしょう。現に自民党を含む歴代政権はそうやってきた。それが安倍政権にはまったくない。むしろ、自分が被害者であるかのように、韓国からとっくに片付いたはずの賠償問題を蒸し返されるのは耐えられないってヒステリーを起こす。隣国を植民地化なんかしたら100年たっても恨まれて当然なのに。

田中 大日本帝國総督府が創氏改名を強いた過去は素直に認めないとね。沖縄返還でノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作は岸信介の弟だけれど、その佐藤の首席秘書官を務めた産経新聞出身の楠田實は「本土復帰」に裏方として尽力する。けれども退任後の1995年、米兵の少女暴行事件に県民が怒り悲しむのをみて、「復帰後、日本政府も巨額の公共投資をして、まちなみも以前とは比較にならないくらいに近代化した。しかしそれとても沖縄県民の魂の飢餓感を満たすものではない」と手記に書いているんだね。

浅田 上皇が皇太子時代に初めて昭和天皇の名代として沖縄を訪れ、「ひめゆりの塔」の前で火炎ビンを投げつけられたあと、「多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものでなく、人々が長い年月をかけて、これを記憶し、一人一人、深い内省の中にあって、この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません」っていう声明を出した。天皇の代替わりをあれほど政治利用するのなら、この言葉を思い出してほしいね。
 韓国についても同様。軍事独裁政権を倒して民主化し、65年の日韓基本条約・請求権協定を結んだ朴正煕大統領の娘である朴槿恵大統領の専横を批判して政権交代を成し遂げた。そんな韓国の文在寅政権が逆ブレするのは隣国として困ったことではあるけれど、保守本流っていうのなら、いちいち喧嘩腰になるんじゃなく、横綱相撲で受け止めるべきでしょう。

田中 まったくだ。「蚊帳の中」だと思いたいならなおさらのこと、「タローを探して」いる場合じゃないよ。

浅田 ついでに言うと、G20は6月28日・29日だったのに、20日から京都駅のコインロッカーが使用禁止になって、大荷物をもった外国人旅行者が立ち往生してた。大阪駅ならまだしも、京都駅、さらには名古屋駅や広島駅でも使えなかったとか。こんなことで観光立国なんてとても無理(苦笑)。お上が決めたことだから下々は不便なことがあっても文句を言うな、と。これじゃ来年の東京オリンピック・パラリンピックが思いやられる。都内のあらゆるコインロッカーは1か月間ぐらい使えないんじゃないか。安倍政権が維新の会へのプレゼントとして大阪でG20を開いたんだろうけど、市民にとっては大迷惑で、会場のある住之江区の人工島・咲洲は厳しい交通規制が課されたから、透析患者を病院に運ぶバスが運行中止になって、病院近くでの宿泊を強いられた例すらある。今後サミットは北海道・洞爺湖や三重県・賢島のような場所に隔離するしかないね。

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田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。