前職で全国の百貨店を訪れ、移住・開業を志す
2016年、生まれてからずっと暮らしてきた東京都調布市を離れ、岡山市に単身移住し独立開業した井坂さん。きっかけは前職での経験だったという。
井坂さん「イタリア輸入食材会社で約10年、全国の百貨店を回って販売する仕事に携わりました。北は北海道から南は九州まで行きましたね。催事やフェアだと1〜2週間は滞在するんですが、仕事終わりに飲食店へ行くのが楽しみで。この仕事で初めて訪れたのが愛媛県松山市だったんですが、ここで地ビールの美味しさに出会い、それから全国を回るたびに各地のビールを飲むようになりました」
元来、食べることも旅も好きだった井坂さんにとってこの上ない仕事だったが、ある街で訪れた店に感動し、独立開業を志すように。
井坂さん「福岡県北九州市の小倉で入った角打ち(立ち飲みの店)がすごく印象的で。狭い店内に地元の人も県外客も一緒に並んで酒を酌み交わして、家族みたいにアットホームなんです。こんな店をいつか自分もやりたいな、と思いました」
47都道府県から岡山市を選んだ3つの条件
仕事で全国を回りつつ休日もプライベートで旅をして、遂に47都道府県を制覇。そんな井坂さんが独立開業する場所を考え始めたとき、なぜ地元の東京でも、きっかけを与えた北九州の小倉でもなく、岡山市を選んだのか。
井坂さん「東京だと友達も多いし、困った時に頼って依存したくないなと。それに自分がやりたいイメージの店が既にたくさんありました」
また、井坂さんが移住・開業先として検討する際に、外せない条件が3つあったという。
- 新幹線が停まる
- 電車のアクセスが良く旅に便利=人が集まりやすい
- Jリーグのチームがある
学生時代から持ち続ける「世界中に友達をつくりたい」という夢を叶えるため、地域の人だけでなく、観光客や外国人も訪れやすい場所。さらにサッカー観戦も趣味で、応援できる地元チームがあるのが理想だったという。
井坂さん「この条件には小倉もあてはまるんですが、自分が飲み歩いてしまいそうで(笑)。遊びに行く場所として取っておきたいなと。それで、仕事で訪れたことがある岡山市が思い浮かんだんです」
確かに岡山駅は新幹線が停まり、駅前から歩いて繁華街に行ける。サッカーJ2リーグのファジアーノ岡山もある。
生まれ育った東京を出て、たった1人新天地へ
岡山市での独立開業を考え始めて最初に相談したのは、意外にも前職の社長だった。
井坂さん「経営者の先輩として今でも応援してくださっていますが、その時も『だったら事業計画書を作るといいよ』とアドバイスしてくれました」
前職を退職してからは、ビールバーでのアルバイトで美味しく注ぐ技術を身につけたり、アンテナショップで働いて食材の知識を蓄えたりしながら、移住・独立開業に向けて準備した。
2016年9月、井坂さんの計画はスピードアップして進み始める。
井坂さん「新宿にいたら、たまたま日本政策金融公庫が目に入ったんです。そこのサポートプラザに何回か行って事業計画書を見せながら、岡山で独立開業したいと融資の相談したところ、まずは店舗物件と住まいを決めてくださいと。その後2回、岡山に下見に行って現地の不動産屋さんなどにも尋ねながら、店舗物件と自宅を決めました」
そして2016年12月のはじめ、井坂さんは新天地・岡山市へ居を移した。
移住から2週間で店をオープン
岡山市に来てからは、さっそく開店準備に取りかかった。店舗は岡山駅から徒歩6分の場所にある、カウンターのみの居抜き物件だった。
井坂さん「飲食店が密集する繁華街からはあえて少し外れた場所にしました。また、サッカーやスポーツで盛り上がれる店にするため、近隣への影響を考えると防音設備は必須。それで、カラオケがあったスナックの居抜き物件にしたんです」
岡山市に移住して2週間後の2016年12月23日、井坂さんは自身の理想が詰まったクラフトビールバー「クラフトレインボー」をオープンさせた。
写真:西紀子、写真AC、岡山県観光連盟
文:西紀子