育児と両立するためフリーランスに。「仕事と遊びの中間」で働く、地域密着デザイナー・久保田ナオさん
2021.04.25 UP

育児と両立するためフリーランスに。「仕事と遊びの中間」で働く、地域密着デザイナー・久保田ナオさん

PEOPLE

地域のなかで仕事をつくるために

 地域密着デザイナーとして初めての仕事は、起業塾のイベントポスター。自ら参加していた起業塾のなかで受けた仕事でしたが、そのあとはどのようにデザイナー業を軌道に乗せていったのでしょうか? 地域での仕事のつくり方についても教えてもらいました。

久保田さん「独立してからは、自治体の役場に突撃して、作ったポスターを見せながら『何かデザインのお仕事あったらください』と名刺を配って回りました。それで実際にお仕事をもらえたこともあります。埼玉県が主催している起業塾のポスターを作らせてもらえたことで、自分に対する信用も得やすかったのかなと思いますね。すごく営業しやすかったです」

起業塾ポスター&ラベンダー
起業塾のポスター(写真左)を持参し近隣の町役場へ訪問。埼玉県比企郡嵐山町のラベンターを使ったアロマ商品のブランディングやデザインを担当した(写真右)。

 さらに久保田さんは、起業塾でできたつながりをもっと広げるため「比企クリエイターズHUB」を主宰。比企で活動するクリエイター同士で集まり、定期的なイベントを実施しています(※2020年4月以降、活動休止中)。

 イベントの内容は、あえて仕事に直接関係するものではなく、拠点である比企地域への理解を深めたり、純粋に楽しみながら交流できるものにしています。久保田さんの呼びかけで発足したあとは、知り合いが知り合いを呼び、毎回必ずひとりは新たなメンバーが参加するようになっていました。実際にイベントでできたつながりから、仕事に発展することもあったといいます。

比企クリエイターズHUB_ロゴ
「比企クリエイターズHUB」のロゴも久保田さんが制作(©久保田ナオ)

久保田さん「毎回『こういうことをしている人がいたんだ』という発見もあり、地域のネットワークが広がって嬉しかったですね。実際にイベントで知り合ったクリエイターさんを思い出して、自分が受けた仕事を『一緒にやらない?』と声をかけることもあります。ひとりではできない仕事も、信頼できる人と一緒に取り組める。お互いにどんな人か知っているので、すごく安心感があるんですよね」

比企クリエイターズHUB_ミーティング
「比企クリエイターズHUB」の野外ミーティングの様子。

“競合”ではなく“仲間”に。

 今では地域と深く関わり合いながら働く久保田さん。しかし、初めは自分が起業することで、地元の人と競合してしまうことに不安があったといいます。そんな不安も、独立後すぐに地元のデザイナーと出会ったことで解消されていきました。

久保田さん「私が比企で起業したら、この地域で先にデザイナーをしていた人たちが嫌な思いをするんじゃないか、と不安だったんです。新しく事業を立ち上げるということは、誰かの商売敵になってしまうことでもあるので。でも実際に比企のデザイナーさんと知り合ったとき、全然嫌な顔もされないし、むしろウェルカムな雰囲気で接してくれたんですよね」

比企クリエイターズHUB
「比企クリエイターズHUB × キャンプ民泊NONIWA」で実施したスケッチ会の様子。いちばん左端にいるのが久保田さん(写真提供:キャンプ民泊NONIWA)

久保田さん「私も仕事を始めてみたら、同じ職種、スキルではあるけど、得意分野が違うからバッティングもしなくて。むしろデザイナーが増えれば、良いデザインがまちにたくさん増えてハッピーだねっていう感じです。だから、これから比企に来たいという新しいデザイナーさんがいたら、私もすごく歓迎するだろうなって思いますね」

 「比企を子どもたちが自慢したくなるまちにする」。このビジョンを掲げる久保田さんのもとには、同じように「比企を盛り上げたい」と考える仕事仲間が自然と集います。自分たちが暮らす「比企」という共通項を通じて、“競合”ではなく“仲間”になれる。「仕事とプライベートの中間のような働き方が、とても心地いいです」と久保田さんは話してくれました。

久保田さん
地域のイベントでは、トークや議論の内容をイラストでまとめる、グラフィックレコーディングを担当することも多い(撮影:貝津美里さん)

 ここまで、久保田さんが「比企」という地域で積み重ねてきたのは、「心地よいつながりを少しずつ作っていく」ということ。終始、親しみやすく柔らかな笑顔で話す久保田さん。「チキンハートな私がこうして居場所を作れたのは、比企のウェルカムな空気があったから」といいます。

 しかし、地域の人のやさしさに触れられたのも、自らの意志で一歩を踏み出した瞬間があったからこそ。知らない土地を“地元”にするのは、自分自身の行動でしかない。久保田さんのことばと経験は、改めて大切なことを気づかせてくれます。

“地域”だからできる仕事がある

 そして最後に、地域密着のアートディレクターとして働く魅力について、久保田さんは「ブランドの成長を見守れること」、そして「すべての仕事が自分ごとになること」と語ってくれました。

ゆずミントサイダー
「ちはるふぁーむ」(比企郡鳩山町)の「ゆずミントサイダー」。ラベルデザインは久保田さんのイラスト。

久保田さん「東京でやっていたお仕事は、全体は大きい仕事でも、そのなかのほんの1パーツ。それを1週間くらいでやって、納品したらそこで終わり。でも、今私がやっている地域のお仕事は、もう全部なんです。『この商品をつくりたいんだけど、どうしたらいい?』みたいな最初の相談から完成まで関わるし、納品したあともブランドがどう育っていくかを見守っていく。地域の人から『見たよ』と反応をもらえることもあります。地域のことは自分のことでもある。だから、やりがいもすごく大きいですね」

 自分が暮らす地域の仕事だから、手が離れたあとも近くで見守ることができる。ブランドがまちの人に愛されながら育っていく様子は、久保田さんにとって大きなやりがいと幸せにつながっています。

久保田さんのデザイン_天空のたまご
久保田さんがブランディング、デザインを手掛けた「天空のたまご」。環境に関心の高い「ときがわ自然農園」代表・福島さんと話し合い、再生紙のパッケージでデザインした。

 そんなふうに、手掛けたデザインはまちの一部となり、デザインがまちをつくっていく。その実感があるからこそ、久保田さんが大事にするのは“未来”を見据えたデザインです。それは、見た目やコンセプトの完成度だけではなく、“サステナブル”や“エシカル”といった持続可能性を考えたデザインのこと。どこかの知らない誰かではなく、身近な地域の人やもの、そして子どもたちへの確かな想いから生まれる視点です。

 将来、子どもたちが「比企出身」であることを自慢してほしい。その想いを実現するため、久保田さんは“比企の未来”を見つめ続けています。

略歴
久保田さんのこれまでの歩み(©久保田ナオ)

文:Miho Aizaki
写真提供・イラスト:久保田ナオ

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