おいしい一杯と、つながる関係。『STAND CHAI ME.』の木下寛さんがつくる、出会いの場。
2019.09.17 UP

おいしい一杯と、つながる関係。『STAND CHAI ME.』の木下寛さんがつくる、出会いの場。

DIVERSITY

会社員として働きながら、クラフトチャイのポップアップ・スタンド『STAND CHAI ME.』オーナーとしてチャイづくりをしつつイベントを主催。
さらにはDJとしても活躍するという木下寛さんの、ライフワークを生活の軸に据えた働き方の先には、ゆるやかに描かれた将来の姿がありました。

ライフワークとして、人と人をつなげる場をつくる。

 クラフトチャイを提供するポップアップ・スタンド『STAND CHAI ME.』。思わず声に出して言ってみたくなるこのネーミングは、おなじみの映画『スタンド・バイ・ミー』をベースに考えたもの。「自分が映画好きというのもありますが、CHAIを動詞として使って、スタンドでチャイを提供するというイメージでつけました」と、オーナーの木下寛さんは朗らかに笑う。木下さんはクラフトチャイの製造・販売のほか、DJとしての顔をもちながら、平日の昼間は会社員として勤務。大学卒業後、広告代理店など数回の転職を経て、現在はシェアオフィスのコミュニティ・マネージメントに従事している。

チャイは、カルダモン、シナモン、ブラックペッパー、スターアニス、クローブをはじめ、複数のスパイスを調合してつくられる。レーズンや擂り下ろしたしょうがも入り、ピリリとアクセントが利いた味になる。
チャイは、カルダモン、シナモン、ブラックペッパー、スターアニス、クローブをはじめ、複数のスパイスを調合してつくられる。レーズンや擂り下ろしたしょうがも入り、ピリリとアクセントが利いた味になる。

 名前からして楽しげな雰囲気を漂わす『STAND CHAI ME.』は、1〜2か月に1回というゆるやかなペースで、東京都渋谷区神宮前の路地裏にあるカフェ『BOOKS BUNNY』を中心に現れる。当日は、チャイだけでなくお酒も販売して、DJが音楽をセレクトするというイベント化された空間で出店。訪れる人は、スパイスがピリリと効いたチャイとともに、そこから生まれる出会いや再会を楽しみにやってくる。

オーナーの伊藤沙帆さんがニューヨークで仕入れた写真集や絵本などの本が並ぶカフェ『BOOKS BUNNY』。伊藤さんもカフェオーナーのほか、アーティスト、仮装の先生などいくつもの顔をもつ。
オーナーの伊藤沙帆さんがニューヨークで仕入れた写真集や絵本などの本が並ぶカフェ『BOOKS BUNNY』。伊藤さんもカフェオーナーのほか、アーティスト、仮装の先生などいくつもの顔をもつ。

 木下さんにとって、チャイもDJも、「お金を稼ぐための副業」では決してない。チャイの販売価格500円は、赤字にはならないけれど、儲けもそれほど出ない設定だ。それでも2017年に始めた『STAND CHAI ME.』を、ゆるやかながら定期開催して、今も続けているのは、楽しいからということとともに、木下さんが将来的にやりたいと思っていることにおいて、必要なライフワークとなっているからだ。

チャイ1杯500円。お店の「Instagram」アカウント(@standchime)をフォローしている人にだけ、開催情報などが届くという告知スタイル。平均5〜60人の集客がある。
チャイ1杯500円。お店の「Instagram」アカウント(@standchime)をフォローしている人にだけ、開催情報などが届くという告知スタイル。平均5〜60人の集客がある。

 「職場と家庭とはまた違うサードプレイスを、いつかつくれたらと昔から思い描いています。コミュニティ・マネージメント、飲食、音楽という、今やっている3つのライフワークを束ねると、それに近づくかなあと考えています」。こうした思いは、自分が好きなことや興味のあることを、人に喜んでもらえる形で企画して、無理のない範囲で行ってきた中で形づくられてきた。すべてに共通していることは「出会いの場所をつくり、人と人をつなげること」だ。

