Love Injection - NYの伝統的なダンスミュージックを、世代を超えて語り継ぐ
2019.09.12 UP

Love Injection - NYの伝統的なダンスミュージックを、世代を超えて語り継ぐ

LOCAL

現在のニューヨーク/ブルックリンにおいて、ファッショナブルな人々が集まることで世界中から注目を集めるウィリアムズバーグのすぐ隣にグリーンポイントというエリアがある。もともとポーランド系の家族が多い住宅地だが、いまはウィリアムズバーグの余波を受け、倉庫が再生されアートスペースになるなど、新しい復興そしてカルチャーの波が押し寄せている。

若い世代の2人、Paul Raffaele(ポール)とBarbie Bertisch(バービー)はグリーンポイントで一緒に暮らすカップル。彼らは2人ともNYのダンスミュージック・カルチャーに夢中になり、現在『Love Injection』というファンジンを発行、現時点までで49号を数える。レターサイズ(A4に近い大きさ)かつモノクロで印刷されたその冊子は、アートブックのような引き締まったデザインと大胆な写真配置が特徴で、インタビュー記事が中心の音楽情報誌。例えば倉庫で始まったディスコの原型とされるパーティ《The Loft 》の創始者David Mancusoや、Comme des Garconsと新ブランドを設立するトランスジェンダーのDJ Honey Dijonのインタビューなど、幅広い世代のキー・パーソンにスポットライトを当てている。現在NY市内にある19のスポットで無料配布しており、他の地域では安価で入手することができる。

バービー 私が先にここに住んでいるの。5年前からポールも一緒に住むようになったわ。 クリエイティブな若い人たちとファミリー世帯が、丁度良い割合で暮らしている地域なのよね。

ポール 僕たちはこの辺りのレコード店で初めて出会ったんだよ。同じディスコの12インチ・セクションを探していたんだ。 

Greenpoint
Photo by Daniel Dorsa

ポール 僕たちはいつも、伝えるべき素晴らしい物語を持っているけれど自分から伝える手段を持っていない、そんな興味深い人々と常に会う機会を作っているよ。NYのダンスミュージックの歴史に文脈と細かな説明を付け加えるためには、有名なアーティストやレコードレーベルだけが持っている情報だけでは足らないからね。幅広い人々をこのファンジンで紹介する。それが僕たちのやりたいことだよ。 

Records

とはいえ、例えば、ディスコブームを契機にNYが世界の音楽シーンの中心になった70年代については、彼らの親もしくはそれ以上に長く生きてきた人の方が、状況をよく知っているはずだ。当時を体験していない彼らが記事を作るときは、随分と気を使うのではないだろうか。

ポール 過去の世代の記事ついては、自分の意見を書くというより、純粋な好奇心でインタビューしているよ。 ほとんどの場合は、当時の宝物のようなシーンを次の世代に引き継ぐために、彼らの体験したエピソードを喜んで共有してくれるんだ。僕たちにとってのヒーローや師匠のような人たちと話をして、そこから学んだり、さまざまな視点を得るのは素晴らしい経験だよ。 そんな過程から作られたものを人々が楽しんでくれて、良い反応を返してくれることは嬉しいよね。 

WithNYLegends

バービー 新しい世代のダンスミュージックファンが、インターネット上にある情報だけで満足せずに、もっと知りたいと思ってくれることは、本当にやりがいがあるの。その欲求は私たちを結びつけてくれるし、教育の連鎖を続けることができる。

ポール 僕たちは、人々が(スマートフォンなどの)画面を見つめることから休憩できるように、『Love Injection』が印刷物であることを選んだんだ。 そして、この冊子がニューヨークの歴史の物理的なタイムカプセルになることも意図しているんだよ。

彼らは、そんな「タイムカプセル」を掘り出したかのようなエキシビションを、今年の3月にMoMA PS1で行った。1976年に設立された著名なディスコレーベル《West End Records》にまつわる希少な印刷物などを、各方面からコレクションして展示したのだ。

ポール もともとは去年の10月に『Love Injection』で《West End Records》の特集をしたのだけれど、それがとても評判が良くてね。(通常はモノクロだが、この号ではレーベルデザインを引用したカラフルな表紙を採用。ファンの心をぐっと掴んだに違いない)。そののちに、友達のエレクトロ・デュオHoly Ghost!が、"Come Together: Music Festival & Record Fair”っていうイベントの一部として、MoMA PS1のArtBookコーナーで展示をやってみないか、って声を掛けてくれたんだ。素材の発表だけではなく、有名なディスコソング Taana Gardner “Heartbeat” のプロデューサーとヴォーカリストを呼んで、聴衆の前でディスカッションも行ったんだ。忘れられないイベントだよ。

MOMA
Photo by Meyrem Bulucek

NYの人々にとって、ダンスミュージックパーティーって、必要不可欠なことだって思う?

