『先味』『中味』『後味』 | 36 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか
2019.03.20 UP

『先味』『中味』『後味』 | 36 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

DIVERSITY

 素敵なカードで新しいメニューの案内が手元に届く。「食べてみたい!」という衝動に駆られて予約を入れると、包み込むようにていねいな受け付け。予約当日は、レストランの入り口でお出迎え、ドアをくぐると雰囲気のよい空間。食事に合いそうなお酒を選んでいるだけで、食べるのが待ち遠しい。ここまでが「先味」で、食事前に経験するコトの総称。肝心の料理は期待を超えるおいしさ、盛り付けにも工夫が凝らされている。
 味やサービスそのものである「中味」も抜群。勘定はスマートに済ませることができ、帰り際には気の利いたお土産が用意されている。あたたかい笑顔で見送られ、余韻に浸りながらレストランを後にする。食事後の「後味」も申し分がない。おいしそう、おいしい、おいしかった。どの時点をとっても大満足。
 性能は気に入っているのに、アフターサービスが悪い電気製品。テレビCMでは好印象なのに、飲んでみたらさほどおいしくないドリンク。売るまでは一生懸命なのに、買うと決めたら会計をピークに態度が冷め始める販売員。部屋は快適でも、チェックアウト時に無愛想なホテルマン。店内は汚い、店主の愛想は悪い、でも味は最高。「中味」一点豪華主義で賑わうラーメン店もあるので(ラーメンの味が店内の汚さや店主の無愛想も味付けにしてしまう)、例外がないとは言わない。しかし、レストランに限らず、商品やサービスの「先味」「中味」「後味」、三拍子揃っていたら脳はうれしい。
 人手不足で売り場が置き場にしかなっていない小売店では、商品のよさが伝わることなく埋もれる。料理を出すのが精いっぱいで、接客どころではない飲食店。挽回しようにも味もイマイチ。三拍子どころか、一拍子もとれない。
 そこで、テクノロジーの出番である。三拍子をとれているところはさらなる高みを目指し、一拍子もとれていないところは危機から脱出するために、テクノロジーを味方にする。ひとりひとりに合った来店の動機付けを行える集客アルゴリズム、24時間のオンライン予約、ベストパフォーマンスを機械学習するチャットボット受け付け、状況を正確に把握し機敏に顧客対応をするロボット、売れ行きに応じて商品棚を最適化する在庫管理ツール、テーブル設置型の注文端末、腕前のいいシェフの技術がプログラム化された調理場の自動調理機、食欲や購買意欲を増す仮想空間演出、顧客データ分析に基づく適切なアフターケアにより再来店を誘う人工知能。「先味」から「後味」まで、どの段階でも役に立つテクノロジー。なんならば、すべてを自動、無人で賄うことも可能になる。
 たとえ可能だとしても、人の手をまったく介さず、人気を感じない料理や接客、空間の中で、「先味」「中味」「後味」の3味を堪能できるものだろうか。寿司職人が目の前で握ったお寿司。シェフが目の前で焼き上げ、サーブしてくれるステーキ。笑顔でテーブルに皿を並べながら、食材へのこだわりを伝えてくれるホールスタッフ。いずれも機械化できるが、想像しただけでおいしさが削がれる。食器の自動洗浄や顧客の満足度を高めるためのデータ分析であれば、3味を裏側で支える手段になるが、人間が担うところとテクノロジーに任せるところの見極めを間違えると台無しになる。
 3味を最高にするために、人間によるもてなし、テクノロジーが強みを発揮できる仕事、そのコンビネーションの設計が鍵を握る。無人でもかまわないので、手早く空腹を満たし、手短にサービスを利用できればよい場合もある。でも、その手のものが増えるほど、人間が提供する、優れた「先味」「中味」「後味」が際立つことになる。

text by Kazuya Ogawa

本記事は雑誌ソトコト2018年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行い、J-WAVE『FUTURISM』番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)。