『インターステラテクノロジズ』代表取締役 稲川貴大 | mtu
2019.09.05 UP

『インターステラテクノロジズ』代表取締役 稲川貴大 | mtu

PEOPLE

今年5月、民間企業としては日本で初めて観測ロケット「MOMO」を宇宙空間に到達させた『インターステラテクノロジズ』。
北海道・大樹町に本社がある会社です。
「ロケット界の『スーパーカブ』を目指したい」と話す、代表取締役・稲川貴大さんが見つめる未来とは?

木工、「鳥人間」……。ものづくりを続け、ロケットの開発に。

 『インターステラテクノロジズ』(以下IST)は、北海道・大樹町でロケットを開発する民間の宇宙開発ベンチャー企業だ。2005年、宇宙機エンジニア、科学ジャーナリスト、作家らが宇宙開発を目指す組織として結成したのが始まりで、ファウンダーは実業家の堀江貴文さんだ。

 2011年3月、大樹町で最初のデモンストレーション打ち上げ機「はるいちばん」の打ち上げ試験に成功して以後、年数回という高頻度で、ロケットの姿勢制御の飛行実験機や観測ロケットを打ち上げている。

 2017年7月には、観測ロケット「MOMO初号機」打ち上げ実験が行われた。同機の到達高度は20キロにとどまったが、その後、試行錯誤を繰り返し、19年5月に「宇宙品質にシフト MOMO3号機」が民間企業単独開発のロケットとしては日本で初めて宇宙空間に到達した。

右/発射直前の「MOMO3号機」と社員たち。現在、ISTは総勢約20人の技術者集団だ。 左/スポンサー企業の名称が目を引く小型観測ロケット「MOMO」シリーズ。3号機は宇宙に到達し、目標とする量産に向けて貴重な実証を得ることができた。
右/発射直前の「MOMO3号機」と社員たち。現在、ISTは総勢約20人の技術者集団だ。
左/スポンサー企業の名称が目を引く小型観測ロケット「MOMO」シリーズ。3号機は宇宙に到達し、目標とする量産に向けて貴重な実証を得ることができた。

 さらに19年7月29日には、「ペイターズドリーム MOMO4号機」が打ち上げられた。4号機は宇宙には到達しなかったが、前回以上に、「斬新な試み」を採用したこともあり、結果的には多くの人々にロケットに対する夢と可能性を伝えることになった。

 IST代表取締役の稲川貴大さんは工学系の大学院を修了後、13年に同社に入社。14年に代表取締役となった。ISTが開発するロケットを「ロケット界のスーパーカブ」にしたいと話す。その先には「誰もが宇宙に行ける時代をつくる」という構想がある。稲川さんに話を伺った。

稲川さんが、ISTに入社した経緯は?

 子どものころから宇宙が大好きで……なんてことはなかったのですが、ものづくりが好きで、高校のころは木工の家具づくりに、大学生のころは滋賀県の琵琶湖で開催される『鳥人間コンテスト』に夢中になっていました。『鳥人間コンテスト』では大学のチームで優勝もしたんですよ。その後、学生たちの間で人の身長と同じくらいの大きさのロケットづくりが流行っていることを知り、ものづくりへの興味から始めました。そのときに「ロケットづくりは、特別な世界で特別な人たちがやることではない」と衝撃を受け、どんどん関心が強くなっていって、ISTの前身である『なつのロケット団』のロケットの打ち上げを手伝わせてもらうようにもなりました。

そのまま『なつのロケット団』へ?

 いいえ、結局は別の光学系の大手メーカーへの内定が決まって、ロケットは趣味としてやっていこうと思っていました。ですが入社直前のタイミングで、『長野刑務所』から出所してきたばかりの堀江さんに初めてお会いしたんです。ちょうど2013年3月のロケット「ひなまつり」の打ち上げ失敗のときで、「失敗の原因は人が少ないことにもある。ISTに来ないか」と誘われました。当時は社長一人の会社で、初の社員でした。

そうして13年1月に設立されたISTへ入ったのですね。

 そうです。ロケットはずっとやっていきたいことだし、産業としてこれから絶対成長していくと感じていました。

翌年の14年には代表取締役に就任していらっしゃいますね。

 前任者が体調を崩してしまって、みんなの総意で僕がやることになりました。

ロケット界のスーパーカブを目指して。

会社のミッションとして、どんなところを目指しているのでしょうか?

 「ロケット界のスーパーカブ」です。もともと2005年の立ち上げの段階から、小型でシンプルで安くて、抜群に高性能ではないけれどそこそこ使い勝手がよくて、量産するために設計されたロケットがこれからは必要だろうという話が出ていました。それって要するに、バイクから「スーパーカブ」が生まれた流れと同じだよね、と。

大樹町にある本社工場ではロケットの機体とエンジン部分を製作。
大樹町にある本社工場ではロケットの機体とエンジン部分を製作。

どうしてそういった考えが出てきたのでしょう?

