憂国呆談 season 2 volume 112
2019.10.05 UP

憂国呆談 season 2 volume 112

SOCIAL

徳島の漫画図書館から、
日韓問題の行き着く先、
大学の新入試制度まで。

徳島県・那賀町の木頭地区に漫画図書館をつくる計画を進めている『メディアドゥホールディングス』の代表取締役社長兼CEOの藤田恭嗣さんを、皇居を見渡すオフィスに訪ねた田中・浅田両氏。
木材を多用した受付ロビーで「木頭プロジェクト」のPRビデオを見たり、手塚治虫の全作品が並んだ本棚を眺めたりしながら、計画中の漫画図書館や木頭柚子について語り合った。

藤田恭嗣さんが構想する、徳島県の山間の漫画図書館。

田中 徳島県と高知県の県境にある旧・木頭村(現・那賀町木頭地区)に「世界最大の漫画図書館」が建設されると漫画家の竹宮惠子さんがツイートしていたので調べてみたら、著作物のデジタル流通を行う『メディアドゥホールディングス』社長で木頭出身の藤田恭嗣さんが企画・立案するプロジェクト。これはぜひお目にかからねばと千代田区一ツ橋のパレスサイドビルディングにお邪魔した。徳島県随一の長さを誇る那賀川の源流が位置する旧・木頭村は面積の98パーセントが森林。年間降雨量が四国で一番。瞬間降雨量が日本一。「人類の進歩と調和」を掲げた大阪万博の翌年1971年にとなった細川内ダム計画に村民の多くが、川も山も村も荒れて環境破壊と過疎化に拍車がかかると反対すると、徳島県も旧・建設省も道路整備等の公共事業を意図的に遅延させる。それでも村民は93年に当選した藤田恵村長を中心に都合30年間も屈せず、初志を貫徹する。僕が知事に就任する直前の2000年8月、自民党の亀井静香政務調査会長が、事業認可から5年経っても未着工、事業着手から10年経っても未完成の公共事業は不要不急なのだと計223か所、総額2兆8400億円分を中止させ、細川内ダムも事業計画自体が廃止となる。その旧・木頭村に僕自身も知事時代と国会議員時代の2回、訪問している。

藤田 四国山脈の南側にある徳島県、そして木頭地区は、雨がたくさん降るので水が豊富です。共に一級河川の那賀川と坂州木頭川の源流がある木頭村にダムをつくる計画が立てられました。僕の父・藤田堅太郎は、血縁ではありませんが同じ苗字の藤田村長の下でダム対策室室長や助役を務め、ダム建設を止めるために懸命に闘い、1996年に亡くなりました。

田中 藤田さんは何年生まれですか?

藤田 73年生まれです。子どもの頃はよく川で遊びました。もあって、川が生きている感じがしましたね。戦後の国策で山には針葉樹のスギが植えられました。広葉樹との針広混交林ではないので、今は雨が降ると山の表土が削られて川に流し出し、ダムで堰き止められ、堆積し、上流の河床が上がり、川が氾濫する。山林の放置やダムによる悪い影響が出ています。重機で浚渫するのですが、大量の土砂を山に捨てに行くダンプカーが道路を陥没させてしまう。昔は、雨がたくさん降るのが村のいいところでもあったのに、今は雨や水をどうコントロールするかという敵のような関係になってしまっています。そんな木頭地区の今の自然と現状も感じ取ってほしいと思い、漫画図書館を構想しました。

浅田 いつ頃から構想されたんですか?

藤田 3年ほど前からです。村には小学校が2校あり、僕が通っていたほうとは違う北川小学校が閉校になると聞き、何かできないかと。村の老若男女が集まることができる場として小学校の校舎を活用しようと、7つほどアイデアを出しました。その1つが漫画図書館です。

田中 なぜ漫画の図書館を?