 『STAND CHAI ME.』をやるきっかけは、約3年前に行ったインド旅行がきっかけだった。「インドではチャイはただの飲み物ではなく、生活の一部としてあって、どこへ行ってもおいしいチャイが飲めました。ところが、日本でチャイの認知度は高いけれど、どこへ行ったらおいしいチャイが飲めるかわからなかった。だったら自分で作ろうと思ってチャイを作り始めました。レシピを改良していくうちにおいしいチャイができたので、いろんな人に飲んでもらいたいという思いで、ポップアップストアを考えました」と振り返る木下さん。チャイという少しマニアックな世界を極めることで、おもしろい人と出会えるのでは、というような「世界の広がり」があるといいなという期待もあったという。

 とはいえ、インドの文化をストレートに表現するのではなく、カジュアルなカルチャーのひとつとして、かっこよく提案したいという思いがあった。そうした要素のひとつとしてネオンスタンド、ステッカーをすべてDIYで製作。さらには友人・知人のDJを招いて、多くの人を巻き込み一緒にイベントとしてやることにした。

ステッカー4種、ネオン看板など、店まわりの小物はすべてDIY。大学時代につくっていたフリーペーパーでの経験が生きている。当日はこうした小物に加え、チャイの材料やカップ、DJ機材を持ち込んで『STAND CHAI ME.』を開店させる。
ステッカー4種、ネオン看板など、店まわりの小物はすべてDIY。大学時代につくっていたフリーペーパーでの経験が生きている。当日はこうした小物に加え、チャイの材料やカップ、DJ機材を持ち込んで『STAND CHAI ME.』を開店させる。

 サードプレイスづくりへの具体的な思いが生まれたのは、故郷である北九州で過ごした大学時代、大学の近くに、行きつけの好きなバーがあり、大変居心地がよかったことと、そこのマスターを見て「こういう生き方も楽しそう」と思ったことから。しかし、「就職活動をきっかけに、もっと社会人として経験を積んでからでもいいのでは」と考え直した。そして「いつか」のために、おもしろそうと思うさまざまなことに挑戦していくようになった。

『STAND CHAI ME.』の会場は、気軽に話せる狭さであることもポイント。どういうスパイスを使っているか、どういうところにこだわっているかを伝えるようにしている。
『STAND CHAI ME.』の会場は、気軽に話せる狭さであることもポイント。どういうスパイスを使っているか、どういうところにこだわっているかを伝えるようにしている。

楽しみながらやることで、ハッピーな場所を作る。

 イベントを企画したり、DJをしたり、さらには『STAND CHAI ME.』をやってきたことで木下さんが思うのは、「やっぱり自分は、人と人をつなげるのが好きだ」ということ。ちょっとマニアックで、よい音楽が流れるハッピーな場をつくることで、人と人がつながったり、カップルが自然発生的に生まれたりするのがうれしかった。さらには『STAND CHAI ME.』をやり始めてから、「○○ができる人、知らない?」というようなことを聞かれることが多くなったうえ、仕事として人と人、企業と企業をマッチングさせ、顧客の満足度を上げるコミュニティ・マネージメントという職業にまで就いた。

 「これは自分ができる少ない特技のひとつ。これからも活かしていきたいと思っています」と木下さんはいう。

 もっと多くの人に『STAND CHAI ME.』を知ってもらいたいという思いで、1か月に1回のペースで開催をしていた時期もあったが、「無理して続けても、やっている自分たちも、来てくれるお客さんもハッピーにはならない」と気づき、自分のできるペースに頻度を戻した。「一緒にやってくれているDJや主な開催場所である『BOOKS BUNNY』オーナーの伊藤沙帆さんなど、理解してくれる仲間がいるからこそ成り立っている。できないときは、できないっていうさが大切だと思うようになりました」。

8月に開催されたDJイベント。
8月に開催されたDJイベント。

 将来的に考えているサードプレイスは「ふらりと来て、ごはんを食べて、新しい人とつながって帰る」ことができるような場所。「飲食店が無意識的にもっているコミュニティの機能を、意図的につくる場所を目指します。自分の行きつけの店がある安心感って、これからの時代どんどん必要とされるはず。孤独から救われて、かつ健康的という、いいことずくめの場所になるはずです(笑)」。

 重要なのは、楽しみながらやること。無理をしない。肩肘はらない。そうした楽しい雰囲気があるからこそ、いろいろな人が引き寄せられ、出会い、新しいなにかも、生まれてくるのだろう。

photographs by Yuya Shiokawa
text by Kaya Okada

記事は雑誌ソトコト2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。