 ロケットって、輸送業なんですよ。何か——人工衛星や観測機などを運ぶためのものなんです。民間製にして安くしたいのは、たとえば観測ロケットである「MOMO」シリーズの場合は、得られる観測データに需要があるから。費用が抑えられればビジネスになります。さらに、同時進行で開発中の2023年に打ち上げを予定している「ZERO」には、超小型人工衛星を搭載するのですが、これが実現すればインフラが変わります。人工衛星は要するにスマホのようなもので、通信もできれば画像も送ることができる。人が立ち入れない場所でも精密なマップが日々更新されたり、これまではネット回線がなかった山の上や飛行機の中などでもインターネットに接続できるようになります。

 人工衛星は昔はマイクロバスみたいな大きさでしたが、半導体の進化に伴って、人が抱えられる程度の大きさになりました。だったらそれを運ぶロケットも、スーパーカブのバイク便みたいな、小さな輸送手段でいいじゃないかというのが、僕たちの提案しているロケットなんです。今、我々がつくっているロケットは国で開発しているものに比べると約10分の1の値段に抑えています。その分、ホームセンターで使えそうな材料を探したりしていますが(笑)。

浦安市の工場では、電子機器がつくられている。
浦安市の工場では、電子機器がつくられている。

民間だからできる、ロケットの搭載品。

先日打ち上げ実験をした「ペイターズドリーム MOMO4号機」では、3号機に続きおもしろい試みをされたと聞きました。

 搭載する荷物の中に、スポンサーが扱う商品、たとえばチーズハンバーガーやメガネ、コーヒー、イメージキャラクターのぬいぐるみなどを入れました。紙飛行機も入れて、高度100キロを超えた宇宙空間で放出する予定でもありました。結果としては、それらを宇宙に運ぶことはできませんでしたが。

ロケット先端部近くに設けられたペイロード(搭載品)収納部。
ロケット先端部近くに設けられたペイロード(搭載品)収納部。

そこにはどんな意図が?

 民間ならではのものを運びたかった。国がつくるロケットは税金を使っていますし、観測機など「真面目」なものばかりです。でもMOMOは民間の企業が民間のお金で開発しているということで、用途に縛られる必要がありません。先ほど僕は「ロケットは輸送業」と言いましたが、それを民間でやるのなら、お客さんが運びたいものなら何でも載せようと思ったんです。

4号機には「スポンサーが宇宙に届けたいもの」が載せられた。紙飛行機は放出を考えた形状に。日本酒も蒸留され、液体燃料に加えられた。
4号機には「スポンサーが宇宙に届けたいもの」が載せられた。紙飛行機は放出を考えた形状に。日本酒も蒸留され、液体燃料に加えられた。

メディアでは、MOMO4号機が宇宙に到達できなかったことを「失敗」と言っています。そこで聞きたいのですが、MOMOシリーズにとって「成功」とは何でしょうか? 宇宙に到達すれば「成功」ですか?

 ビジネスなので、会社としては輸送サービスとして定常的に回っていくようになったら成功ですね。4号機は残念ながら宇宙には行けませんでしたが、3号機で技術的な実証はある程度できて、そこからどう量産体制をつくるか、成功の確率をどう上げていくかというのが今のフェイズです。

本社工場のある大樹町や住民の皆さんともいい関係を築けているようですね。

 大樹町には2013年から本社を置いて製造や実験を行っています。人口約5600人の小さな町ですが、宇宙開発をするのに適した条件を備えた場所で、30年以上前から企業や団体の誘致をしていたんです。30年以上なので、子どもからお年寄りまで「宇宙の町」という意識があります。海のある町なので、前の町長が釣れた魚を差し入れに持ってきてくれたりもしました(笑)。

IST独自でもクラウドファンディングを行っていますが、ふるさと納税を活用した「大樹町クラウドファンディング活用事業(ガバメントクラウドファンディング)『宇宙のまちのロケット開発応援プロジェクト』」としても、町が応援してくれたとか。

 はい、8月8日に目標の500万円を大きく上回る2522万1000円が集まり、達成しました。ありがとうございます。

ロケットの開発にはやはり大きな資金が必要で、そのためになかなか民間の進出が進まないのでしょうか。

 資金はもちろん必要ですし、誰にでもできる技術ではないからという理由もあります。とくに我々のようにコストの削減を掲げていると、資金を現場でうまく回していく難しさもあります。資金調達とできるだけ安くつくるための技術、この2つがうまく噛み合わないといけません。資金調達に関しては、株式を発行して投資家の方から資金を調達する「エクイティ・ファイナンス」も行っています。

世界的に見ても、民間独自のロケット開発企業は少ないのでしょうか。

 少ないです。民間独自のロケットで宇宙に行ったのは我々で9社目です。難しいこともありますが、でもそれ以上に楽しいですよ。ロケットが飛んでいく姿というのは、ほかの何ものにも替えられないワクワク感と緊張感と、そして達成感があります。

今後の予定は?

 MOMOシリーズは量産のための開発を進めています。「ZERO」は、これから200回、300回と繰り返す試験の最初の段階に入ったあたりです。これからも早いサイクルで打ち上げをしていきたいですね。

photographs by Yusuke Abe
text by Sumika Hayakawa

記事は雑誌ソトコト2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

キーワード

稲川 貴大

いながわ・たかひろ
1987年、埼玉県生まれ。東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。
学生時代から関わりのあった『インターステラテクノロジズ(前『なつのロケット団』)に2013年入社、14年に代表取締役社長就任。
同社が19年5月4日に打ち上げた観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」は、日本の民間企業単独開発のロケットとしては初めて宇宙空間に到達。