藤田 弊社が電子書籍事業を行っているので大手出版社とも近しい関係にあることと、漫画やアニメが好きな人たちを世界中から村に呼べると考えたからです。ただ、校舎は40〜50年前に建てられたもので、漫画を何十万冊も置こうとすると荷重に耐えられない。小学校の川向かいに東京ドーム1個分ほどの土地があり、地権者の方々にお願いして購入させていただき、そこに漫画図書館を建設することにしました。この模型は4階建てですが、高齢者の上下移動を減らし、広いスペースに人が一堂に集まれるようにしたいので2階建てに変更する予定です。

浅田 『京都国際マンガミュージアム』は、昭和初期に建てられた旧・龍池小学校の校舎を利用したもの。ただ、夜は閉まる。ここは滞在して漫画をゆっくりと楽しめるというのがいいですね。

藤田 はい。例えば、『ONE PIECE』の部屋とか、『ドラえもん』の部屋とかつくれたらと考えています。その漫画図書館がある「MANGA PARK KITO」を含めて4つの施設をつくる「4PARK構想」を掲げています。昨年10月にはグランピングやレストラン、露天風呂も楽しめる「CAMP PARK KITO」がオープンしました。40年以上も前に僕の父と叔父が設計し、2014年から営業停止していた美那川キャンプ村をリノベーションしたものです。あと2つのPARKは、牧場がある「FARM PARK KITO」と、漫画図書館にしようとして断念した旧・北川小学校を活用した柚子の収穫・加工などの農泊体験ができる「YUZU PARK KITO」です。

田中 木頭村と言えば柚子ですが、柚子づくりは誰が始めたのですか?

藤田 農業大学校を出た僕の叔父が2年間の期限付きで農業指導員として木頭村に赴任したときに、父や地元の農家さんと一緒に始めました。「桃栗3年、柿8年、柚子の大馬鹿18年」と言われ、栽培に時間がかかる柚子を3年から5年でるように改良し、初めて市場に出荷したのが木頭村の柚子です。1977年度には農産物の最高峰の賞とされる「朝日農業賞」を果樹としては第1号で受賞しました。
 また、木頭村の人たちは柚子づくりの技術を周辺地域に惜しげもなく教えました。有名な高知県の馬路村の柚子も、実はそう。ライバルを自分たちで生み出したわけですが、同じように過疎に悩む村の困っている農家を助けたかったのです。木頭産の柚子の苗木は全国に広がり、産地の7割を占めたとも聞いています。僕が木頭への恩返しとして最初に始めたのは、この木頭柚子の栽培・仕入れから加工品の開発・販売をすべて行う『黄金の村』という会社の設立です。これは、「4PARK構想」を始める前から続けている事業です。
 これらの事業を地方で取り組むなかで、経営、マネジメント、ファイナンスなどいくつかの課題に直面しましたが、最も大きな課題は人口減少です。中山間地域の人口減少は想像以上で、今まで3人で運営していた施設も1人で回さなければならず、そのなかで一番大変なのが現金の扱いです。そのため、地方こそ現金を持たなくてもいい仕組みが必要だと痛感し、高齢者でもカメラによる顔認証で支払い可能な「顔パス」を考案しました。徳島空港にオープンしたカフェで「顔パス」登録をし、木頭村で支払える仕組みを進めています。柚子を全国に広めた精神で、「顔パス」をほかの町村でも使ってもらえるようにしたいです。

浅田 漫画図書館ができたら、ぜひ一度訪れたいですね。

藤田 年内に着工し、工事期間は約2年間を予定しています。整地から始めるので時間がかかりますが、いいものになるよう頑張りますので、ぜひお越しください。

日韓の報復試合はどうなる?両国の民間企業による補償案も。

浅田 さて、ここからわれわれ二人の憂国呆談に戻るけど、北朝鮮がミサイル発射実験を連発し、背後で中国やロシアもしてるときに、日本と韓国がバカげた意地の張り合いを続けてるってのは、いったいどういうことなのか?
 前回も言ったように、安倍晋三首相がG20サミットの議長として自由貿易体制を堅持すると宣言した翌朝に、日本は韓国を貿易管理の優遇対象国から外すと発表、対して韓国は日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA ジーソミア)の破棄を通告。その後、韓国は日本が韓国を優遇対象国に戻せばジーソミアに残るって言ったのに、日本はそれを拒否した。日本政府は、国内的な貿易管理上の措置に、韓国が安全保障上の協力破棄で応えるのはおかしいって言うし、日本の翼賛メディアもそれを鵜呑みにしてる。だけど、日本は徴用工問題なんかで韓国が信頼できる安全保障上のパートナーじゃなくなったから優遇対象国から外すって言った、それはアメリカのドナルド・トランプ大統領が安全保障上の懸念を理由に中国のファーウェイとの取引を禁じた手口の真似。それに対して韓国が安全保障上の対抗措置をとることは当然予想できた。そんなありさまだから、この問題をどう収拾するのか、落としどころを考えているようには見えないな。

