里山に関わりたい人へ。山とまち、人を結ぶ、森 庄さんの目指すもの。
2019.09.26 UP

里山に関わりたい人へ。山とまち、人を結ぶ、森 庄さんの目指すもの。

LOCAL

山と人、もっといろいろな関わり方があってもいいはず。
そんな思いを抱きながら、福岡県八女市黒木町で地域の未来を描く『モリビト』の森庄さん。
山や森での仕事、遊び、暮らし方を提案しながら、「山の入口」を一緒につくる仲間を募集しています。

かつては当たり前だった、山と森との暮らしを見直しながら。

 お茶の産地としてその名を知られる福岡県八女市黒木町には”泊まれる山小屋“『yamaberinglab(ヤマベリングラボ)』がある。山小屋とはいうものの、実は交通量の多いまちの中心部にある。そう、ここは「山」と「まち」をつなぐための拠点としてつくられた。

泊まれる山小屋『yamaberinglab』は黒木町の町中にある。入口横に薪が積まれている。
泊まれる山小屋『yamaberinglab』は黒木町の町中にある。入口横に薪が積まれている。

 「そもそも昔、人は山と森の恵みとともに暮らしてきた。一度は離れてしまった山での暮らしを、再構築していきたいんです」。そんな思いをもって、この場所を運営しているのは、”森と人“をテーマに『モリビト』という屋号で活動を行う森庄さんだ。

 『yamaberinglab』とは、山で暮らす人も、まちで暮らす人も、地域の人も、外からの人も、山や森の未来や楽しみ方をともに考えて実践していく場所。そうして「山へ関わる人」を増やし、「山に関わる仕事」をつくりつつある。

地域で産出した古材や廃材を再利用したコミュニティスペースでは、宿泊者同士の交流が生まれる。
地域で産出した古材や廃材を再利用したコミュニティスペースでは、宿泊者同士の交流が生まれる。

地域、行政、企業と地域の復興を目指す。

 岡山県出身の森さんが2013年に地域おこし協力隊隊員として家族で八女市へやってきた前年、市内は7月の九州北部豪雨で大きな被害を受けていた。森さんがフィールドとする八女市黒木町笠原地区は、山間にある美しい集落。案内してもらうと、お茶畑や石積みの棚田など、これぞ日本の原風景というような集落内には、数台のトラックが土砂で流された土地を整備しているところがあった。

 「災害から6年たっていますが、山へ行けば行くほど、復興ってできてないんです」と森さんは教えてくれた。

 地域おこし協力隊が終了した2017年から、森さんは「八女市集落支援員」となり、地元の人の思いを形にする「笠原復興事業」の企画・運営を行ってきた。協力隊時代から特に心がけているのが、地域の人の話を聞くこと。何度も家へと通い、ときには酒を酌み交わしながら、地域の将来にとって何がいいかをとことん語り合う。そうして関係を築きながら、みんなの思いや考えを受け止め、地域や山の将来を考えながら、いろいろなことを形にしてきた。山で暮らす人だけで完結せず、まちの人も巻き込みながら。

「食から八女市・笠原地区を知ってもらうならココ」と森さんに連れられてきた、レストラン『KTAADN』。
「食から八女市・笠原地区を知ってもらうならココ」と森さんに連れられてきた、レストラン『KTAADN』。

 そんな森さんが企画したもののひとつに「農作業応援隊」がある。地域の人手不足を解消するため、お茶摘みなどの繁忙期に働き手を全国から募集して斡旋するという仕組みだ。黒木町の祖父母の家を譲り受け、海外からのゲストを受け入れながら住み開きをしていた坂本治郎さんとともに、働き手の滞在先として棚田とお茶畑に囲まれた山間の古民家の改修を実施。こうして2017年に生まれたゲストハウス『天空の茶屋敷』は、「農作業応援隊」とともに、国内外からのゲストも多く訪れる場所になった。

笠原集落の最奥、標高450メートルにある『天空の茶屋敷』。石積みの棚田とお茶畑に囲まれている。
笠原集落の最奥、標高450メートルにある『天空の茶屋敷』。石積みの棚田とお茶畑に囲まれている。

 現在4期目を迎えた「農作業応援隊」はさらに地域といい関係を築いている。動きだした当初は1団体だけだったが、今年は複数のお茶関係の団体がこの仕組みを利用。さらにはお茶の最盛期以外にも仕事をつくるべく、薪割りなど山の仕事も少しずつ増やしている。

 また、「竹で荒れた山をきれいにしたい」という地域の人の思いも、地域づくり提案事業として形にしてきた。その際、竹を伐採してハゼなどの木を植樹するという工程を、「作業」としてだけ行うのではなく、アーティストを招き、伐採した竹材でアートを制作。将来的に山に人が集まり、交流が生まれる仕組みをつくった。そうして行った2か所の整備は手応えのあるものだったと森さんは振り返る。「人がモチベーションをもって何かに取り組むと、本当にいいものができるんだと実感しています」。

