観ている人の価値観に、揺らぎを与える。問いを投げかけることが、私の役割。
2019.10.06 UP

観ている人の価値観に、揺らぎを与える。問いを投げかけることが、私の役割。

DIVERSITY

アーティストはもちろん、運営側においても新たな才能を見つけ出し積極的な起用をはかる「さいたま国際芸術祭2020」。
公募で選出されたひとり、キュレーターの戸塚愛美さんに話を聞きました。

 さいたまトリエンナーレ2016」を引き継ぎ、3年ぶり2回目となる、さいたま市で開かれる芸術祭、「さいたま国際芸術祭2020」。本芸術祭は、全国各地で開催されている芸術祭とは異なる斬新な試みで、独自性を打ち出している。

 芸術祭の多くは、一部のディレクターや、彼らによって選出されたキュレーターによって支えられている実情があるが、そこから離れ、ディレクターとひとりのキュレーターを公募で選出したのだ。

 実行委員会によってまず、全体を統括するディレクターの公募があり、そこで映画監督の遠山昇司さんが選ばれた。遠山さんは、「自分の水曜日の出来事を書いて送ると、見知らぬ誰かの水曜日の手紙が届く」という、不思議な仕組みのアートプロジェクト、「赤崎水曜日郵便局」を手がけ、2014年のグッドデザイン賞を受賞したことでも知られる。しかし、芸術祭のディレクターを担うのは、初めてのことだ。

 そして、遠山ディレクターらによって選出された公募キュレーターが、戸塚愛美さんだ。東京都内の荒川と隅田川に挟まれた、北千住エリアを中心とした地域型のアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の事務局をはじめとした活動で、一部の人には知られる存在ではあるものの、まさに「これからの人」であることは間違いない。

 芸術祭においては新人といえるこの二人を、公募で選出したということからも、文化の創造・発信の新たな担い手を見つけ育てたいという、「さいたま国際芸術祭2020」の強い思いを感じることができるはずだ。

 戸塚さんが選出された理由は、地域と密着したアートプロジェクトの経験があったことだけではない。実はさいたま市と縁が深く、今回担う公募キュレータープロジェクトの会場、旧・大宮図書館がある大宮エリアは、高校生時代の遊び場だったというのだ。当時、この大宮図書館を訪れたこともあったと振り返りながら、狭く固定された価値観の中で生きていたという、10代だった自身のことを、こう回想した。「私が10代で、大宮周辺で遊んでいたときには、このような芸術祭はありませんでした。芸術に触れる機会もなければ、知る機会もほとんどなかったです」。そして、なぜ今回の公募に手を挙げたのかを語ってくれた。「その時のことを思うと、アートにアクセスすることが少ない場所で、芸術を実践することの意義深さと責任を感じました。生活空間である場所であえてアートという異質なものを持ってくること自体が、非日常の体験を生み出すことにつながったり、さまざまな批判の能力を養うことにつながると感じました。かつての自分自身に見せたい、そんな気持ちです」。さらに、こう続けた。「アートは生活の凝り固まった価値観も揺るがすことができると思ったから」。

 「さいたま国際芸術祭2020」の独自性は、公募だけでなく、地域と芸術の関わりにも見ることができる。アートが地域に何をもたらすのかを追求してきたのが、これまでの芸術祭だとすると、その逆。地域が芸術に対して何をもたらすのかに着目しているのだ。

戸塚さんが担当する会場、旧・大宮図書館(左上)の前には、氷川神社の参道(右)が通っている。本がなくなり、がらんとした図書館の2階内部(左下)と1階。ここが展示会場に生まれ変わる。
戸塚さんが担当する会場、旧・大宮図書館(左上)の前には、氷川神社の参道(右)が通っている。本がなくなり、がらんとした図書館の2階内部(左下)と1階。ここが展示会場に生まれ変わる。

 戸塚さんもまた、10代の頃の記憶だけではなく、改めて今さいたま市という地域について、向き合っている。この地域には、130万人が暮らす生活都市という、大きなひとくくりの言葉では見えてこない、具体的な顔がある。「さいたま市に暮らす人たちは、なぜこの土地を選び、日々の暮らしを営むのか。何に喜びを感じ、何に不満を感じているのか。対話を通じて、この地域を知ろうとしています」と彼女は言った。

 さいたま市、特に大宮エリアが気鋭のアーティストたちにどんな影響をもたらし、どんな作品が生み出されるのか。現時点の構想を聞くと、「まだこれから」としたうえで、ひとつだけ決まっていることがあると明かしてくれた。それは、観る人に問いを投げかけるということだ。

 「答えを示すのではなく、問いを投げかけることが私の役割。私にとって、展覧会とは問いを投げかける場所で、あらゆる実験の場所だとも考えています。この展覧会が、アートが地域にどんな意味をもたらすのかを試すひとつの検証の場となれば」

 彼女の選んだアーティストの作品を目にする時、いったいどんな問いかけが私たちの元に立ち上がるだろうか。そして、その問いかけに対して、私たちはどんな答えを自分の中に持つのだろうか。

さいたま国際芸術祭2020 ─Art Sightama─
 「さいたまトリエンナーレ2016」を引き継いで、さいたま市で開催される芸術祭だ。会期は2020年3月14日(土)〜5月17日(日)の65日間。「さいたま文化」の創造と発信、さいたま文化を支える「人材」の育成、そしてさいたま文化を活かした「まち」の活性化を目的としている。前回の芸術祭で生まれた芽を花咲かせるために。「花/flower」が芸術祭のテーマに掲げられている。

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Mao Yamamoto
text by Maho Ise

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戸塚 愛美

とつか・まなみ
1992年千葉県生まれ。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業。キュレーター。東京都足立区の北千住エリアを中心とした地域型アートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」事務局、一夜限りのアートイベント「六本木アートナイト」実行委員会事務局など、地域に根ざした芸術文化事業に携わる。ライフワークとして、「なぜその人がその人たりえるのか」という問いについて思考している。