田中 「自由貿易の基本的原則を明確に確認した」とG20大阪サミット閉幕後の議長国会見で胸を張った口も乾かぬうちに、"脊髄反射"で保護貿易ならぬ「排除貿易」に走った。そうした政権の意向を忖度して読売新聞は「徴用工 事態打開を狙う」と大見出しを打ち、産経新聞も「馬耳東風を決め込む韓国に対し、法に基づく措置で対処するのは当然だ」と主張し、稚拙な意趣返しでしかない「韓国ガー」を正当化した。同じ7月2日付で「トランプ的手法」と日本を皮肉った『ウォール・ストリート・ジャーナル』とは対照的だ。日本海側や北海道で必須の灯油も、冬の国内販売量の2割は韓国からの輸入に頼っている。自給自足で自己完結の鎖国を目指す覚悟もないのに、いやはや。

浅田 確かに、1965年の日韓基本条約と請求権協定で、徴用工への賠償問題は政府間では決着してる。だけど、法律や条約を機械的に適用するだけなら、官僚や弁護士ですむんで、それですまない問題を大所高所から解決するのが政治家なんだよ。
 そもそも戦争に関わる問題は一気に解決して終わりってもんじゃない。たとえばいわゆる従軍慰安婦は昔は韓国国内でも無視や差別の対象だった。「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」に含まれてて公開中止に追い込まれた
 「平和の少女」像の足が地に着いてないのは、韓国社会が彼女らを支えてこなかったことを表してる。女性への性暴力が重視されるようになってこの問題が再浮上したわけで、だからこそ日韓が1995年に民間の「女性のためのアジア平和国民基金」による賠償っていう知恵を出したわけよ(文在寅政権が反日で国民を束ねようとしてるのは問題で、特にこの基金を解散させたのはまずい)。徴用工問題も、政府間で決着し、日本政府が韓国政府に賠償金を払ったのを、当時の朴正煕政権は経済成長のために使った。しかし、日本の裁判所も認めるとおり、個人の請求権は消滅してない。まずは韓国政府が対応すべき問題ではあるけど、日本企業は中国人労働者には和解金を払ってきたわけで(1972年の日中共同声明で中国政府は賠償請求権を放棄したにもかかわらず)、日本の賠償金で成長した韓国の企業も含めて財団をつくり賠償金を払うっていうような手法も考えられると思うよ。
 そもそも植民地化と戦争で大きな被害を与えた、日韓基本条約成立後も日本はその歴史的責任を痛感してるってことを、中曽根康弘や安倍晋太郎に至る日本の政治家たちは態度で示してきた。ところが、安倍政権は、日本は必ずしも悪くなかったっていう歴史修正主義に立ち、「もう韓国を特別扱いしない」って言い出した。条約や協定の解釈以前に、そういう基本的な立場の変更が韓国を硬化させたんだよ。