長いこと使われていなかった立派な古民家を利用。仕事が終わったら、全国から集まった仲間と団欒(この日は、奈良県から鳥居さん、群馬県から栗田さんと、新潟県からゆうちゃんの姿が)。
長いこと使われていなかった立派な古民家を利用。仕事が終わったら、全国から集まった仲間と団欒(この日は、奈良県から鳥居さん、群馬県から栗田さんと、新潟県からゆうちゃんの姿が)。

 そんな森さんが、目下、力を入れて取り組んでいるのは『きのこ村キャンプ場』の復興プロジェクトだ。地域住民、行政と一緒に、九州北部豪雨で流されたキャンプ場を、地域の資源として未来へとつなげるためにはどうしていけばいいのかを、みんなで何度も話し合ってきた。

キャンプ場の中を流れる笠原川。写真に写る右岸には当時『お茶の里公園きのこ村キャンプ場』があった。
キャンプ場の中を流れる笠原川。写真に写る右岸には当時『お茶の里公園きのこ村キャンプ場』があった。

 結果、見えてきた方向性は地域の暮らしを体験でき、地域資源である木や山の魅力を体験できる施設にすること。さらにはそれを実現するため、アウトドアメーカーでキャンプ場の経営も行う『スノーピーク』、木の魅力を最大限に引き出す地元の設計事務所『環・設計工房』とタッグを組み、ともにつくり上げる体制もつくった。

計画中のキャンプ場は、対岸の土地も整地してキャンプ場になる予定。
計画中のキャンプ場は、対岸の土地も整地してキャンプ場になる予定。

 話し合いは簡単ではない。みんなが納得するのは時間がかかるし、すぐには進まない。「正直、速度という面では自分ひとりで進めたほうが断然速い。でも、しっかり時間をかけたおかげで、すごくよいメンバーが集まり強力なタッグが組めた。今は想像していた以上の、いいキャンプ場が出来上がるぞという手応えがあります」。未来を見据え、最高の笑顔で森さんは力強く言う。キャンプ場は、2021年にオープン予定だ。

川を挟んだ向かい側には、集落や霊巌寺の奇岩の眺めが広がる。
川を挟んだ向かい側には、集落や霊巌寺の奇岩の眺めが広がる。

人材を掘り起こして、山の仕事をつくっていく。

 これほどまで真摯に地域へと向き合い、山への強い思いをもつ森さんには、プロのスノーボーダーを目指しながら山と関わってきたバックグラウンドがある。山の現状を知るほど、「山に関わる仕事がしたい」と思うようになり、その方法を模索した時期があった。「協力隊に参加する前、森林組合に『木こりになりたい』と電話したら、無理だと断られたこともありました(笑)。山で仕事をする人たちは、危ないから素人を山に入れたがらない。だからまずは信頼関係をつくり、そのうえで山とまち、そして人をつなげたいと思ったんです」。

 一昨年は、笠原地区を回って地域資源の掘り起こしをしながら、山辺の遊びを開発する全5回のエコツーリズム「ヤマベリング」を開催した。「新しくできるキャンプ場や、『天空の茶屋敷』など、”笠原地区のこれから“をいろいろな人と共有したい」という森さんの気持ちと共鳴するように、大勢の人が集まった。山とまちをつなぐ『yamaberinglab』は、ここで生まれたアイデアを実現する場として誕生。この場所の提供を申し出た川嶋成幸さんも「ヤマベリング」に参加して、森さんの取り組みをおもしろがる人物のひとり。「地元の人間だけでは地域のいいところがわからない。森くんのような人がいるから地域が変わる。この動きがどんどん加速していくといいなと思います」とうれしそうに言う。現在、『yamaberinglab』では月に1回、地元の人たちが参加して、地域の未来を考える「黒木語ろう会」が開催されている。

 手応えをつかんだ森さんは、「もっとおもしろい人を発掘したい」と、アイデアをプレゼンしてブレストし合う「YAMECONVALLEY(ヤメコン)」を仲間とともに開催。「当初は『八女だけでできるはずがない』と言われたけど、筑後地区からもおもしろい人が集まり、今までに7回開催しました。山に対する提案もあって、『杉の皮を剥いで立ち枯れ状態をつくって間伐をする』というアイデアには、『黒木語ろう会』の地主さんから『うちの山を使っていいよ』とうれしい申し出があり、地元の人たちも新しい提案に興味をもってくれるようになりました」とうれしそうに語る。

地域資源をお金に変える仕事として、今後キャンプ場で使う薪を準備中。
地域資源をお金に変える仕事として、今後キャンプ場で使う薪を準備中。

 今後は、これまでつくってきた仕組みや場所、人材、アイデアを使って、山への多彩な関わり方を提案していくとともに、山での仕事もつくっていきたいと考えている。「薪割、竹林伐採、たけのこ掘り、杉の葉採集など、山の仕事はたくさんある。八女に行けば、一年中何かの仕事があるという状態をつくりたいと思っています」。

 山とまちの境界線を緩め、山との新しい関わり方を提案している森さん。未来へ向けて、山への入り口を広げ続けている。

記事は雑誌ソトコト2019年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Yusuke Abe
text by Kaya Okada

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