「有田みらいタウン」
2021.02.19 UP

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか | 57 「有田みらいタウン」

DIVERSITY

 佐賀県西部に位置する町・有田町。日本の伝統工芸品として有名な有田焼の産地と聞いて、ぴんとくる方も多いだろう。1616年に朝鮮人陶工の李参平らによって泉山に陶石が発見され、日本で初めて磁器が焼かれて以来、佐賀藩のもとで磁器生産が本格化した。

 町土の約7割を森林や山岳が占め、有田川が町を分断するように伊万里湾へと流れる。町の面積は65・85平方キロメートル、人口は1万9501人で7809世帯(2020年12月31日時点)。有田焼の印象が強いが、県下有数の畜産地、そして稲作地でもあり、棚田という傾斜地にある農作地の景観が美しい。2006年3月1日、やきものの町である旧・有田町と農業の町である旧・西有田町が合併したことにより、有田焼と農業の町として器と食の魅力が折り重なる。谷間に「有田千軒」と呼ばれる町並みが形成され、いまもなお歴史的価値の高い建物が数多く残る。伝統と歴史、豊かな自然に恵まれたこの町に「有田みらいタウン」が誕生した。

 政府・地方公共団体・民間のデジタル化を牽引するためにデジタル庁の創設準備が進んでいるが、「有田町の考える未来型のまち=有田みらいタウン」においても、デジタル庁同様にDX(デジタル・トランスフォーメーション)、すなわち、デジタル技術による業務や社会の変革が欠かせない要素となっている。DX推進というと、ビジネスや自治体システムの効率化に注目が集まるが、それと併走し、有田の文化や風土と共存する「デジタル化と心身がととのう」ことを重要なコンセプトに据える。

「有田みらいタウン」では、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(リベラルアーツ、または芸術)、Mathematics(数学)を統合する教育手法であるSTEAM(スティーム)教育の推進や子育て支援、フードロス問題、テレワーク体制の整備などにチャレンジする。また、DX化を通して有田町と関係する人(関係人口)を町外に増やすことを目的とした「DX人口」づくりを進め、有田の伝統工芸や自然との調和を取り入れた教育制度、ワークスタイルの提案も行っていく。

 町民と町外の人々がコミュニケーションを築くためのデジタルであり、デジタル化を目的とはしない。デジタルが主役ではなく、誰もが豊かな人生を送るうえでの格差の解消や新しい有田町の価値を創造するための手法とし、人間らしい“あたたかさ”を大切にしたまちをつくる。それが「有田みらいタウン」が考える未来であり、デジタル=未来ではない。

 僕はこの「有田みらいタウン」のタウン長に就任した。“デジタル化タウン”と“ととのうまち”を基軸に、デジタル技術で都市との格差を解消し、ボーダレス化を目指すと同時に自分をととのえる、生活環境をととのえるまちを実現したい。

 実在する町の中に生まれた「未来の仮想まち」。仮想がやがて現実に置き換わり、“あたたかい未来のまち”として発展することを願い、未来型まちづくりのグランドデザインを描いていく。

文●小川和也

記事は雑誌ソトコト2021年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行いJ-WAVE『FUTURISM』で番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。また、実業と学術を往来し多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)