田中 日韓請求権・経済協力協定に関しては1991年の8月と12月に参議院予算委員会で「国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということで」、「いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までもご答弁申し上げたとおり」と当時の外務省条約局長が2度にわたって明言しているからね。二百歩譲って「解釈変更」するなら、国際海洋法裁判所の判事を2005年から務める柳井俊二その本人を国会に召喚しなくちゃ(苦笑)。
 国内の社会問題よりも韓国の内政問題を事細かにあげつらうのがお約束になっているテレビだけでなく、朝日新聞のソウル特派員から編集委員に転じた牧野愛博記者(正直な話、FA権を行使して産経新聞に転じたほうが本人の幸せ)を前面に押し出して朝日新聞も嫌韓・憎韓を煽り続け、日米開戦前の状況に陥っている。僕が知る限り、冷静な紙面は日本経済新聞だけだね。「看板ライター」と日経が「認証」する6名の1人である秋田浩之コメンテーターが「日本が韓国に言うことを聞かせるため、強硬に転じたと受け止められているが、現実は逆だ。日本はむしろ追い込まれ、『劇薬』を使わざるを得なくなったのが実態に近い」と記した。
 「敗戦の日」には論説委員会を主導する自由学園卒業生の大島三緒論説委員が「8・15の落とし穴 哀しみの前には熱狂があった」と題して、朝日新聞の全面的バックアップで従軍した林芙美子が『戦記』(敗戦後に封印)で「こんなことは少しも残酷なことだとは思いません」と「堂々たる一刀のもとに」敵兵を斬り殺す場面を描いて「戦線は美しい」と称揚した史実を紹介し、「戦争とはある日突然始まるのではなく、日常と重なりつつ進んでいく」と警告する。「行きづまりを打開しようと日本は対米英戦に突入」し、「この日世界の歴史あらたまる。アングロサクソンの主権、この日東亜の陸と海に否定さる」と昂奮した高村光太郎の詩歌も紹介した。有為な記者は現場に数多いのに"動脈硬化"を起こしている朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は、ネット展開でも日経新聞が一人勝ちな状況に危機感を抱くべきだね。

大学の入試制度が変わり、日本の教育は劣化の一途⁉️

田中 我が家はトイ・プードルのロッタだけだから知らなかったけど、大学入試センター試験を廃止して2021年1月に実施する大学入学共通テストが大問題になっている。ラッパーのような雰囲気の英語講師として予備校で大人気な友人の山添玉基さんからメールをもらって、文部科学省が主導する"インパール作戦"のひどさに驚愕した。失礼ながら、事なかれ主義の集団かと思い込んでいた国公私立の全国高等学校長協会も実施見送りを正式に決議した。
 「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測るために導入される民間試験を、1月の大学入学共通テストに先駆けて高校3年の4月〜12月までの期間に受けて、その結果が大学入試センターを通じて志望大学に提供される。つまり、現段階ですでに1年を切っているのに詳細が決まっていない。

浅田 独立行政法人の大学入試センターがあるんだから、そこが責任を持ってやるべきでしょう。さもなければ、昔のように各大学が独自に試験をして選べばいいんだよ。

田中 まったくだ。そもそも2次試験では筆記で解答する英文読解や英作文を各大学が行うのになぜ、ベネッセコーポレーションの子会社や日本英語検定協会に丸投げする必要があるんだ。終電で集合した後は
"夜通しオフ会"を強要されて睡眠不足のまま炎天下で酷使必至のオリパラ・ヴォランティアを牛耳って巨額の血税が流れ込むパソナグループと並んで「令和の政商」として歴史の教科書に記される頃には、教育も経済も社会も日本は"メルトダウン"どころか"メルトスルー"してるぜ。こうした「亡国の改悪」にこそ、東京新聞や朝日新聞が持ち上げる前川喜平元・文部科学事務次官は声を上げるべき。
 離島や中山間地域の高校も試験会場となっている現行のセンター入試と違って、民間試験は実施会場が極端に限られるから受験費用も交通費も馬鹿にならない。経済的新自由主義を見直そうともしない日本の田舎に暮らす貧乏人は高等教育を受けるなって話だ。しかも、1月実施の共通テストでは無謀にも国語と数学で記述式問題を導入する。50万人を超える受験生の記述答案を処理するには少なくとも1万人の採点者が必要なので、大学生のバイトで対応すると言い出す始末。「リクナビ」問題で話題のリクルートグループ同様に、ここでも寺銭を稼ぐ「令和の政商」が潤うと(涙)。
 8月の埼玉県知事選挙で街頭演説していた当時の柴山昌彦文部科学大臣に、抗議のプラカードを持って「白紙撤回」と大学生が直訴したら警察官を名乗る3人に取り囲まれ、彼のお爺ちゃんの形見だったベルトまで引きちぎられる騒動まで起きている。アホな入試改悪の前に、「G20に続いて五輪も万博も開催する国際的なニッポン」と胸を張るんだったら、インターナショナル基準で大学の入学時期を9月にすれば、豪雪に悩まされない春に実施できる。おっと、来年の猛暑には競技場に雪を降らせて「お・も・て・な・し」するそうだから、受験生は安心できないか(苦笑)。

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

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田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。