ポール 一緒に踊ることって、すごくパワフルなものなんだ。 それはニューヨークだけでなく、世界中にとってもね。さまざまな民族的背景、年齢、性的指向の人々が、一つの場所に集まって同じ音楽に合わせてダンスをすることは、私たちが本当は皆同じなんだってことを表す、最良の方法だよ。

バービー NYの地下鉄と同じように、一つの環境に、あらゆる背景のたくさんの人々が混ざり合って集まっている。私にはそんなパーティが理想的だし、絶対になくしちゃいけないものだって思ってるの。私もNYで生まれたかったな、私はブレノスアイレスの出身なの。私の故郷はニューヨークと同じようにクレイジーだけれど、これほど多様性に溢れてはいないわ。多くの異なる種類の人々に触れて成長することがとても重要だということを、この街にいるとよく解るの。
    
ポール 僕はNY郊外のスタッテン島で生まれ育ったニューヨーカーなんだ。労働者階級の人々が暮す静かな地域だから、この辺りの人たちには「忘れられた自治区」って呼ばれたりしてる。ここから距離的に近いマンハッタンには強い憧れを抱きながら育って、結局マンハッタンの大学に通うことを選んだんだよね。かつてのNYはかなり破茶滅茶な街で、安い生活費で暮らせた。だからあらゆる種類のアーティストが入ってきて、面白いものを作ったんだよ。現在はすごく高くなってしまったから、多くの生活費を稼ぐ必要がある。そのため非常にストレスの高いライフスタイルになってしまうんだ。まあ、NYは常に変化しているから、過去の状況と比較しても意味はないけどね。

Greenpoint
Photo by Daniel Dorsa

どうやらいまの東京の状況と、随分似ている印象を受けるけれど…。

ポール 昨年初めてDJをするために東京を訪れたんだ。外はものすごく慌ただしいのに、喫茶店やレストランなどの穏やかで静かな場所が沢山あって、そのコントラストに、僕たちはとても驚かされたんだよ。ニューヨークの雰囲気は激しく、いつも沢山のエネルギーを持っている。これは僕たちが慣れ親しんできたことだけれど、休憩するのはすごくいいことだよね。渋谷の 《名曲喫茶ライオン》には感銘を受けたよ、クラシック音楽を聴きながら本当に素晴らしい午後を過ごしたんだ。

日本が大好きになった彼ら。今年は奇しくもアース・ウィンド・アンド・ファイヤーの有名な曲“September”で歌われた9月21日に、渋谷Contactにて、NYの伝統的なパーティのオープニングを再現するDJセットを披露する。

バービー ダンスミュージックについて、NYと日本の間に強いつながりがあるって私達は感じているの。私達が守り伝えるべきだと思っているDJ文化に対して、同じように敬意を払ってくれているなって。

ポール 自分達の活動を伝えるために、少なくとも年に一回は日本に来たいって考えているよ。

ところで、NYでは普段はどんな生活をしているの?

バービー 私はファッションデザインの学位を持っているけど、以前はクリエイティブエージェンシーで長年働いてたの。 現在はレコードショップで働いて、ポールと一緒にDJをして、バサを演奏たり、バンドで歌ったり、音楽レーベルの管理もしている。 あとは時々写真を撮ったりしてるけど、将来はもっと写真に関われたらいいな、って思ってる。

ポール 僕はグラフィックデザイナー/アートディレクターでもあるので、音楽とデザインに時間を割いているよ。 両方の領域が重なっているときが一番好きなんだ。

Living
Photo by Chris Mayes

最後に、あなたたちは一緒に住んでいますが、プライベートなパートナーと活動を共にするって、不便なこともあったりしない?

ポール いつも一緒にいるって、好都合なことの方が大きいよ。仕事のこと、僕たち自身のプライべートなこと、どちらについても、対話を続けていくこと。

バービー つまり、私達にとって適切なバランスを見つけて、お互いが何を考えているか気に掛けるのをいつも忘れない、っていうことよね。

Love Injection (Paul Raffaele & Barbie Bertisch)

Love Injection

Love Injectionは2015年にPaul RaffaeleとBarbie Bertischによって2015年に共同設立された、NYを拠点とする音楽と文化のファンジン。絶えず変化するNYのダンスミュージック・カルチャーを広める重要なプラットフォームとしての地位を確立し、MoMA PS1 (NY)、White Columns Gallery(NY)、Music Center(LA)、Resident Advisorのキュレーションおよびホストパネルでナイトライフの展示を行い、Dublab(LA)や WorldwideFM(ロンドン)などのラジオ番組もプロデュース。彼らはファンジンだけでなくDJという手法でも積極的に表現/伝達しており、ブルックリンのThe Lot RadioにてLove Injectionの名を冠した番組で毎週土曜日午前10時から2時間のDJミックスを披露。クリプシュホーンが備えられたブルックリンのスポットMagick Cityでパーティ自身のパーティ Universal Loveを年4回主催し、Colleen‘Cosmo’Murphyが主催する"Classic Album Sundays" (クラシックスとされる名盤を特別な音響でアルバム全体を通して体験するセッション)のNY支部としてもプロデュースとホストを任されブルックリンのNowadaysで毎月開催している。また近年Danny Krivitの良質なエディットが数多くリリースされているレーベルMost Excellent UnlimitedはPaul Raffaeleが運営しており、紙媒体、ラジオ、パーティ、レコードレーベルと、彼らは現代の音楽業界において適切で有効的な情報拡散手段を駆使し、NYで長年培われてきたダンスミュージックを広めるべく多忙な日々を送っている。

Text by Nagi - Dazzle Drums