台湾で「行」という考え方と出合う。
2020.02.28 UP

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 6 台湾で「行」という考え方と出合う。

DIVERSITY

台南、夜市の台湾式ステーキ屋で働く。

 台湾南部の都市、台南。台湾の「京都」といわれるほど古都の雰囲気が感じられ、物価も台北に比べると非常に安い。台湾好きの日本人の中には台湾の雰囲気が最も感じられるからと、台南好きの方も少なくない。

 僕自身これまで何度も台南は訪れてきたが、せっかくの微住中なので、念願の夜市で働いてみることにした。実際、普段から夜市へはよく行くが、店側に立つなんて、旅行では体験できない。

 僕が働くことになったのは、どの夜市でも定番の台湾式ステーキ(牛排)の店。店の名前が刺繍されたエプロンをいただき、袖を通すと、よく夜市で見かけるバイトくんのような風貌に。

このとき、台南はすでに日中27.8度。夜は少し涼しくなり、仕事終わりは爽やかな風が心地よい。
このとき、台南はすでに日中27.8度。夜は少し涼しくなり、仕事終わりは爽やかな風が心地よい。

 僕の担当は、お客さんが食べ終わったテーブルを片付け、ステーキのプレートと下に敷く木の板を洗うこと。そしてお客さんのテーブルへの誘導。僕のほかにアルバイトで台南大学の学生がいて、徐々に彼との連携もとれていく。途中、スタッフ分の飲み物の買い出しをお願いされたり、常連のおじちゃんが来ておしゃべりしたり、賄い(もちろんステーキ)を食べたり。

 いつの間にか”夜市の人”になれたみたいで痛快だった。次はどこの夜市で、何屋さんで働いてみようか。夜市バイトは台湾を感じるのにもってこいだ。

日本でステーキといえばライスかパンだけど、台湾ではパスタが定番。白米が欲しいと言うと不思議がられる。
日本でステーキといえばライスかパンだけど、台湾ではパスタが定番。白米が欲しいと言うと不思議がられる。

増える香港からの移民、台湾での生活を選ぶ理由。

 今回の微住中、香港人の友人の家に泊まっていた。

 彼はアクセサリー職人で普段は香港にいるが、月一ほどで台湾に来て、台湾中のマーケットに参加してアクセサリーを売っている。ちょうど僕が台南にいる時は、彼は台中のマーケットに参加しに行った。なぜ彼はこんな生活をしているのか。

 彼は「香港で1か月、アパート借りて暮らすより、台湾に毎月来て、マーケットで商品を売って暮らすほうがよっぽど効率よく物も売れるし、生活費も安くつく」と言う。実際、彼の住んでいる台南の部屋は、リビングにベッドルーム、簡単な水まわりがあって一人暮らしでは十分な広さだが、1か月の賃貸費は3500元(約1万2000円)程度。台南駅から歩いて10分もかからない好立地。

台湾の部屋は扉を開けると玄関はなく、石床が定番の形。映画のセットみたいで憧れる。
台湾の部屋は扉を開けると玄関はなく、石床が定番の形。映画のセットみたいで憧れる。

 以前、台湾に移民としてやってくる香港人が増えているというニュースを観たが、台南を選ぶ香港人は多い。台南の正興街という人気スポットの近くに香港式のカフェ『ةA料茶居』を3年前に開いたマックスさんも、台南での生活の魅力について「香港ではあまりリノベーションという感覚がなく、古いものや不用になったものはすぐに新しく替わってしまうけど、台南は古きものがしっかり残っていて、そういう文化や考えが好きで台南を選んだ。これからも台南に住み続けると思うよ」と笑顔で答えた。お店は夜だけのオープンだが、平日でも常に満員。彼は自分の”居場所”を見つけたようだ。

台湾人も大好きな港式(香港スタイル)カフェ。2階も満席。
台湾人も大好きな港式(香港スタイル)カフェ。2階も満席。

自分の生活を”ぶらつかせる”。

 日本人の生活の基本は「衣食住」だが、それに加えて台湾や香港を含む中華圏では「行」という言葉がある。

 香港から台湾に移住してきた本屋のオーナーに「行」の意味を聞いてみると、彼女は「ぶらつく」と答えた。

 確かに広東語では街をぶらつくことを「行街(ハンガーイ)」と言う。日本では「お変わりないですか?」が「お元気ですか?」の代わりになるほど、変化しない、安定していることがよしとされていて、そんな日本人として、生活の基本要素に「ぶらつく」があるのはちょっと違和感を覚えるかもしれない。

 自分のライフスタイルを”ぶらつかせる”。そうか、これこそ僕が今やっているアジア微住の最大の目的なのかもしれない。

記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中佑典

たなか・ゆうすけ
職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは一つの場所で2週間以上滞在してみること。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。